防災@Society5.0の社会実装に向けてーある社会学者の挑戦(その3)ー


東日本大震災の発生から一年後、被災自治体で調査を行った私が実感したのは、次から次へと送られてくる義援物資への対応に追われ疲弊する被災自治体であり、要請された物資の調達に手間取っている間に被災地の需要が変化してしまうという事実だった。支援する側も、支援を受ける側も、間に立って「後方支援」を行った自治体・団体も、その場で最善と思われることをした。しかしながら、「気持ち」だけでは、問題を解決することは不可能だった。その中で、スマートな支援活動を展開したのは、仙台市社会福祉協議会だった。

彼らは
1.自らを後方支援基地に設定した上で、
2.支援先の避難所群から必要な物資の情報を集め、
3.他都道府県にある四つの遠隔支援基地に物資の収集を要請。
4.それぞれの遠隔支援基地で収集・仕分けした物資について次の日に「必要なものを必要な量だけ」要請し、
5.届いた物資を避難所毎に仕分けした上で、
6.一日ですべての物資を配りきる、
という方法を貫くことで、混乱を未然に防ぎ、過不足のない支援活動を実現したのである。

そうした活動が可能だったのは、リーダーたるM氏を中心に、情報収集、遠隔支援基地での物資の収集、マッチングした上での後方支援基地への発送と、後方支援基地での物資集積所の確保、および、各避難所への配送に至る一連の作業が、完全にマネージメントされていたからである。

しかしながら、こうしたシステムを発災後に作り上げることは、難しい。だとすれば、平時から自治体間で支援─受援のネットワークを作っておいて、災害発生時に資源動員ネットワークとして機能するようにしておく必要がある。さらに言えば、自治体内で担当者が変わっても、支援活動が支障なく行われるように、
1.自治体内での災害時の協力関係と、
2.自治体間の支援─受援のネットワークを情報システムの中に登録しておくことが望ましい。

そうした繋がりが、市町村の間で、そしてセクターを超えて、重層的・多元的に形成されていることが、災害大国日本にレジリエンスを備えた社会システムを実装する上で、最も重要なポイントになるのではなかろうか。

東日本大震災後行われた被災地支援活動の調査から、そのようなことを学んだ小生は、先に示した支援モデルを情報面からサポートする情報システムを構想し、構築し、民間サーバーを用いて、サービスの無償提供を開始した。このシステムは経産省事業の成果に基づいた物資コードに、ボランティアの種類別コードを加えることで、被災地支援に必要な物的・人的リソースのマッチングが行えるようになっている。

自治体内で災害時の連携を結んでいる企業・団体を、平時から一つのレイヤー上に登録しておく。さらに自治体間の連携も、別レイヤーとして平時から登録しておく。そして一旦災害が発生したら、自治体間ネットワークの中で「後方支援基地」と「遠隔支援基地」を設定する。

その上でまず

(1)後方支援基地では担当する避難所から収集された情報を整理して、自治体間のネットワークレイヤーの情報共有掲示板機能を使って遠隔支援基地に要請する。

次に
(2)遠隔支援基地では自治体内のネットワークレイヤーの掲示板を通して地域内の連携企業・団体に提供できる物資の登録を依頼するとともに、地域内で広報を行って義援物資を募集する。
(3)遠隔支援基地では集まった物資は仕分け・梱包し、梱包単位ごとに自治体間ネットワークレイヤーのシステムに登録する。
(4)後方支援基地では、各遠隔支援基地が集めた物資の中から必要なものを必要な時に必要なだけマッチングして送ってもらう。
(5)後方支援基地では宅急便業者などに依頼して、各避難所に物資を届ける。

このようにすれば、どの自治体・団体・機関であっても、仙台市社会福祉協議会と同様の活動を、展開することができる。ただし、それが機能するためには、広域での団体連携と、物資の保管場所、仕分け人員と輸送手段の確保など、情報環境以外の面での、平時からの備えが前提条件になる。

さて、このシステムはマッチング機能に加えて、「荷札出力機能」、「状態管理機能」、「在庫管理機能」、「受援実績管理機能」などを備えているので、平時からの活用も可能である。防災訓練時に支援と受援のシミュレーションを行うだけでなく、子供食堂や運動会その他、様々なイベントにおける物資の調達や備品の使いまわし、ボランティアの動員など、応用範囲は広い。

先に発生した大阪北北部での地震を受けて、義援物資マッチングシステムの機能は、某企業が展開する総合防災システムの組み込み機能として、社会実装されることとなった。このシステムが多くの自治体・団体に知られ、使われることによって、一人でも多くの被災者を救う活動に、情報面から貢献できるとしたら、これに勝る喜びはない。


天野徹
天野徹

明星大学人文学部人間社会学科教授。
専門は、情報社会学・社会統計学・都市社会学。東京都立大学大学院博士課程単位取得中退。社会学をベースに、文理融合・問題解決の知のあり方を追求してきた。(財)あしたの日本を作る協会の委員として、webサーバーを立て、「地域づくり運動情報データベース」を構築・公開。社会調査の領域に、ハイパーテキストを活用したプレゼンテーション作りや、3Dモデリングによる景観シミュレーションを導入。東日本大震災の後、自ら提唱したコミュニティ・ネットワークの理論をもとに、災害レジリエンスを備えた社会システムと、それを実現するための情報システムを構想。PHP、Java Script、CSSなどを用いて、義援物資マッチングシステムと避難所情報収集システムを構築し、サービスを公開。現在は、インバウンド等の災害対策として、AIを活用した被災者・帰宅困難者誘導システムの構築・一時滞在施設確保のためのビジネスモデルの構築と社会実装に取り組んでいる。

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