「インターネットの歴史から考えるインターネットビジネスの本質」<第9回>「グーグル」-「Don’t be evil.」-(その4)


前回までの3回で、グーグルについて、経営理念、検索サービス、広告事業など、「本業」について書いてきました。

グーグルの4回目は、グーグルの完結編、本業以外の開発業務についてです。

グーグルは2015年に持株会社を頂点としたグループ経営に移行しました。形態としては、YouTube、Androidを含む、従来のグーグルの主要業務であるインターネット関連の業務は引続きグーグルの傘下、それ以外の自動運転、ドローン、AI、宇宙飛行などを別会社にしてアルファベットにぶら下げるイメージです。

この再編の目的は、会社側の発表では、「各事業における透明化と責任の明確化」と言うことです。
経営者の役割分担という観点で言えば、既に収益事業であるグーグルの方はサンダー・ビチャイがCEO、アルファベット全体では創業者のラリー・ペイジがCEO、社長がセルゲイ・ブリンです。

つまり、day-to-day オペレーション的な色彩のある(と言ってもそんなに簡単な舵取りではありませんが)グーグルはビチャイに任せ、開発が得意で、大好きな2人の創業者が新たな開発に専念できる体制を作り開発を加速させようとしているということだと思います。創業後の飛躍の時期にシュミットをトップに据えたのに似ていますね。

ドローンや自動運転については、真に使い勝手が良い製品が開発され、法令等の整備などによって利用が進めば、マーケットはもの凄く大きなものになると思われるので、ここに経営資源を投入することは理解できます。
しかし、既存ビジネスを拡大し、ビジネスをさらに盤石なものにすることが出来る本命はAIでしょう。もちろん自動運転やドローンにもAI技術は必須なので、そういう意味でもAIの重要性はグーグルにとって大きなものだと思います。

そもそもグーグルが最初に開発した検索エンジンについては以下のような指摘もあります。

- 2002年にグーグルの社内パーティーに参加したケヴィン・ケリーが、創業者のラリー・ペイジに、「検索サービスの会社は山ほどあるのに、なぜいまさら無料のウェブ検索サービスを始めるのか」と尋ねたところ、ペイジは「本当はAIを作っている」と答えたという。グーグルが創業当時から情報検索を武器に目指していたものは、AIという言葉で象徴されるマクルーハンが指摘するような人間の意識を電子メディアに移植し、その意識を加工する何かだったのだ。-

【出典】2018.5.23 服部 桂 PRESIDENT Online

エンジニアである2人の創業者がAIの開発に熱心なのは、AIが、これまで実現できなかった様々な社会課題や人間の夢を実現してくれると言った美しい理想であることに加えて、グーグルの既存の商品・サービスを強化するものだからでもあるのでしょう。

例えば、検索エンジンの精度を上げ、広告ビジネスにおけるシーズとニーズのマッチングの率を上げ・・・、Siriの精度を上げ・・・、グーグルの翻訳の精度を上げ・・・、こうした一つ一つのプロダクトをについて、エンジニアの会社らしい製品の精度向上によって、競争力を盤石なものにしてくれるはずです。

ペイジとブリンがAIの「ダークサイド」についても言及しながら、AIについての可能性をポジティブな形で度々発信しているのも、自ら開発によって良いプロダクトを世に送り出すだけではなく、社会そのものがこの可能性に充ちたツールを適切に受け容れ、育てていけるよう地ならしをしたいと考えているように思えます。AIは、それほどまでにグーグルにとっての将来を左右する開発なのではないでしょうか。

グーグルについての完結編である今回は、上記将来のことに加えて、少し高い視点でグーグルの社会的な役割、貢献について考えたいと思います。

それは、「ムーンショット」を実行する開発主体としてのグーグルの社会における役割についてです。ムーンショットとは、ジョン・F・ケネディが「人類をロケットで月面へ送り無事に帰還させるというアポロ計画」実施に向けて言い出したことに端を発し、「困難だが実現によって大きなインパクトがもたらされる、壮大な目標・挑戦のこと」を言いますが、今やグーグルが自ら(アルファベットの傘下)で行っている開発によってまた世間で頻繁に使われるようになった言葉です。

もちろんご存知のようにグーグルは宇宙開発もやっているわけで、正にムーンショットという用語がピッタリするのも当然です。

こうしたグーグルの企業行動を、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツの社会貢献活動との比較で考えてみましょう。

もちろん、過去の利益の蓄積を使って、社会課題を解決していくという行為自体には共通点があります。ビル&メリンダ・ゲイツ財団の場合も、効果測定とかにシビアで、企業経営における投資と同じような手法で実行されているように見えます。

違うのは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の方が寄付と言う体裁を取っているのに対し、グーグルは、(持株会社体制に再編して儲けの本業と分離はしたものの)あくまでも企業活動の一環としての投資、開発であることでしょう。

