海外教育コラム(第1回 東大より全米100位大学)


数年前、「東大よりハーバード大を目指す高校生が出てきた」と、ちょうど東大の世界ランキングが急降下しだした時期と重なったこともあって話題になった。開成、灘、渋谷学園といった私立校から毎年海外のトップ大学に進学する高校生が出てきている。筆者の周りでも友人の子女が海外大学に合格したという知らせを毎年耳にするようになった。東大を筆頭とする日本の大学がグローバル化を含む社会の急激な変化に取り残される中で、トップ学生が日本の大学を見捨てる兆しが出てきた。

そもそも昔は東大を出ればおよそ希望する就職ができ、一旦大企業に就職すれば一生安泰だったために、東大の世界ランキングなど考える必要もなかった。日本で評判が一番の大学で偏差値が一番高い限り、世界における相対的な地位などどうでもよかった。しかし、日本経済が長期低迷し、人気就職先の大企業がグローバル市場で軒並み凋落する中で、東大卒でも希望する就職や安定した高収入を期待できなくなった。2、30年前は、東大卒ならNTT、NEC、日立、大手銀行、大手商社、大手ゼネコンなど日常生活や広告で目にする大企業に就職できた。ゴールマンサックスやマッキンゼーなど日本で活動する外資系有名企業にも就職できた。けれどもApple、Facebook、Google、You Tube、Instagram、Microsoft、Intelという日常利用しているサービスの提供会社に東大を出ても就職できるわけではない。

今時日本に今後4~50年間安定して成長すると期待できる会社など見当たらない。仮にあったとして、そういう会社で必要とされ続けるのはグローバル市場で同社を持続的に成長させる能力がある人材に限られるだろう。こういう能力、または、個人が長期間幸せであるために転職や起業が不可欠だとすれば、転職市場で評価され、または起業に求められるスキルと能力を提供してくれる大学にこそ、成長期の貴重なエネルギーと時間、そしてお金を投資する価値がある。日本の企業側も、これまで新卒一括採用で終身雇用を前提に必要な人材教育を企業内で行ってきたが、若手の転職が増えることで投資しがいがなくなり、また、株主からのプレッシャーでその余裕もなくなり、人材育成における大学との役割分担を見直さざるを得なくなってきた。かくして教育内容ではなく卒業証書に高い価値があった時代は過去に追いやられつつある。仮に大学が無償化されたとしても、卒業証書に価値が無くなれば、形骸化した大学よりもむしろ実践的な教育を提供する専門学校に価値が生まれてくる。

このように日本の大学と大企業や官庁との固有の蜜月関係が終焉する中で、将来のさらなる経済のグローバル化を想定すると、ハーバード大どころか、全米50、いや、100位の大学ですら東大を蹴って行く価値が出てきている。

こうなると、キャリアプランを真剣に考える日本の高校生ほど日本の大学受験にこだわらず、最初から米国を含む海外大学を目指すようになる。そのための受験指導に受験産業が目を付けるのは至極自然の流れだ。当然、大学、高校も需要に合わせて変化することを求められる。ただ、ここでは日本の教育制度への提言を行う事が目的ではないので深入りせず、海外教育にフォーカスする。

Nicheという教育情報サイトの2018年度ランキングで言えば、全米50位から100位の大学は、
ニューヨーク大学(53位)
リード大学(64位)
マカレスター大学(78位)
ボストン大学(86位)
ワシントン大学(92位)
というところだ。

最近立命館大学が提携を発表したアメリカン大学が150位とされている。短期留学ではなく正規に入学してしっかり勉強し、そこそこいい成績で卒業する事を前提とする限り、150位以上の大学であれば日本のトップクラスの大学以上の教育を受けられるのではないか(あくまで推測だが)。ニューヨーク大学、ボストン大学は日本でも有名だが、他の大学は聞いたことがないかもしれない。リード大学はスティーブ・ジョブズが半年通った大学だ。

こういった質がいい教育を提供する大学に日本から入学するのはある意味で容易だが、ある意味で難しい。

容易といったのは、米国の大学全般に当てはまることとして、日本人の留学生が他国に比べて圧倒的に少なく、留学生比率を高め、かつクラスの多様性を確保しようとする大学は同程度の成績なら日本人を他のアジア出身者より優先して入学させることが期待できるからだ。他方、難しいといったのは、これくらいのハイレベルの大学であれば授業を理解し、クラスメートと議論し、いい成績を残すためには高い英語のコミュニケーション力が要求されるからだ。日本人が海外留学するための最大の難関が英語にあるというのは、おそらく明治時代から変わらないだろう。

筆者は長女が生まれた2000年の時点で長女に海外の大学に進学できるよう教育したいと思っていた。そしてバイリンガル教育を行い、長女とその三年後に生まれた長男はともにバイリンガルになった。日本政府は使える英語教育を目指して小学校低学年からの英語必修化を発表した、英語教育に力を入れつつある。こういう状況でそれほど早くから英語教育を行わなくても制度化を待てばいいのではないかという声も聞く。だが、もし公教育で英語に力を入れるとみんなのレベルが上がり、海外留学生が増え、かえってトップ大学への入学は難しくなる。これは英語に力を入れたお隣の韓国に起こっている現象だ。ただ、日本ではこれも杞憂に終わる。10数年前も同じような動きがあったが、相変わらず政府の動きは遅く、電車には英会話学校の広告が溢れている。海外の英語レベルの向上以上に日本の公教育の英語レベルが向上するとは思えない。子供の英語教育は躊躇することなく親が自主的に行うべきだ。これから計6回の連載で筆者が子供のバイリンガル教育を行う中で触れた興味深い海外教育をご紹介したい。


玄君先
玄君先


神戸市出身。私立灘高校,東京大学法学部、UC Berkeley LLM,三井安田法律事務所,西村あさひ法律事務所,モルガン・スタンレー証券,メリルリンチ日本証券、リーマン・ブラザーズ証券を経て弁護士法人港国際法律事務所代表、シンガポールにてEntrehub Serviced Officeを運営。シリコンバレーにてMicro Venture CapitalのTaimatsu Venturesを設立し、スタートアップ企業に投資中。

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