「加憲」は歴史的使命を終える自民党の延命策


日本の与党・野党は戦後長らく「改憲か、護憲か」という不毛なイデオロギー対立によって、安全保障政策を含めた日本のビジョンについてまともに議論することなく過ごしてきました。私の世代にとっては既に冗談のような話になっていますが、特に憲法9条の改憲の是非に関しては両者を分けるイデオロギー上のメルクマークとして機能してきた経緯があります。

そのため、常識を持った議論ができる野党が日本に育つことはなく、健全な形の二大政党政治が生まれることもありませんでした。これは非常に残念なことではありますが、過ぎ去った時間を取り戻すことはできないので仕方ありません。

しかし、筆者は既に不毛な改憲論議を行う時代は終了しており、その結果が如実に現代の政局状況に表れているものと思います。

護憲勢力である野党はバラバラになっており、また再集合したところで彼らは改憲を押しとどめるだけの力を持っていません。これは改憲論議が事実上決着しており、改憲論議の片翼である「護憲」が歴史的な使命を終えたことの証左です。

一方、自民党は55年立党年に制定した「党の政綱」には「六、独立体制の整備平和主義、民主主義及び基本的人権尊重の原則を堅持しつつ、現行憲法の自主的改正をはかり、また占領諸法制を再検討し、国情に即してこれが改廃を行う。世界の平和と国家の独立及び国民の自由を保護するため、集団安全保障体制の下、国力と国情に相応した自衛軍備を整え、駐留外国軍隊の撤退に備える。」と記しています。

自民党は改憲を党是としており、その本気度は常に疑わしかったものの、党の根本的な存在意義は「現行憲法の自主的改正」にあったことは明らかです。

そして、現在の安倍・自民一強の状況とは改憲論議が事実上決着し、自民党が粛々と憲法改正を実現するフェーズに入ったことを象徴しています。

したがって、安倍・自民党によって改憲が実現された後、現在の「護憲勢力」と同じように自民党も歴史的存在意義を失って自然と消えていく存在と言えます。

与野党ともに「改憲後」の日本をどのようにするか、というビジョンはほとんどありません。現在の「改憲」「護憲」は明治維新時に「尊王」「佐幕」のキャッチフレーズに似たような政治体制の選択のみを語るだけであって、改憲後どうするのかという議論は明らかに不足しています。各党の憲法改正への見解内容が思い付きレベルの条文追加がメインとなっていることがその証左です。この体たらくでは政治のパラダイム自体が進展し、自民党も首相候補と呼ばれるような人たちも次の時代に生き残るかどうかは疑問です。

そこで、自民党延命のために持ち出された秘策は9条への加憲論です。一般的には、憲法9条に自衛隊を明記して第2項を削除する改憲案を採用することは、連立与党である公明党が難色を示しているために難しいと考えられています。しかし、実際には9条に中途半端な状態で加憲することで、自民党は「憲法9条の再改憲」という名目を維持することによって自らの存在意義を延命することが可能となります。

不完全な改憲論である加憲論を実現することによって、自民党は古くて新しい改憲目標を得ることで延命し、野党も護憲の旗を降ろさずに愚かな議論を繰り返すことができるわけです。こうして日本が次の時代にパラダイムシフトするはずであったところを時計の針を止めることが可能になるわけです。

「加憲論」は日本人を戦後のパラダイムに拘束し続ける要素を含んだ毒饅頭です。

日本の政治を健全な形の二大政党政治や価値がある政策論争という次元に移行させるためには加憲論を断固拒否し、憲法9条の抜本的な改正を実現することで自民党を含む与野党の歴史的使命を終えさせることで、その根本的な解体を迫ることが重要であると考えます。

日本国民は不毛な改憲・護憲の議論の継続を求めておらず、改憲後の新しい日本のビジョンを出せる政治を求めています。


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渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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