米国・欧州・ロシア、世界が対中包囲網に大きく舵を切ろうとしている


「米国の対中貿易戦争」は他の貿易戦争とは性質が明確に異なる

「トランプ・共和党が保護主義者に転換した」という事実誤認は、6月・G7、7月G20及び米欧首脳会談で完全に確認されたものと思う。流石に一部の感度が悪い有識者以外は、トランプの貿易戦争が保護主義を想定したものではないことが理解できるはずだ。(鉄鋼・アルミ関税は例外的に保護主義的だと思うが。)

そして、対中国に関しては、世界情勢が実質的にハイテク戦争に突入する中で、中国の知的財産権強制移転や侵害行為を放置することはできず、それらは安全保障上の脅威と看做すべき、という文脈で行われていることをいい加減に理解すべきだろう。日・欧・北米の同盟国らとの間で行われている交渉と覇権争いの相手である中国との交渉は目的が明確に異なるものだ。

中国はトランプの通商政策に関して「自分たちが自由貿易を守る」と主張し続けているが、その意見が諸外国から黙して追認される時代は欧州・ロシアの離反によって終わっていくことになるだろう。特に西側先進国は中国の通商・投資政策に疑念を抱いており、トランプ大統領による直接的な通商交渉よりも根が深い問題意識を持っている。

そして、トランプの通商交渉に関する理解は上記の一連の国際会議を通じて明らかに変わりつつあり、遠からずそれらを「保護主義」として問題視する向きはガラパゴス化した日本人有識者以外にはいなくなっていくものと思われる。筆者はトランプ大統領の手法は強引だと思うが、それは日本にはない「力を使った自由貿易を求める米国外交」がそう見えるのだと理解するに至っている。

EUは反米スタイルから米中への二枚舌外交に方針を転換

7月25日・トランプ大統領とユンケル欧州委員会委員長が会談し、自動車関税は見送りとなり、大豆・エネルギーの応酬輸出への妥協が行われることになった。貿易交渉の一面だけを見ても、トランプの完全勝利と言えるが、最も重要なことは共同声明に「知的財産の窃盗、強制的な技術移転、企業への補助金、国有企業が引き起こすゆがみ、過剰生産能力といった不公正な貿易慣行に対処するため」が盛り込まれたことだろう。

これは米国が主張する中国の不公正な貿易慣行などに関する要素そのものであり、EUの口から米国と共同で対中批判が形式上行われたことになる。欧州は今月半ばに中国との巨額の貿易交渉を妥結し、そして日欧EPAを進めたばかりであり、その面の皮の厚さを米国を遥かに上回る人々である。EUは中国に味方するふりをして取れるモノを取った上で、更にトランプに乗っかって中国の制度変更を促そうというのだろう。いずれにせよ、EUが影から主導して行ってきた日本・中国を巻き込んだ対トランプ包囲網に一部変更があったことは確かだ。

結局、欧州は自動車関税で脅せば譲歩してくることが米国側に露呈したことは大きく、今後も実際にはやらないにしても度々トランプ政権はEUに脅しをかけることになるだろう。両者の会談は双方にとって利用し合えるものとなり、米欧の外交交渉の巧さが際立つものとなった。

米ロ首脳会談が東アジアの未来にもたらす国際情勢の変化

7月16日・トランプ・プーチン首脳会談において唯一進んだ成果は、シリア南部における安定化に関する合意である。これは同地域からイラン(及びヒズボラ)の影響力を排除し、イスラエルの安全保障環境を保つことを念頭に置いたものである。また、米ロが軍事力を展開して対立しているシリア情勢における事実上の手打ちであり、今後急速に米ロ関係は改善していくものと想定される。(*中間選挙で共和党が下院または両院を落とした場合は関係悪化もあり得る)

米ロはいまや世界の二大エネルギー大国であり、そしてイスラムテロリストネットワークに対抗する勢力でもある。政治体制イデオロギー上の対立や武器市場における競合などの問題はあるが、ロシアの国力(人口は減少傾向、経済力は韓国並GDPしかない)を考慮した場合、米国にとってはもはやロシアは歯牙にかけるほどの存在ではない。

したがって、米ロの利害関係の一致は、ロシアを中国から切り離すことに最終的には繋がっていくことになるだろう。中ロ関係が急速に悪化することはないであろうが、肝心要の時にロシアが中国から距離を取る可能性が出てきたことは碁盤上の布石としては大きい。中東情勢の変化は確実に東アジア情勢にも影響を与える結果になる。

日本も認識の変化が必要、いつまでも「予測不能」=「自分の思考停止」では許されない

「トランプ大統領は予測不能」といまだに日本国内では有識者が平気な顔をして語っているが、予測不能なのは当人らの分析能力の不足によるものであり、米国政治情勢や国際情勢の構造を考慮すればある程度はトランプ大統領の行動も予測可能である。

国際情勢の構図は目まぐるしく変化していく中で、日本はオバマ時代のレガシーを惰性で継続することは結果として有意義な結果となっているものの、北朝鮮交渉時の無様な外交敗北でも明らかになったようにトランプ時代に即した分析能力・実行能力を備えることは急務となっている。そのため、民主主義国である以上、国民に正しい情報を伝える努力が必要であり、日本国内の知的空間の総入れ替えが重要であろう。

 


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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