スマートフォンにマイナンバー?見え隠れする東京オリンピックの影


システム構築に3,000億円、維持費だけで年間300億円かかっていると言われながら存在すらも忘れ去られようとしているマイナンバー。久しぶりに関連するニュースがあり、便利になるのではないか、セキュリティが心配などといった反応も聞こえてきます。

報道された内容からは一向に普及が進まないマイナンバー制度に対する政府の焦りと、2年後に迫ったオリンピックも絡む事情が透けて見えてきました。


【出典】Photo by mali maeder from Pexels

7月30日に掲載された読売新聞の記事「スマホにマイナンバーカード機能搭載…法改正へ」によると、マイナンバーカードが持つ証明書の機能をスマートフォンなどで利用できるようにするために制度を見直す動きがあるとのことです。活用例としては4通りの活用方法が記載されています。

・サイトごとに求められるバラバラのID、パスワードが不要に
・より簡単にネットショッピングが可能
・チケットを使わず、スマホだけでイベントに入場
・不正転売も防止

もともとマンナンバーの機能をスマホに搭載する案は制度施行前からロードマップにも組み込まれており、制度自体の普及が進まないせいか他の案も含め計画が遅れていただけのことです。活用例も目新しいものではありません。むしろ対応が遅れている間にID・パスワードの省略やネットショッピングの簡略化、チケットレスの入場者管理などはすでに民間のサービスによって普及が進み、先を越されてしまった感があります。

なぜ今になって法改正など本気の姿勢を見せ始めたのでしょうか。

オリンピックがマイナンバー普及の最後の希望?

そこにはオリンピックに間に合わせたいという事情があるように思えます。


【出典】Photo by Frans Van Heerden from Pexels

総務省の推進ロードマップには具体的な見通しやスケジュールがない利用目的が多いのですが、1つだけ時期を明確にしている項目があります。それがオリンピックです。2020年の東京オリンピックでは、チケット販売や入場管理にマイナンバーを利用するという方針を打ち出しているのです。

【出典】マイナンバーカード利活用推進ロードマップ(総務省)

確かにこれが実現すればマイナンバーの普及に拍車がかかる可能性もありますし、万が一マイナンバーカードの発行枚数がそれほど増えなくても、オリンピックで有効活用できたという実績が手に入ります。なんとしても成功させるには時期的にそろそろ動き出さなくては間に合いません(すでに水面下では動いていると思いますが)。

マイナンバーに未来はあるのか?

既に制度開始から2年半が過ぎましたがマイナンバーカードの普及率はようやく10%を超えた程度。利用方法としても身分証明や住民票の写しをコンビニで取れるなど、利用者側にとっては存在感がありませんし使い勝手も良くありません。

ですが、すでに年金機構や国税庁との連携や地方自治体との連携強化など行政システムの基盤としてなくてはならない存在となり、もう引き返せなくなっているのです。

マイナンバーカードの普及を阻害している一番の要因はメリットが行政側にしかない「行政ファースト」だからです。今後も運用を続けるのであれば、国が個人の情報を効率良く収集するためではなく、国と人を効率よく繋ぐツールとして再認識する必要があります。

例えば身分証明を例にすると、現在は保険証、免許証、パスポート、さらにはそれらの組み合わせと複雑になりすぎています。これをマイナンバーに一元化すれば無駄な確認作業が不要になります。スマホでも個人の認証ができるようになれば、それさえあれば国がその個人を守り、人権を保証する対象である証になります。生産性の高い低いに関わらず、日本で生きる権利を主張できるのです。

災害時にはスマホのGPS情報を連動させれば、誰がどこにいるのかを瞬時に把握できるようになります。マイナンバーが搭載されたスマホを持つことで、緊急時の生存確率を上げられるというメリットを享受できます。

このように「スマホにマイナンバーを搭載する」という手段ではなく「具体的なマイナンバーの利便性」を訴求していって欲しいと思います。マイナンバーに求められるのはチケットレスのイベント入退場やオンラインショッピングではありません。国レベルの取り組みだからこそできる利便性への取り組みが必要なのです。

もちろん紛失時の対応策を取り決めやGPSとの連動は災害時に限るなど、緊急時の対応策や国の行動に歯止めをかける取り決めを予め準備しておくのが前提です。今回の法改正に向けての報道も、もしかするとスマホ購入時の強制マイナンバーカード発行などを目論んでいる予兆かもしれませんので、マイナンバー制度を行政側が拡大解釈して一方的に国民を監視する仕組みにしてしまわないよう、国民側も運用に関して厳しい目で向け続けなければなりません。

マイナンバー制度の理解のために勉強会を開いたり研修に足を運んだりと注目していましたが、これまでを振り返るとマイナンバーの導入は完全に失敗だったと言わざるを得ません。オリンピックイヤーの2020年は、存在感すら失っているマイナンバー制度にとっても重要な年となるでしょう。


林 克彦
林 克彦


ITエンジニア・コンサルタント、NPO研究員(専門:社会文化)。大企業からの独立後、フリーランスとして活動を始め、大規模システム開発などITエンジニア・コンサルタントとして活動している。その傍ら、映画産業のための支援活動を手掛けている。

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