「インターネットの歴史から考えるインターネットビジネスの本質」<第10回>「アマゾン」-システム屋による建設と破壊 - (その1)


【出典】ぱくたそ

今回からはアマゾンです。

その前にですが、本連載も回を重ねてきましたので、筆者の書きたいことは何なのかを最初に再度整理しておきたいと思っています。

筆者は現在大学で「経営」の教鞭を執り、研究室の名称は「企業分析研究室」、教えている授業の一つは「e-ビジネス論」ではありますが、インターネットやインターネットビジネスのインナーの人間(今の言葉では「中の人」)ではありません。そんな人間がインターネットビジネスを語ろうとしているのは、急速に進化しているインターネット企業が、「なぜこんなに早く進化しているのか?」ということについての個人の興味、そしてそれを可能としているそれぞれのIT企業の「DNAは何なのか?」「何がその持続性を支えるものなのか?」ということへの興味に他なりません。

それはきっと、大学を出て社会に出た最初の仕事が機関投資家における「企業調査」だったことに由来しているのかもしれません。そこでの仕事は、目先の融資の申し込みに対する信用調査、つまり「融資をしたら、将来返済されるのか?」ということへの判断ということではありますが、それは即ち、5年~10年といった長期での返済可能性ということなので、その企業のDNAは何のか?ということへの徹底的な検証ということだったわけです。

その時から30年以上も経過し、その30年以上の間には、旅行業界のガリバー企業の与信判断体制の構築・及び実際の与信判断の責任者をやっていた時も含め、常に企業を見る際の自分自身の視点の一つだったと思うのです。この連載で採り上げる巨大IT企業という素材を、自分なりにどう料理するのか、それがこの連載ということです。

そしてそうした個人的な興味、インタービジネスを展開している企業の本質は何なのか?といった個人的な興味は、きっと一般の読者にとっても、今後のインターネットやインターネットビジネスを展望し、予想するのに役に立つのではないか、という気持ちによるものでもあるのです。

さて、少し長い前振りでしたが、アマゾン、この会社は前回のグーグル同様、極めて「面白い」IT企業だと感じています。

アマゾンの企業DNAと言えば、まずこの会社は「ジェフ・ベゾスという大変ユニークな人物の会社である」ということが真っ先に思いつくことでしょう。

ベゾスと言えば、プリンストン大学で計算機科学などを学んで、ウォール街の金融機関でトレーディングシステムの開発を行っていた・・・という前歴が、アマゾンの方向性を決定づけたとではないかと筆者は考えます。

筆者自身も金融機関で為替や債券のトレーディングをやっていたことがあるので、そこそこ詳しいのですが、金融商品のトレーディングはアービトラージ(裁定取引、市場において一時的に発生する不均衡を見出して反対売買をすることによって利益を挙げる取引)狙い、つまり他の会社より少しでも早く売買するスピード感が命です。

そのためには、市場にある不均衡をモニターし続ける巨大なシステム、つまり高性能=効率的=高価なシステムが必要です。

つまり債券トレーディンググでのKSF(成功要因)は、システムに投資できる資本力なのです。

もう随分昔の話になりますが・・・日本のバブル相場の幕引きの契機となったサロモンブラザースのシステム売買は金融業界では当時有名でしたが、サロモンも一時はシステム投資余力確保のために資本力のある企業に身売りしてシステム開発競争を続けたといったこともありました。

筆者は、アマゾンのDNA=ベゾス、その根幹は「システム屋」と規定したいと考えています。

アマゾンの「キャッシュフロー経営」、即ち営業キャッシュフローの拡大を絶対的なKPI(経営指標)として、P/L上には利益を計上せずにひたすらシステム投資をやり続けたこと、それこそがアマゾンが他社の追随を許さないシステム上の先行者利得を享受し続けている原因の一つです。そして、そのことが、アマゾンの先進性を支えているのです。

他社より先に大規模な投資を可能ならしめているのが、頑固でぶれない強烈なキャラクターのベゾスということになります。今でこそ日本に比べてP/Lよりもキャッシュフローを重視すると言われているアメリカにおいても、創業した1990年代当時は、確信犯的にすっと赤字を出し続けたベゾスに対してさすがに株式市場では賛否の議論が常に渦巻いていました。創業以来、ディスクローズもいい加減、とにかく経営資源を投資にばかり振り向ける(一般社員の人件費は安価。もちろん相対的にペイの安い物流関係の人員が多く、いきおい平均賃金は低くなりますが)ベゾスの頑固さは、投資家の顔色を窺がわざるを得ない現代社会の数多いる経営者の中では極めて異彩を放っています。

さて、それではようやく本題ですが、アマゾンのインターネットビジネスにおける多くの功績の中で、最初にして恐らく最高の功績は何だったかと言うと、それは一般人にわかりやすい言葉で言えば「EC(ネット通販)の市民権を確立した」こと、ベンチャー世界の言葉で言えば「ECで初めてスケールを実現し、そのことによってマネタイズを実現した」ことではないでしょうか。

