「インターネットの歴史から考えるインターネットビジネスの本質」連載シリーズ<第6回>「グーグル」-「Don’t be evil.」.-(その1) 


本連載で採り上げる2社目のインターネット企業はグーグルです。

グーグルという会社は、調べたり、考えたりすればするほど面白い会社だという気がしてきます。一応「証券アナリスト」の資格を持っている者としては、企業のことを考えるときに最初に心がけるのは、「要するに、この会社のDNAは何なんだろう?」と言うことですが、グーグルの場合、まず企業理念、創業の目的・・・それを端的に物語っているのは社名でしょう。

グーグルという名前は、10の100乗 (10100) を表す1グーゴルに由来します。

1グーゴル= 10100= 10, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000, 000 、

つまり「もの凄く大きな数字」ということです。こうした社名で創業されたということは、グーグルの創業者であるラリー・ペイジとセルゲン・ブリンがマイクロソフトのビル・ゲイツ、アップルのスティーブ・ジョブス同様プログラマー出身であり、またさらに彼らに比べてずっとエンジニア寄りであること、そしてグーグルという会社自体がマイクロソフトやアップルや、そしてアマゾンやフェイスブックよりも、ずっとテクノロジーを重視した会社であることを示しています。グーグルは傑出したエンジニアの会社なのです。
 
そして、筆者が考えるグーグルのもう一つの特徴は、ITジャイアントの中でも「マネジメントが上手な会社」「本当に賢い経営者に率いられている会社」であると言うことです。

グーグルは、創業以来、会社の成長段階にフィットしたマネジメント体制に変更しながら、成長を遂げていきます。

1998年の創業当初は、エンジニアの創業者2人に率いられて検索エンジンの開発に突き進みました。そして検索エンジンがYAHOO!に採用され、検索エンジンと共にグーグルの屋台骨を支える広告モデル、アドワーズ(後述)が開発された段階である2001年には、2人の創業者よりはずっとビジネスパーソン寄り(実は出身はプログラマーらしいのですが)で18歳年長(1955年生まれ。因みにビル・ゲイツもスティーブ・ジョブスも更に言えば筆者もこの年生まれ)のエリック・シュミットをCEOに迎えた三頭政治体制に移行します。シュミットの下、マネジメント寄りの体制で「会社経営」「株主対応」にも配慮し2004年の株式上場を果たすのです。

そして2015年には、持株会社であるアルファベットを設立して、生命科学、投資キャピタル、研究など直ぐには収益に結びつかないような中長期の多角化事業を検索関連のIT企業であるグーグルとは分離した子会社群にします。持株会社のアルファベットについては、創業者の1人であるラリー・ペイジが再び経営トップ(アルファベットCEO)に返り咲くことによって、グループ全体としては再び子会社群での「開発」に重点を移しました。

このように、会社の発展段階に合わせて経営トップ、経営形態を上手く変えながら、しかも三頭政治の3人は仲たがいするでもなく(現在のグループCEOがペイジ、社長がブリン。シュミットも顧問として名を連ねている)今に至っています。現在の企業業規模の大きさ、成し遂げてきたことの大きさを考えるとき、設立してから20年しか経っていない会社であることも驚きですが、20年間安定したガバナンス体制を守っていけていることは本当に凄いことです。いくつかのベンチャー企業(あるいはベンチャー的な企業)で、経営陣の路線の違いなどの仲違いの経験がある筆者としては、本当にこの会社の経営陣は「頭がいいんだろうなぁ」「大人なんだよな」と思うと同時に、こうしたことの背景には、きちんとした会社としての基本的な軸、つまり経営理念がその背後にあるからなのだろうと考えるのです。

先取りして言うと、今回グーグルの回のサブタイトルにしている「Don’t be evil.」(邪悪になるな)という強烈で有名な、非公式スローガンがこの会社のDNAと言って良いでしょう。

上記については、記述の部分部分で詳述していきますが、以下は、まずはグーグルをグーグル足らしめている根幹のプロダクトである検索エンジンについて少し考えてみることにします。

検索エンジンの歴史を紐解くと、簡単に言えば、1990年代に先行していたYAHOO! をペイジとブリンが開発した圧倒的に優れたテクノロジーで2000年以降グーグルが追い越し今に至っていると言うことです。YAHOO! は一旦検索エンジンの覇権を確立した1990年代の後半以降、会社の方向性や開発資金をポータルサイトの運営に振り向け、検索エンジンについては他の優れた検索エンジンを持つ会社の買収やグーグルの検索エンジンの採用といった外部戦力の活用に向かいます。