ビル&メリンダ・ゲイツ財団のところでは、大儲けした利益の還元、社会貢献という文脈で言及しましたが、グーグルについては、利益の還元と言ったこともゼロではないとは想像しますが、大真面目に、社会課題を解決すること=社会ニーズに応えていくこと、を通して、企業として利益を挙げ成長していくことを意図しているはずです。

ビル&メリンダ・ゲイツ財団の方が崇高で、グーグルの方が下劣であるなどと言うつもりは筆者には全くありません。どちらも素晴らしい取組みです。グーグルは企業活動を通し、成長を希求しながら社会課題も解決していく・・・資本主義経済における美しい企業の姿をグーグルは体現していると筆者は高く評価します。

ムーンショットならぬ大げさな表現であるとは思いますが、「グーグル、そして巨大IT企業は、莫大な利益を引寄せながら、その果実を使って社会の進歩、人類の進歩に貢献している」と言って良いのではないでしょうか?資本主義経済全体のマネーフローは、比較的新たな産業であり経済の「フロンティア」であるIT産業に怒涛のように流れ込み、IT企業がビジネスの形でズンズン先に進んでいくことによって、社会全体として再生産をダイナミックに行っているのです。過去には、「コロンブス、マゼラン時代の新大陸」、「BRIC’S」・・・など世界経済の拡大にはフロンティアへの投資というものがつきものでした。元マルクス経済学徒としては、そんな風に巨大IT企業についても見えてしまうのです。

視点が高くなり過ぎたので、思いっきり低い視点でも追記します。

筆者の母は現在、晩年長く暮らした千葉の老人ホームで余生を過ごしています。訪れたときの余興で、Google ストリートビューを使い、彼女が青春を送った大阪の故郷の今を見せたことがあります。母は「こんなものがあるんだねぇ」と感動して驚いていました。今は足腰が弱くなり施設の近辺しか出られない母にとっては、思いもよらない思い出になったことでしょう。このプロダクトの系列ではGoogle earthもありますが、人類がこれまで成しえなかった、驚くようなサービスを、グーグルは蓄えた膨大な資金を使って人々に提供しているのです。

ところで、上記原稿を書き終えた矢先に、グーグルについての興味深いニュースが入ってきました。

そのニュースとは、グーグルのクラウド部門が米国防総省と結んでいた軍事用無人飛行機(ドローン)向けのAI開発契約に対して、「Don’t be evil.」に反するものとして4000人を超える社員がこの書簡に署名したほか、一部社員が辞職する事態に発展し、それを受けて部門の責任者が、2019年で契約を更新せず終了することを発表した、というものです。

正に、「Don’t be evil.」という行動規範が「Do the right things.」と少し表現は変わっても、社員一人一人のDNAに染み付いていることを表しています。

筆者はかつて、コンプライアンスの調査会社で働いたことがありますが、多くの企業がご立派な企業理念を定め経営陣がホームページで力説していても、実際のところは企業理念が絵にかいた標語として社員一人ひとりには浸透していないどころか、平気で不祥事が起こってしまっている、という事実を憂慮してきました。それが証拠に最近不祥事が露見した企業のホームページを見てみれば、何年も前に制定した立派な企業理念の文言が整然と語られています。

「Don’t be evil.」その強烈なメッセージと共に、グーグルは社会の進化を視野に入れながら成長しているのだと思います。

追記の追記です。IT巨人は時代と共に生きているので、原稿を書くスピードを越えて、どんどん新たなニュースが入って来てしまいます。

この原稿の最終稿の修正直前に入ってきたグーグルに関するニュースは、7月17日の「欧州委、グーグルに5700億円制裁金命令 ―独禁法違反で最高額」と言った記事や、7月24日の「グーグル、制裁金で減益も26%増収 4~6月期」と言った記事です。OSとアプリのセット販売に対する制裁金の大きさにも仰天ですが、そんなものを蹴散らさんばかりの利益拡大の凄まじさ、株価の好調さも、驚くばかりです。

IT巨人バッシングの最近の風潮は、もちろん一時的な利益面や個人情報保護やフェアな競争環境の阻害という一面があり、各社は真摯な対応策が求められているのは間違いありません。ただ、筆者としては、そうした問題によって、IT巨人たちの息の根を止めてしまうほどのものになるとは思っていません。ズンズン進めている事業拡大を社会の仕組みに適合させていく一つの重要な過渡期、通過儀礼のようなものではないかと感じています。「Don’t be evil.」のような、社会性を失わない企業理念の下での事業運営である限り、社会は彼らを抹殺することはないでしょう。

それは、インターネットの進化が「・・・の民主化」と筆者が書いているように、少なくとも今の所、最終的には人々、そして社会の役に立つ存在であり続けているからではないでしょうか。

次回からはアマゾンを採り上げます。


小寺 昇二
小寺 昇二

埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授
2014年より埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授。授業担当は「e-ビジネス論」「財務管理論」「スポーツ経営」「地域経営論」「現代経済論」「現代経済史」等。ラグビーチーム一般社団法人横河武蔵野アトラスターズ監事、埼玉県深谷市総合計画策定審議会委員。NPO法人日本公共利益研究所コンサルタント。

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