防災@Society5.0の社会実装に向けてーある社会学者の挑戦(その2)ー


東日本大震災では、発災直後から様々な報道が、そして、支援活動が展開されたが、「入りやすいところに入り、助けやすいところを助ける」という姿勢が情報そして支援の偏りを生み、後々の問題となった。

災害時の通信途絶を考慮して、内閣府は準天頂衛星「みちびき」の通信回線を用いてマイナンバーを用いた個人認証付きの情報を収集するシステムの構築を行っている。自治体レベルでも、被災者情報を収集するためのシステムの運用は始まっているが、それらは公的避難所を対象にした限定的なものであり、その情報をそのまま民間人と共有することはできない。また、災害時には往々にして、宗教やアレルギーなど特殊な条件を持つ人が存在する、けが人や妊産婦が発生する、備蓄のない物資が必要になる等、想定外の事態が発生する。

すべての被災者にとってより望ましい状況を作るシステム

このことを考慮すれば、大規模災害発生時に最も必要なのは、公的私的を問わず全ての避難所から、通信途絶のない衛星回線を用いて必要な粒度の情報を集め、支援リソースを持つ機関・団体が協調しながら活動を展開できるようにすることで、すべての被災者にとってより望ましい状況を作りあげること、ということになる。

このような考えの下、小生は避難所情報収集システムを構想・構築し、運用を行ってきた。このシステムは、googleなどの検索エンジンから簡単に見つけることができ、ログイン画面にある利用申請から必要な情報を入力し、管理者による避難所確認とユーザー登録が済めば、誰でも使用を開始することができる。

避難所に滞在する被災者の属性は、支援活動を展開する上で必要最小限の粒度に抑えられているので、個人情報をめぐる問題は発生しない。また、特記事項にアレルギーや宗教など特殊な条件を持つ人の情報を、登録することができる。

さらにこのシステムには、避難所で必要な物資を登録することもできる。これらの機能により、支援側はどこに避難所があり、それぞれの避難所にはどのような支援や介護・医療措置を要する人がいるか、どのような物資がどれだけ必要とされているかについての情報を共有し、それぞれの団体・機関が得意な分野を組み合わせるための戦略を、立案できるようになるのである。こうしたプロセスを経て、支援団体・機関の間での役割分担と協働が行われる中で、自己組織的に被災者支援のエコシステムが形成され、状況の変化に応じた最適化が相互調整の中で実現することが期待される。

要請された物資が充足したことを通知する機能

さて、阪神大震災以降の義援物資をめぐる大きな問題は、被災地での需要が満たされた後もそのことを知らせる術がなかったために、被災地に大量の物資が集まり、これが被災者支援を阻害したことだった。

このような事態を避けるために、我々のシステムでは要請された物資が充足したことを通知する機能を持っている。充足完了の情報は、すぐさまデータベースに反映される。支援側はそれぞれの避難所から要請された物資について、要請日・その時点での充足状況・その時点での物資募集状況について、随時確認することができる。したがって、発送する前に必ずこの機能を使って募集中のもののみを発送することにすれば、物資の過剰な集中を避けることができるようになるはずだ。

こうした機能を持つ避難所情報収集システムは、民間企業によって、衛星wifiを通したサービスに組み込まれて、一般に提供される方向で、検討が進んでいる。次の大規模災害までにこのシステムがより多くの人に知られ活用されることで、被災者支援活動がより効果的・効率的なものになることを期待したい。


天野徹
天野徹

明星大学人文学部人間社会学科教授。
専門は、情報社会学・社会統計学・都市社会学。東京都立大学大学院博士課程単位取得中退。社会学をベースに、文理融合・問題解決の知のあり方を追求してきた。(財)あしたの日本を作る協会の委員として、webサーバーを立て、「地域づくり運動情報データベース」を構築・公開。社会調査の領域に、ハイパーテキストを活用したプレゼンテーション作りや、3Dモデリングによる景観シミュレーションを導入。東日本大震災の後、自ら提唱したコミュニティ・ネットワークの理論をもとに、災害レジリエンスを備えた社会システムと、それを実現するための情報システムを構想。PHP、Java Script、CSSなどを用いて、義援物資マッチングシステムと避難所情報収集システムを構築し、サービスを公開。現在は、インバウンド等の災害対策として、AIを活用した被災者・帰宅困難者誘導システムの構築・一時滞在施設確保のためのビジネスモデルの構築と社会実装に取り組んでいる。

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