カシミール紛争に透けるモディ首相の選挙戦略


【出典】PTI通信より

パキスタンとの領土問題

インドの王冠とも称されるカシミールは、1947年の独立以来その帰属を巡ってパキスタンと争っています。インド国内で唯一イスラム教徒が多数派を占める州となっており、現在はその治安維持のため7万を超える治安部隊が駐留する最重要拠点の一つです。憲法上は独立自治を認められていますが、実際にはインド中央政府の統治下にあり分離独立を求める人々と治安部隊との衝突が常態化している地域です。

【出典】Wikipediaより

カシミールを巡る中国の思惑

地理的にはカシミールはパキスタンの他に、東方では中国と領有権を争うアクサイチン隣接しています。アクサイチンは1962年の中印国境紛争の結果、中国が実効支配する地域です。中国政府がこの地域に強い関心を持つにはいくつかの背景があります。一つは、天然資源を有する地域であること。二つ目は「真珠の首飾り」戦略に表されるように中国本土からインド洋を経てスーダンまでの海上交通路を支配するに当たって、インドの軍事的なリソースを北部に集中させたいということです。これについては、中東からのシーレーンにおいて軍事的なプレゼンスを高めたい米国との利害とも一致します。

【出典】Wikipediaより

安全保障上の課題を強調するモディ政権

2019年の総選挙へ向けて、足元のマクロ経済環境は原油高、インフレ上昇基調、ルピー安、金利上昇とマイナスのスパイラルへ入りつつあり厳しいものがあります。また、今年5月に開催されたインド南部州の議会選挙においても野党国民会議派の連立政権に敗れました。

従来から、BJPはヒンドゥー至上主義を掲げておりカシミール問題ではカシミールの自治を規定する憲法上の規定(第370条)を撤廃し、インド統治の政治的な統合を目指しています。しかしながら、モディ政権が本課題に対してあまり優先順位を高く設定していないことに対して不満も出ています。

モディ政権を擁立する与党BJP(インド人民党)とカシミールの地域政党PDP(人民民主党)は、2014年来連立政権として同州を統治してきましたが、BJPは2019年の総選挙へ向けてよりヒンドゥー至上主義的な理念に立ち返り、統合していく方針を掲げておりその一環としてBJPとPDPの連立は本年6月に決裂しました。今後政府としてはカシミール地域のみならずインド国内の反政府勢力に対しては、武力による実力行使を含む厳しい手段を用いて対抗していく方針です。

モディ政権としては、このカシミール地方の領土問題に関して安全保障上の危機を煽り総選挙へ向けて国内の求心力を高めるために利用したいと考えています。

今後のカシミール紛争の行方

上記の状況を鑑みると、モディ政権は2019年総選挙までは少なくとも、分離独立派に対しては厳しい姿勢を継続していくと考えられます。むしろ彼らに対してはインドの治安を脅かす因子として、今後も治安部隊による弾圧の継続、もしくは武力によるよりこれまで以上に厳しい制圧を行っていくでしょう。これにより、現地での民間人もしくは治安部隊の死傷者数は増加することも十分に想定されます。


鈴木慎太郎
鈴木慎太郎


米国公認会計士。SGC(スズキグローバルコンサルティング)代表。2010年5月よりニューデリー(インド)在住。40社以上のインド拠点設立、100社以上のインド・会計税務にかかるコンサルティングに従事。2016年よりスズキグローバルコンサルティングを設立し独立。日本企業向けにワンストップでインドの拠点設立・会計・税務・法務をカバーする総合コンサルティング事務所を経営。 URL: https://www.suzuki-gc.com

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