ドイツ代表エジルさん代表引退が示す移民社会の未来【ワールドカップ延長戦】


勝てばドイツ人? 負ければ移民だから?

サッカードイツ代表の10番、エジル選手がドイツ代表引退を表明した。
怒りの告発が含まれた爆弾ツイート。

ここでも紹介した話題の延長戦のような出来事であった。
これまでの経緯は「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その5)」を読んでいただきたいところだが、簡単に言うと

・ドイツ代表のトルコ系2世のエジルさんらがトルコ大統領に面会
・それがドイツ国内で批判の嵐、チームから外せとの声
・協会も「代表選手による活動は政治活動に利用されるかもしれないし、その懸念を持たざるを得ない」と苦言を呈した
・エジルさんは無言を貫く
・ドイツ代表がワールドカップでグループリーグ敗退
・ドイツサッカー協会会長がエジルを批判
・エジルが反論、さらなる非難も←【今ここ】

エジルの反論の凄さ

3部構成の一大声明であり、それが衝撃的である。

「多くのひとがそうであるように、僕にもひとつ以上の国に先祖がいる。僕はドイツで生まれ育ったけど、家族のルーツはしっかりとトルコに根付いているんだ。だから僕にはふたつのハートがある。ひとつはドイツ人として、もうひとつはトルコ人として。子どもの頃、よく母にこう教えられていた。自分がどこから来たのかを忘れてはいけないし、リスペクトしなければいけないとね。今日までずっと大事にしてきた教えだ」

【出典】サッカーダイジェストウエブ「勝てばドイツ人? 負ければ移民だから?」エジルが怒りの告発、そして代表引退を表明

政治的意図などなかったことを釈明している。これはまだ序の口だ。それよりもタブーを冒してまで発言している。

media批判!

メディアに対してルーツやそれを敬う気持ちに牙を剥いたこと、我慢の限界だと語り、「ダブルスタンダード」と批判。

特にスポンサーであるメルセデスベンツへの批判も。

最後に協会批判!

会長は、「エジルはちゃんと説明すべきだ」と言い出したことへも批判を言う。彼はそれを我慢がならなかったようだ。

さらに、極めつけは。

勝てばドイツ人? 負ければ移民だから? ドイツで税金を払い、ドイツの学校建設に寄付をし、2014年にはドイツのワールドカップ制覇のために力の限り戦った。それでも僕は、社会に受け入れてもらっていない。いまだ“異質なもの”と見なされているんだ

【出典】サッカーダイジェストウエブ「勝てばドイツ人? 負ければ移民だから?」エジルが怒りの告発、そして代表引退を表明

感情爆発!

ドイツ人はだからトルコ移民はとか思ってしまいそうだし、そういわれるのも思われるのもわかっていてもエジルさんは言いたかったのだ。それは人間としての尊厳を守るものだろう。

さらに事態は悪化

バイエルン・ミュンヘンのウリ・ヘーネス会長が「悪夢が終わってくれて嬉しいよ。彼はここ数年間はクソみたいなプレーをしていた」と発言。SNSのフォロワーが偽アカウントであるかのような根拠不明なコメントもするなど、激しい攻撃を受けている。

これに対してエジルさんお代理人が反論
・2014年のワールドカップと2016年のユーロで、デュエル(1対1)で65%もの勝率
・2016年のイタリア戦とフランス戦で彼は一番重要な選手
であったことを示唆し、「繰り返すが、彼のバカげた発言は冷笑ものだ。このような嘘は安っぽいもので、根拠が全くない」と反論。

もう泥沼である。さらには、国レベルの政治的なイシューにまでなりかけている。

読み解くと

エジルは「トルコ移民2世としての当然の行為じゃね」「政治に使われるとは思わなかったんだけど」
ドイツ人は「問題のある大統領に加担するなんて・・もっと注意しろ(そもそもお前国歌歌わないとか問題あったし・・・)」
というところで真っ向から考え方が対立する。

背景に、エジルさんには、代表選手としての責任・自覚がどういった影響があるのかへの無自覚さ、トルコ移民としての長年の鬱屈した不満感情、今回のドイツ代表の敗北のスケープゴートになることへの不満がある。

ドイツ人の方には、トルコとの関係性をあからさまにすることへの不満、移民への無意識的なおもしろくない感情、エジルさんへの無理解がある。

メルケルが寛容な移民政策をしたとしても、いくら人種差別はだめだと皆が理解し・感じ・共有されても、本音の感情が顔を出すもの。一部の人だけの差別感情が、何かの要素と絡み合う中で広まっていく。それは差別なのかも疑わしい。単なる嫌悪感なのかもしれない。

これまでエジルさんという天才が残してきたことを考えると、適切な発言とは言えない。また、適切なタイミングで我慢を強いると、結果こうなるなあ・・・・とも思う。

悲しむ出来事であり、どっちが正しいとも言えない。
しかし、感情的なものも入るもので、結果が悪いとこういうことも起きうるという意味で、ドイツの移民社会の影を感じざるを得ない。

ワールドカップ特別企画

第1回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その1)」
第2回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その2)」
第3回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その3)」
第4回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その4)」
第5回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その5)」
第6回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その6)」
第7回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その7)」
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第9回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その9)」
第10回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その10)」
第11回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その11)」
第12回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その12)」
第13回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その13)」
第14回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その14)」
第15回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その15)」
第16回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その16)」
第17回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その17)」
第18回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その18)」
第19回 「【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その19)」


西村健
西村健

人材育成コンサルタント、NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、事業創造大学院大学 国際公共政策研究所 研究員・ディレクター、一般社団法人日本経営協会講師、未来学者。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア入社。 その後、日本能率協会コンサルティングで経営・業務改革、人材育成、能力開発を支援してきた。独立後、人事評価制度構築・運用、キャリアカウンセリングなどのコンサルタントとして活動中。最近はプレゼンテーション向上、モチベーション施策などに注力。

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