これに対してグーグルは徹底的に検索エンジンの開発にこだわり続けます。グーグルの検索画面とヤフー(YAHOO! Japan)を比較してみれば一目瞭然です。ヤフーはポータルサイトなので、ニュースを始め、様々な情報が詰まっており、ヤフーショッピングを始め、ヤフー自体の様々なビジネスに利用者を引き込むことを目的としています。まあ、普通の情報サービスの会社ですね。

ところがどうです、グーグルの検索ページは・・・。基本的に検索の窓があるのみ、せいぜい「Google」のロゴを使って何かの記念日に遊んでみる、極めて質実剛健なものです。

そもそも、インターネット上にある様々な「情報サービス」の会社と言うのは、一言で言えば「メディア」ということになりますが、グーグルのメディアとしての姿勢は他のインターネット上のメディアとは大きく違います。喩えて言えば、ヤフーなどがTVのワイドショーだとすれば、グーグルはひたすら真実を追い求めるピューリッツァ-賞対象のノンフィクション番組みたいなものです(最近の日本のTVではノンフィクション自体も「やらせ」の問題が出てきていますが・・・)。あるいは飲食業に喩えれば、ヤフーなどが顧客の好きそうな料理を沢山揃えたバイキングだとすれば、グーグルは顧客のニーズを聴き、好みを過去の注文によって熟知することによって、ひたすら「顧客の今望むものは何なのか?」をベースにそれを最高に美味しく提供しようとしているかのようです。

因みに、ヤフー他のネット上の情報サービスサイトが、顧客のサイト上の滞在時間を出来るだけ長くする、その「滞在時間の長さ」をビジネス上の源泉とし広告ビジネスや他のサービスへの誘導を意図しているのに対し、グーグルは自らのサイトへの「滞在時間の短さ」を究極的に追及しているとも言えましょう(この点については、グーグルのビジネスについて追って記述します)。

グーグルはひたすら検索の質にこだわっているのです。今でも膨大な資金と、他の追随を決して許さない開発陣容によって日夜検索エンジンの改善に突き進んでいます。SEO(Search Engine Optimization)の会社との「抗争」に負けるわけにはいかないのです。

それはなぜなのでしょうか?それは冒頭に書いた「会社のDNA、経営理念」に関わることだからです。

「Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることです。」これがグーグルのHPの「Googleについて」の冒頭に出てくる言葉です。この言葉はサラっと書いていますが、本当に含蓄の深い言葉です。

この言葉について多少解説をすると、以下のようになります。

 ①「使命」であること、つまり会社の絶対的な価値基準を表していること
 ②「世界中」であること、つまり情報を選り好みせず、顧客を選り好みせず、「世界中の全ての情報」を「世界中の全ての人々」に届けること
 ③情報を「整理」し「アクセス」出来るようにすること、「整理」は原語の英語では「organize」となっており、類義である「arrange」に比べて、使える」という意味であり、つまり利用者が本当に欲しい情報を届けること

質実剛健な検索ページの理由がこれでお分かりですか?利用者が本当に必要な情報を整理し、「操作」することなくフェアに、世界中の全ての人々に届けること・・・崇高とも言える、メディア企業としての矜持が窺えるではないでしょうか。

国家や自社のビジネスに左右されない、正に「Don’t be evil.」 の姿勢が、グーグルの会社としてのDNAだと言うことなのです。

さて、普通の情報サービスの会社であり、一時はインターネットでの情報サービスや検索エンジンの覇者であったYahoo!は、日本のヤフーはソフトバンクの1子会社として、それなりに存在感を示していますが、親会社自身は2016年に米通信大手ベライゾン・コミュニケーションに買収され、傘下のAOLと統合されることとなりました。

エンジニアの会社であり、「Don’t be evil.」 の会社であるグーグル(正確には持株会社であるアルファベット)は世界中の全企業の中で、マイクロソフト、アマゾンと並んで2位グループを構成するほどの会社となり、今でも成長を続けています。子供の頃に学んだ言葉、「正義は勝つ」を思い出すのは筆者だけでしょうか?

もう紙幅が尽きてしまいました。次回は経営理念についての多少の補足、そしてグーグルがインターネット世界に与えた最初の貢献・・・「ネット検索」について、次回もう少し述べたいと思っています。


    小寺 昇二
    小寺 昇二

    埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授
    2014年より埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授。授業担当は「e-ビジネス論」「財務管理論」「スポーツ経営」「地域経営論」「現代経済論」「現代経済史」等。ラグビーチーム一般社団法人横河武蔵野アトラスターズ監事、埼玉県深谷市総合計画策定審議会委員。NPO法人日本公共利益研究所コンサルタント。

    小寺 昇二の記事一覧