オープンガバメント通信・第2回 オープンガバメントをめぐる組織体制の整備



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オープンガバメントの3つの原則

オバマが署名した覚書において、オープンガバメントについては、以下の3つの原則が掲げられていた。

透明(Transparency)
参加(Participation)
協働(Collaboration)

まずは、政府は透明であることが謳われた。各省庁はその執行や決定につき情報をオンライン化し、公衆が容易にその情報を利用できるようにしなければならないとされたのである。また、連邦政府によって保有されている情報は国の財産であることが確認され、その財産へ公衆が容易にアクセス出来るような形式で情報提供しなければならないとされた。これが後のオープンデータの取り組みの根拠となっていく。

次に、政府の政策決定過程への国民の参加が謳われた。知識は社会に広く分散しており、その知識を政策決定過程に反映させるためにも政府への参加の機会の拡充が必要となるとされたのである。これは、いわゆる集合知の議論とも関係するところで、オバマ政権のオープンガバメントの取り組みの中で活躍することになる人物の一人は「wiki government」と称して、オープンガバメントの実相を表していた。

最後に、政府は協働を推進しなければならないとされた。いわゆる公的な仕事とされた仕事について、民間部門のあらゆる主体と政府が協働して、その提供にあたるというのである。そして、協働の実践の場面で、ICTをはじめとしたあらゆるツールを活用するとされている。この協働の取り組みを介して、様々なビジネスが発展していくことになる。日本では、このような場合のビジネスは結局のところ政府の補助金頼りになってしまうのであるが、アメリカの場合は政府との協働を通して自立的なビジネスが立ち上がっていくところに大きな特徴がある。

ICT活用の背景

このオープンガバメントの実現におけるICTへの着目の背景には、オバマは選挙戦を勝ち抜く上で、ICTを最大限に活用したことがあげられる。必ずしも有力な候補ではなかったオバマが予備選挙から本選挙を勝ち抜く上で、ICTの力を最大限に活用したとされている。The Urban Folks主筆の渡瀬氏がアメリカ大統領選挙におけるICTの活用について詳しいため、いずれかの機会には解説がなされると思うが、アメリカでは特に大統領選挙戦においては最新のテクノロジーが活用されている。とりわけTVやインターネットを活用した選挙キャンペーンが盛んに行われ、そこでの成果がビジネス分野でも応用されるということが起きているのである。そのような中で、オバマは選挙キャンペーンにおけるイノベーションをICTの活用により実現し、大統領の座を射止めたのである。それゆえ、大統領就任時には、ICTの力を最大限に活用しようとしたのも当然の成り行きであった。

なお、オープンガバメントが謳われた覚書自体、大統領選挙の期間中から準備されていたものである。2007年1月にキャンペーン中に公開した「BARACK OBAMA ON TECHNOLOGY AND INNOVATION」 の中で、テクノロジーを活用した情報の積極的公開、説明責任、国民参加の実現が謳われ、さらに政府の改善を実現するためにCTO(Chief Technology Officer)を任命することが掲げられていたのである。

実際に、オバマは大統領に就任すると、オープンガバメントの取り組みを技術的に主導する立場としてCTOを任命することとした。これには、ヴァージニア州でCTOを務めていたAneesh Chopraが充てられた。さらに、それまで法律上は任命することになっていたにもかかわらず任命されていなかった政府の情報部門の最高責任者である連邦政府CIOも任命した。これには、ワシントンDCでCTOをしていたVivek Kundraが就いた。

また、副CTOには、ニューヨーク・ロースクールのBeth Simone Noveckが就任した。彼女はテクノロジーと制度イノベーションに関する専門家であり、技術者寄りのCTOとCIOの活動を制度面からサポートしていた。州政府で実績を残した人物や大学で活躍する一線級の研究者を連邦政府に迎え入れ、より最先端の取り組みに当たらせていたのである。

CTOやCIOはこの後に何代も交代していくことになるのだが、Kundraは後にはSalesforce.comで働くことになり、次のCIOはMicrosoftで10年以上の職務経験を持つSteven VanRoekelを、さらに次のCIOにはVMwareからTony Scottを招聘したことも付記しておきたい。政府で最先端の取り組みを主導した経験を活かして、次にはビジネスの分野に進出していく。あるいはビジネスの分野での経験を政府に持ち込む。アメリカ政府におけるリボルビングドアの一事例と言えばそれまでであるが、特にテクノロジーに関わる政府のポジションについては激しい新陳代謝が必須と言え、それを実現しているのがアメリカ連邦政府であると言える。

対して、日本でもアメリカ連邦政府と同様に政府CIOのポストが置かれており、2012年に、初代の政府CIOとしてリコージャパン顧問であった遠藤紘一が任命されている。リコー在職時にCIOとして実績を上げていたことなどを買われての任命であったが、遠藤CIOはその後も現在に至るまで5年以上その任にあり続けている。このことにつき賛否両論あるとは思うが、CIOやCTOがダイナミックに入れ替わっていくアメリカと日本は好対照をなしている。これは結果として、2010年にオープンガバメントの推進を標榜しながら、いつの間にか先の三原則はどこかへ追いやられ、オープンデータの推進に限定されつつあることと無関係ではないと個人的には思うところである。人事の停滞は取り組みの停滞を生む。

指令が出されるまでの過程

ここで注目されるのは、オープンガバメントの覚書に署名された後、実際に各省庁が取り組むべき施策を示したオープンガバメント指令が出されるまでの過程である。この過程では、政府職員と国民から意見を募っていたのである。オープンガバメントとして具体的に取り組む事柄を決める過程そのものが「オープン」なものとされたのである。

このオープンガバメント指令から実際の取り組みまで、開始当初は勢いを見せたオープンガバメントの取り組みは、オバマの任期の途中で行き詰まりを見せることになる。それは、議会の構成がオバマにとっては不利なものになってしまったことによる。もちろん、妥協をすることで施策の実現を図る可能性もあったのだが、そうとはならず、オープンガバメントにまつわる電子政府政策に関する予算の一部が大きく制限される事態となったのである。

それでも、オープンガバメントの取り組みは着実に成果を残している。今回は、オバマ政権下で始まったオープンガバメントの取り組みにつき、その周辺情報を触れるにとどまったが、次回以降はその成果について紹介していきたい。


本田正美
本田正美


東京大学法学部卒、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。島根大学戦略的研究推進センター特任助教を経て、現在、東京工業大学環境・社会理工学院研究員、東京大学大学院情報学環セキュア情報化社会研究寄附講座客員研究員。専門は、社会情報学・行政学。電子政府に関する研究を中心に、情報社会における行政・市民・議会の関係のあり方について研究を行っている。

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