防災@Society5.0の社会実装に向けてーある社会学者の挑戦(その4)ー


急増するインバウンドを含む観光客・買い物客は、毎日長い時間をかけて職場や学校に向かう通勤通学者以上に、大規模災害発生時は災害弱者となる可能性が高い。しかしながら、彼らに対する災害対策は、まだまだ十分とは言い難い。

土地勘がなく日本語に通じていない外国人観光客が、大規模災害に遭って交通機関の停止・長時間の渋滞・物資の不足・通信の途絶など、想定外の事態に直面した場合、彼らをどのように誘導・輸送し帰国させるのか、傷病者の手当てや休息の場をどう確保するべきなのか。それが、去る6/17に明治大学で行われた、「絆シンポジウム2018」の午後のセッションのテーマであった。

内閣府 準天頂衛星システム戦略室の小林伸司氏から、準天頂衛星システム「みちびき」の最新状況と利用動向についての講演があったのち、(一社)日本リモートセンシング学会 伊東明彦氏から防災分野への衛星リモートセンシング最前線について、青山学院大学地球社会共生学部の古橋大地教授からは、災害ドローン救援隊DRONEBIRDが目指す未来についての講演があり、平時におけるデータは質量ともにリアル空間をバーチャル空間でシミュレーションするに十分な域に達していることが示された。

東海大学情報理工学部の内田理教授からは、災害時におけるSNS活用のメリット・デメリットについての講演があり、ハッシュタグと位置情報付きの投稿システムの有効性が示された。続いて9DWの井元剛社長からは、AIと位置情報を活用することで、観光客一人一人が滞在する地点をシミュレーション空間上で特定し、その人の見えている景色の上でその人が進むべき方向を示すことが可能であることが示された。

【出典】「しま共通地域通貨発行委員会HP」より引用


それに引き続き、アールシーソリューション株式会社の鈴木理那様からは、そうした誘導情報をスマホアプリにより提供することが可能であることが示され、エンディングでは天野からインバウンドにこうした環境を普及させる上で、株式会社ギフティのプラットフォームを活用し、しま共通地域通貨発行委員会が発行した電子地域通貨である「しまとく通貨」のビジネスモデルの応用が有望であることが示された。

ただし、観光客、特にインバウンドの場合、日本滞在中、特に日中は移動していることが多く、特定の場所に専用の避難施設を設けても、機能しない可能性が高い。また、九段会館の例で明らかとなったように、避難所自体が損傷を受けている可能性も捨てきれない。

インバウンドが首都圏での観光中に大規模災害に遭遇することを想定すれば、最悪のケースにおける避難・帰国の道筋は、
1.避難所開設までの一時待機、
2.被災地内の一次滞在施設への誘導、
3.被災地外の二次滞在施設への移動、
4.近県空港へ分散させたのち帰国
という形になるものと考えられる。そこで、バスツアー客を想定した場合、それぞれの観光スポットでの被災した時に、そこから徒歩で行ける範囲内に、余裕をもってツアー客を収容できるような建築物と「一時滞在施設契約」を結び、さらに、災害時に封鎖される環七の外側にある適切な建築物と「二次滞在施設契約」を結んでおく。

大規模災害発生の後、避難所が開設されたら、バスガイドが名簿をもってツアー参加者を誘導し、施設内でのツアー客についてはガイドが責任を負う形にする。傷病者の手当て・治療を行い、落ち着いたところで、バスの手配ができ次第被災地外部区の二次滞在施設に移動し、順次帰国させればよい。

最近伸びている個人ツアー客については、Navi Time、Jorteなどに日本国内の観光の際に用いる個人情報の登録を促しておき、滞在先で被災した場合に属性と状況に応じた避難所までの経路を道順案内する。あるいは国内にある同国人のコミュニティに身を寄せるなど、個人レベルで避難先を選択できるようにしておくのもよいだろう。

重要なのは、こうしたサービスを提供する上で必要な情報環境は、高層ビルや地下街など一部の空間を除いて、ほぼ整っているということだ。そして、ハイパー・パーソナライズされた誘導情報をサステイナブルな形で提供するには、様々な企業からなるエコシステムの形成が必要であり、技術の進展や災害の種類などによって最適なエコシステムは常に変わる可能性がある。さらに、観光客や買い物客は一人一人あるいは家族ごとに条件が異なるため、災害時に必要なサービス内容もそれぞれ異なっており、ゆえに様々なレベルで柔軟性を持ったサービスをリーズナブルな価格で提供する必要がある。