筆者も、2000年代の半ばに在籍していたスポーツコンテンツの企業で、ECビジネスの実情を垣間見る機会がありました。もうその頃には既にアマゾンはP/L的にも利益が計上できるだけのスケールは確保していて、今やほとんどの人が理解している「ロングテール」ということもようやく指摘されだした頃だったので、コスト高である店舗を持たないECはそれなりの利益を出しているものと思っていました。

ところが、その会社で実施していたECビジネスの実態は赤字、配送や管理などに関連する人件費に加え、商品の世間への周知コストやシステムコスト(SaaS=必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェア、当時はASPと言われていました)に勝つだけのスケールが確保されていない状況だったのです。今は楽天や、それこそアマゾンなどのサービスが一般的になっており、そこへの出店企業や独自にEC事業を展開する場合も諸々のインフラが整っていて、比較的黒字にするのは可能(しかし、それなりの利益を出すには相応の努力が必要)でしょうが、当時そうしたサービスを活用せずに垣間見たEC事業は、「なかなか利益の出ない仕組み」だったのです。

90年代のECについての一般人の認識は、「やっぱり買い物は、商品を自分の目で見て、実際に手に取らなければねぇ・・・・」と言う人々が大半で、ECがこんなに便利で、活用されるなんて夢にも見られないという状況だったのです。

そして、そうした状況を一挙に打開したのがアマゾンだったというわけです。アマゾンの成功が、ECを成功する仕組みであることを証明した、ということです。

アマゾンのECの成功要因については、筆者は2つの点を指摘したいと思います。

一つ目は、公正に(つまりマニュピュレイトされずに)、的確に、そして比較的安価に、消費者が商品をゲットできる仕組みを提供したことです。具体的には、

①カスタマーレビュー(多数の使用者によるレビューを参考にできる。レビュアー自体のレビューの履歴で、ステマかどうかもある程度判断できる)
②リコメンデーション(購買あるいはチェックの履歴によって、利用者の興味ありそうな商品を推薦してくる。CRMの最初の成功例の一つ)
③著書名やキーワードでの売上順ソートにより選びやすい「売れ筋」を提供
④マーケットプレイス(中古品売買市場)の提供

などです。

今でこそ他のインターネットサービスでも活用されていて、あたりまえの上記機能ですが、アマゾンが出してきた段階では極めて斬新で便利さを実感させてくれる仕組みでした。

こうした機能の実装を可能にしたのが、巨額の資金によるシステム投資ということですね。こうした仕組みによって、ECは人々に受け容れられるようになり、現在の隆盛に繋がっていると言うことが出来るのです。

二つ目の成功要因は、「本」から始めたということです。
本は典型的なロングテール商品、そして選ぶのが難しい商品です。

筆者も10年ほど前に自著を出したときに、日本における本というものの流通制度の旧さ、非合理性に唖然としました。

再販制などというトンデモナイ歴史の遺物ではないものの、アメリカや他国においても本という商品が他の商品とは、比べ物にならない位ステイタスが高く、それゆえに需要と供給で値段が変動することによってニーズが充たされること(市場原理)から最も遠い、「遅れた商品」に、市場原理や(供給者の論理ではない)消費者の論理が貫かれるインターネットの世界が効いた、ということではないでしょうか。

日本での1日の平均的な新刊書籍数は200点以上、年間では7万点以上と言われています。そもそも出版不況と言われている昨今、こんな点数が出ていること自体、業界外の人間からは理解に苦しみところですが、再販制度の持続、本屋の廃業、ベストセラー依存・・・などこの業界の効率性の乏しさ、合理性の欠如をアービトラージが得意なベゾスは見抜いていたのかもしれません。

少し横道に外れますが、アマゾンに「マーケットプレイス」に関連して、出版業界の人間と話をしていて金融業界出身者の筆者がいつも違和感を覚えるのが、中古本の流通についてです。彼らの主張は、「中古本屋、図書館、定額購読(インターネット業界での用語は「サブスクリプションモデル」)のために新刊が売れない」というものですが、金融機関での常識では、「流通市場(中古市場)の存在は、リセールバリュー(中古売却時の値段が確保されていること)によって、発行市場のバリューを上げている」というものです。高く買っても、中古で高く売却できれば実質負担は少なるので、購入頻度が上がるということでもありますし、また流通市場で安く手に入れた人は、同じ著書の別の著書を買いたくなったり、またはその著作への愛着から新刊での購入をする場合もある・・・そうした、流動性が増すことによる様々な可能性の拡大によって、出版業界全体の活性化が図られるという考えなのです。

さて、紙幅も尽きてきました。今回はアマゾンの初回ということで、ECについて書いてきましたが、次回はシステム屋であるアマゾンのECからの展開について書いていきます。


小寺 昇二
小寺 昇二

埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授
2014年より埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授。授業担当は「e-ビジネス論」「財務管理論」「スポーツ経営」「地域経営論」「現代経済論」「現代経済史」等。ラグビーチーム一般社団法人横河武蔵野アトラスターズ監事、埼玉県深谷市総合計画策定審議会委員。NPO法人日本公共利益研究所コンサルタント。

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