黒人牧師「トランプは人生の中で最も黒人を重視する大統領」の意味


Credit: Oliver Contreras

「トランプ大統領は人生の中で最も黒人を重視する大統領だ」

2018年8月1日、トランプ大統領はホワイトハウスにインナーシティの黒人牧師らを招いた会合を持った。この際、黒人牧師らとの間でトランプ大統領は歴史的水準にまで低下した黒人・ラテン系の失業率と刑務所改革の状況などについて意見交換を行っている。

会合にはルーサー・キング牧師の姪であるアルベダ・キング牧師も参加しており、大統領国家多様性委員会の共同創設者であるダレル・スコット牧師は同会合後の記者会見で、トランプ大統領を「人生の中で最も黒人を重視する大統領だ」と明言した。

リベラル勢力から白人至上主義者に支えられていると批判されるトランプ政権であるが、実は黒人やヒスパニックの中にはトランプ大統領を支持する人も少なくない。実際、それらの人々には敬虔なキリスト教も多く昨今の民主党の反キリスト教的なリベラルな考え方に反対している黒人層やキューバ政府に対する共和党の強硬姿勢に賛同しているヒスパニック系移民など、単純な肌の色の問題ではなく価値観に基づく政治姿勢を持つ人々が存在している。

インナーシティ問題・刑務所改革に取り組むトランプ大統領

ペンス副大統領曰く、刑務所に収監されていた毎年65万人の受刑者の3分の2が3年以内に再逮捕されて半数以上が有罪判決を受ける」状況を改善することは急務であり、トランプ大統領は特にインナーシティと呼ばれる犯罪が多発する都市部貧困エリアの問題に熱心に取り組んでいる。

その力の入れようは義理の息子・大統領上級顧問であるジャレド・クシュナーに与えているトッププライオリティーの仕事として、刑務所改革を実現する「ファーストステップアクト」という法案に取り組ませていることにも表れている。同法案は受刑者の継続的なリスクアセスメント、個人の再生を支援するプログラムや職業訓練を実施し、経過が良好な受刑者は家族に近い施設への移送や受刑期間後期には自宅対応も認めることに道を拓くものだ。現在、法案審査のプロセスは、超党派からの支持を受ける形で下院を通過しており、上院での承認を待つばかりの状況となっている。

インナーシティ問題を扱う住宅長官は、黒人医師のベン・カーソンである。同氏はベトちゃん・ドクちゃんの分離手術を成功させた医師として著名であるが、一昨年の大統領選挙にインナーシティ問題の解決を掲げて共和党予備選挙に出馬した経歴を持つ。トランプは同氏を住宅長官にシンボリックな形で据えることによって、黒人層に対して自分自身の姿勢をアピールする人事を行っている。(トランプ大統領が同長官にスキャンダルが発生しても不問に付している依怙贔屓ぶりからも同人事の重要性を理解できる。)

「中間選挙を左右する黒人票」、共和党の勝利の前提条件に

トランプ大統領がインナーシティ問題・刑務所改革に取り組む理由は中間選挙にあると見るべきだろう。昨年来、下院の補欠選挙が実施された際に、民主党側は黒人票の掘り起こしに失敗している。この傾向は2016年の大統領選挙の時も同様であり、オバマ大統領時代に民主党の大票田として存在していた黒人票は完全に機能不全に陥っている。

共和党側は黒人層からの積極的な得票を引き出すまでには至らないものの、黒人票が選挙時に「寝る」だけで結果に大きな変化が生じることを理解している。そのため、失業率改善、刑務所改革、インナーシティ問題解決などの取り組みを、共和党にシンパシーを持つ黒人牧師らを通じて同コミュニティに伝えることは重要な選挙対策となっている。

中間選挙の接戦選挙区を見据えて、今後も共和党・民主党による黒人票を巡る綱引きが繰り返されることになるだろう。

 

 


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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