こうしたサービスは、平時のナビゲーションとセットにした形で、提供されるのが望ましい。サービスから一番の恩恵を受けるのは利用者だが、傷病者や志望者が発生しないことで間接的に恩恵を受けるのは保険会社だから、全体としてのビジネスモデルの構築や必要なセクタとの連携そして具体的な契約内容と料率の算定を行うのは旅行保険や生命保険などを取り扱っている業者が適切であろう。

これらのことを考慮すれば、SIoT(サービスIoT)の時代の旅行会社の役割は、「旅行者に宿泊と食事と観光スポットの案内をするだけの、単純なサービス業」から、「一人一人の旅行者にカスタマイズされた、安全・安心でしかも味わい深い、唯一の体験を提供する、複合サービス業」となる。一人一人の属性・好み・経験などをもとに、ハイパー・パーソナライズされた旅行商品を提供し、災害が発生しても一人一人の顧客に最適な選択肢を示すことで、そのこと自体を得難い体験と感じてもらえるように「演出」する、極めて創造性の高い仕事になるのだ。

ただし、こうしたサービスを提供する上では、一人一人の顧客についての正確な位置データを活用できることが前提となる。現時点においても、GPSを用いれば、個人の位置はかなりの精度で測定することができる。しかしながら、そのデータは、個人情報の観点から本人の承諾なしには第三者への提供ができず、それゆえ、本人の位置情報を災害時に本人を誘導するために活用することは難しい。

位置情報はこれから先、ハイパー・パーソナライゼーションされたサービスを実現していくうえで、極めて重要なものであるから、独占的利用を制限する政策あるいは、利用者個人が自分の位置情報をいつどの時点でどのような事業体に許可するかを選べるようにすることが望ましい。今後の国内での法制度の整備が望まれる。

こうしたサービスは、観光客や帰宅困難者だけでなく、傷病者へのトリアージ場所への誘導や、被災地に滞在する医療関係者を一刻も早く救護所に誘導する上でも、有効である。医師会の協力が得られれば、医療関係者は自分の情報を登録するだけで、滞在する場所から直接、必要とされる救護所に向かえるようにすることも可能となる。

日本を訪れる観光客は年間三千人を突破し、大都市集中型から地方分散型へ・モノ消費からコト消費へと推移してきたといわれる。高度情報環境を活用して彼らの旅がより感動的な・充実したものにするためのサービスを提供できるように、旅行業者自体もそれぞれエコシステムを形成し強みを生かした新しいサービスを継続的に提供していくべきである。また、このエコシステムに保険会社が加わって、大規模災害すらも得難い体験・学びの体験と化して「災害時もおもてなしの心を発揮する素晴らしい国」との衝撃を世界に与えるような商品を開発し、普及させるべきではないか。

多くの観光客が押し寄せるであろう、2020を前に、そうしたシステムの必要性を強く感じたが故のシンポジウムの開催であった。その成果を社会実装する動きを、多方面のステークホルダーと協力しながら、進めていければと考えている。


天野徹
天野徹

明星大学人文学部人間社会学科教授。
専門は、情報社会学・社会統計学・都市社会学。東京都立大学大学院博士課程単位取得中退。社会学をベースに、文理融合・問題解決の知のあり方を追求してきた。(財)あしたの日本を作る協会の委員として、webサーバーを立て、「地域づくり運動情報データベース」を構築・公開。社会調査の領域に、ハイパーテキストを活用したプレゼンテーション作りや、3Dモデリングによる景観シミュレーションを導入。東日本大震災の後、自ら提唱したコミュニティ・ネットワークの理論をもとに、災害レジリエンスを備えた社会システムと、それを実現するための情報システムを構想。PHP、Java Script、CSSなどを用いて、義援物資マッチングシステムと避難所情報収集システムを構築し、サービスを公開。現在は、インバウンド等の災害対策として、AIを活用した被災者・帰宅困難者誘導システムの構築・一時滞在施設確保のためのビジネスモデルの構築と社会実装に取り組んでいる。

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