防災@Society5.0の社会実装に向けてーある社会学者の挑戦(その1)ー


2016以来、毎年六月に開催している「絆シンポジウム」も、今年で三回目を迎えた。その疲れの残る翌日の18日に、大阪北部地震が発生。大量の帰宅困難者を生み、ガスや水道・鉄道などのインフラに大きな被害をもたらした。発生時刻や震源地が幸いして行政機関が昨日喪失することなく、また死傷者も少なくて済んだものの、南海トラフ地震や首都直下地震が発生した場合、これをはるかに上回る被害が発生することは間違いない。

3.11以降、国や自治体、企業によって、様々な危機対策が行われてきた。しかしながら、民間の義援物資を効果的・効率的に活用する仕組み、官民を問わず全ての避難所からの情報を収集し共有する仕組みには、穴があった。大規模災害の発生時には、自治体や企業が機能不全になる、あるいは、そうしたセクターの持つ資源だけでは十分な支援ができないような事態が発生する可能性が高い。だとすれば、情報共有をもとにした様々なセクタとの協力関係が可能な環境を、用意しておく必要がある。

さて、大阪の地震の後で発生した現象については、二つの疑問がある。その一つは、地震のために鉄道網が機能不全となり、大渋滞が発生しているにもかかわらず、ほとんどの人が出社し、帰宅難民になったことである。

いま一つは、あれだけの混乱がありながら、インバウンドが受けた被害について、ほとんど報じられることがなかったことである。交通機関が麻痺した時、這ってでも会社に出るというのが、3.11を経験した日本社会の、変わらぬ常識なのだろうか。大阪府がこれまで講じてきた外国人観光客向けの対策が、今回の地震で生かされたのだろうか。

「一葉散りて天下の秋を知る」という言葉がある。大阪の地震を契機に、小生が構築した避難所情報収集システムと義援物資マッチングシステムは、それぞれ別の企業の持つシステムを通したサービス提供が決定した。

だが、今年のシンポジウムで議論した、インバウンドの二段階帰国スキームと、民民の契約による一時滞在施設の確保、そして、被災者・帰宅困難者の属性別・状況別の避難誘導システムは、情報資源もプレイヤーも技術的可能性も十分であるにもかかわらず、実装はおろか構築の目途すら立っていない。

今、世界で進行しつつあるインダストリーX.0は、IoTが実現する需要主導型の生産工程と「所有から使用へ」の価値の転換に象徴される成果型エコノミー、高度な情報技術が可能とするリビング・プロダクトとハイパー・パーソナライゼーション、そして、急速に変化する市場のニーズを満たすためのイノベーションの常態化に対応して顧客満足とを上げるためのソフトウェアの開発という観点から、卓越し創造性をもって顧客体験に革命を起こすことを可能としている。もはや企業は市場変化や顧客の好みに対してリアルタイムでの反応を可能にするシステムを装備することが、必須となりつつある。

これをリアル空間に適用すれば、インバウンドの急増などもあって、観光地での渋滞や混雑が増す日本において、平時は一人一人の観光客の満足度を向上させるために、限られた時間でその人に合わせたストーリーに基づいた観光スポット巡りの誘導を行い、災害時には属性別・状況別に適切な情報提供を行い最適なタイミングで最適な経路を辿って適切な非難を実現する情報環境の提供が、IoTの時代を迎えた日本に求められている、ということになろうか。

2020に向けて、様々な準備が行われている。しかし、平時の観光客誘導と非常時の避難誘導を、一人一人の属性別・状況別に行う仕組みの構築と実装についての具体的な動きは皆無であるし、災害弱者となるインバウンドを速やかに帰国させるための、業界を横断した活動も具体化されていない。縦割り組織や自前主義を捨てて、顧客体験を中心とした発想に基づき、その時点で最適な技術を持つ企業でエコシステムを形成し、シームレスなサービスを提供し続けることのできる、新たな仕組みを作り機能させることが、求められている。


天野徹
天野徹

明星大学人文学部人間社会学科教授。
専門は、情報社会学・社会統計学・都市社会学。東京都立大学大学院博士課程単位取得中退。社会学をベースに、文理融合・問題解決の知のあり方を追求してきた。(財)あしたの日本を作る協会の委員として、webサーバーを立て、「地域づくり運動情報データベース」を構築・公開。社会調査の領域に、ハイパーテキストを活用したプレゼンテーション作りや、3Dモデリングによる景観シミュレーションを導入。東日本大震災の後、自ら提唱したコミュニティ・ネットワークの理論をもとに、災害レジリエンスを備えた社会システムと、それを実現するための情報システムを構想。PHP、Java Script、CSSなどを用いて、義援物資マッチングシステムと避難所情報収集システムを構築し、サービスを公開。現在は、インバウンド等の災害対策として、AIを活用した被災者・帰宅困難者誘導システムの構築・一時滞在施設確保のためのビジネスモデルの構築と社会実装に取り組んでいる。

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