2018年米国中間選挙(下院)を巡る共和党・民主党の攻防


Cook Political Report

2018年中間選挙、表面上は「共和党下院勝利」のように見えるが・・・

2018年中間選挙下院、既に選挙に向けた情勢分析が開始されており、興味深いデータが上がってきている。Cook Political Reportでも表面上は共和党優勢選挙区が240選挙区、民主党優勢選挙区が195選挙区ということで、中間選挙情勢は共和党下院勝利のように見える。

中間選挙は現職所属政党が不利であるという都市伝説がある。しかし、その都市伝説は2000年代に入ってからは少なくとも正確とは言えず、中間選挙では共和党がやや有利というのが実態だろう。これは投票率が低い中間選挙では組織力が重要であり、共和党側の豊富なグラスルーツの動員力が機能していること、民主党側の主力である労働組合の組織力低下に歯止めがかからないこと、が反映した結果である。

しかし、2018年中間選挙では、筆者は既に米国の一部の識者が喧伝する「共和党勝利確定」説は不確かであり、実際には民主党が共和党を下院で下す可能性があると考える。それはなぜだろうか。

(同上)

激戦選挙区100選挙区、共和党の下院優勢は薄氷の上の優勢でしかない

激戦選挙区とされる100選挙区の大半は共和党側の現有議席の選挙区である。現職は選挙に強く共和党は盤石と思われているが、今回は共和党側の現職議員の引退数が多いため、既に民主党側に傾いている選挙区が多い。そのため、現職が引退する選挙区の多くが民主党に有利な選挙区になる可能性がある。

また、共和党が優勢とされる選挙区のうち24選挙区はTOSS UPに分類されており、共和党の動員体制が何かの理由で鈍くなるか、または民主党に風が吹けば簡単に逆転される状況となっている。共和党がこれらのTOSS UP州の全てで敗北すると当然に過半数割れを起こすことになる。実際、TOSS UP選挙区中、2016年大統領選挙で、カリフォルニア(10区、25区、39区、48区)、コロラド(6区)、フロリダ(26区)、イリノイ(6区)、ミシガン(8区)、ミネソタ(3区)、ニュージャージー(7区)、テキサス(7区、32区)、ワシントン(8区)など、13選挙区については2016年でクリントンがトランプの得票を上回った選挙区であり、多くの選挙区で共和党が苦戦することは目に見えている。

特筆すべきポイントとしては、これらの接戦選挙区では、民主党の新人候補者が共和党現職議員を資金調達額で上回る状況となっていることだろう。第二四半期の資金調達状況は民主党新人が共和党現職を上回る事例が56選挙存在しており、共和党新人が民主党現職を上回る事例は僅か3件しかない。通常の場合、現職は資金調達面で有利な立場にあるはずであり、民主党候補者が共和党候補者を上回っている現象は民主党側の選挙に勢いがあることを示している。

共和党はトランプを巡って分裂、民主党は反トランプで団結の現状

中間選挙は低投票率が常となっているため、自党の支持者を動員して投票に行かせることが重要になる。そのため、党内における支持者の選挙への熱量がモノを言うことになる。

しかし、共和党の中間選挙に向けた熱量はイマイチ上がっていない。理由は幾つかあるが、その最たる原因は「現状に満足している」ことにあるだろう。選挙は敵を倒すというとき、獲得すべき政策目標があるときに、モチベーションが最大限に発揮されるものだ。

トランプ政権は2017年中に主要な政策目標(減税・オバマケア見直しなど)を達成してしまっているため、共和党支持者内では民主党側と戦う新たなモチベーションが形成しにくくなっている。減税法案2.0などが取り上げられているはいるものの、昨年末ほどのものにはならないだろうから、いかにもパンチが軽い印象がある。トランプ大統領は2020年の大統領選挙に向けてMake America Great Again からKeep America Greatにキャンペーンメッセージを変更しつつあるが、「保つ」だけでは熱量が上がらないのは確かだろう。

2つ目の理由はトランプに対する評価が共和党内で割れていることにある。既に中間選挙に4億ドルの巨額の資金を投入することを宣言しているメガドナーのコーク兄弟とトランプ大統領は「関税」「移民」に関する激しい舌戦を行っており、共和党議員はトランプ大統領とコークが組織する草の根団体の間で板挟みになっている。本来は総力を結集して共和党側は民主党側と戦うべきであるが、大統領と最大の資金の献金者が分裂・衝突している有様となっている。

通常の共和党支持者内でも分裂状況は顕著だ。トランプ大統領への共和党支持者からの支持率は8割を超えているとされているが、実際には積極的支持・どちらかというと支持が約半数となっている。つまり、共和党支持者の半数はトランプ大統領に対する曖昧な支持しか示しておらず、選挙日までに実際の投票に足を運ぶかは極めて疑問である。

一方、民主党側は党指導部の中道派、対抗勢力の左派で割れているが、トランプという分かりやすいアイコンに対して「反トランプ」で一致している。民主党側の運動(ヘルスケア・銃規制・女性問題など)は盛り上がりを見せており、予備選挙で中道派の大物を破る新たなスター候補者が誕生している。左派系の運動の高まりは民主党に確実に追い風をもたしている。

民主党側の選挙戦略上の懸念は失業率が歴史的水準までに回復している有色人種層の投票率が低下することにあるだろう。女性・若者・黒人はオバマ選挙の際に現れた新しい民主党側の選挙連合であるが、2016年大統領選挙ではヒラリー嫌いで黒人票の動員がうまく機能しなくなっていた。共和党側は同層への切り込みを意図しており、トランプ大統領が通常なら首にするであろうスキャンダルを起こした黒人のベン・カーソン住宅長官をあえて留任させる戦略を取っている。

以上のように、共和党はやや優勢な状況であるとする選挙観測は見通しが甘すぎるように思われる。民主党側は有色人種票の掘り起こしに難を抱えているものの、熱量が不足する共和党を下院で倒す可能性がある。実際には共和党・民主党の勢力はほぼ拮抗しており、中間選挙に向けた勢いは民主党側にあるとみなすべきだ。


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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