新しいものづくりがつくる産業の未来(第2回・3Dプリンター)


前回、IoTやものづくりを取り巻く環境の変化、そして3Dプリンタについて触れさせていただきました。「ロングテール」でもおなじみのクリス・アンダーソン氏による「MAKERS 21世紀の産業革命が始まる」は国内でも話題を呼びましたが、ものづくりがデジタル化しアトムとビットの境目が曖昧な時代へと突入しました。

今回は、新しいものづくりに大きな影響を与えている3Dプリンタについてもう少し詳しくご紹介させていただきたいと思います。

産業用3Dプリンタと、家庭用3Dプリンタ

一口に3Dプリンタと言っても、様々な種類があります。用途や性能で分類する場合、産業用と家庭用の2つに分けることができます。
産業用3Dプリンタは企業等で使われる高性能の3Dプリンタです。例えば自動車や航空機エンジンの部品製造にも用いられていますが、これまでの製造技術では難しかった複雑な造形が可能であったり、金型不要で小ロットで製造ができることなどにより、コストや時間の削減に繋がっています。

数百万円、数千万円の産業用3Dプリンタを個人や小規模なチームで所有して使用することは難しいですが、3Dプリントサービスを利用することで、1点からハイエンド3Dプリンタでの造形を依頼することが可能です。国内では「DMM.make」の出力サービスは有名で、石膏、アクリル、ナイロンや、ステンレス等の金属など、様々な素材で3Dプリントを注文することができます。また、ロストワックス法という3Dプリンタで造形した鋳型を使用した製法では、ガラスや真鍮、シルバー、ゴールドといった素材の製造も可能です。他の3Dプリントサービスでも、真鍮やシルバーの仕上げのカラーも選択できることが多く、エンドユーザーに届く製品としても十分に成立します。すでに、多くのデザイナーが3Dプリントサービスを利用し、ジュエリーやインテリアを作り販売しています。また、各産業で使用される3Dプリンタ自体も多様化しています。建築用の巨大な3Dプリンタは、たった1日で住宅をプリントしてしまいます。もちろん、外装内装の仕上げ作業は必要ですが、建造にかかる時間とコストは一般的な住宅に比べ大幅に圧縮されます。そしてNASAは、微小重力に対応する3Dプリンタをこれまで宇宙ステーションに送ってきました。すでに2014年には宇宙での3Dプリントが実現しています。

家庭用3Dプリンタがあれば、自宅でロボットベンチャーも可能

一方、高性能で高価な産業用の3Dプリンタに対し、家庭用3Dプリンタは数万円〜数十万円で購入することができます。今や3Dプリンタコーナーを設ける家電量販店があるほど身近な存在になりました。「家庭用」と呼ばれることが多いですが、個人がご家庭で利用するというよりも、スタートアップなど小規模な事業者やデザイナーがオフィスで利用したり、学校やコワーキングスペースなどに導入されることが多くなっています。安価なモデルでは、FDM(熱溶解積層法)が採用されています。樹脂のフィラメント(3Dプリントする素材)を熱で溶かしてノズルから噴射し、一層一層重ねていくことで造形します。産業用の造形物と比較した際のクオリティや、利用できる素材が限定されている点、そして造形に時間がかかるなど課題はありますが、その場ですぐに、しかも何度でも自分のタイミングで造形できるのは魅力的です。

数万円〜数十万円と安価ながらも、急成長中のロボットベンチャー等でも導入され、ビジネスの現場でも活躍しています。出力したプロダクトがそのまま販売されることは少ないですが、その手軽さゆえ何十回何百回と作り直し試行錯誤を重ねる開発の現場で活躍します。安価かつ軽量のため複数台購入しオフィスで同時に複数のパーツを造形したり、オフィスだけでなく家庭にも3Dプリンタを置いて開発をできるようにしたりと、文字通り「いつでもどこでも」ものづくりができる環境を作っていらっしゃる方もいます。

また、3Dプリンタを利用する際に3Dデータが必要になりますが、無料の3DCADソフトもありますし、従来は個人で利用するにはハードルが高かった高機能なソフトも安価で利用できるようになっています。そして、ソフトの扱い方や3Dデータの作り方についても動画などオンラインで学べる教材が増えており、限りなくコストを抑えたものづくりが可能になっています。

新しいものづくりを築き上げる人たち

メディアで3Dプリンタが頻繁に取り上げられていた「3Dプリンタブーム」自体は落ち着きました。しかしこの数年の間、産業用3Dプリンタの造形物の精度は着実に向上し、多様な目的に沿った3Dプリンタが開発され、家を作り宇宙へ飛び出して行きました。家庭用3Dプリンタにおいても、フルカラーや小型化に対応し、1万円程度で購入できる機種すら登場しており、もはや誰もが手に入れることができます。結果として、届くべき人から普及が進み大きくイノベーションに貢献しています。

これから注目したいのは、3Dプリンタと他のテクノロジーとの関係です。例えば、人工知能との組み合わせは今後も積極的に行われ、3Dモデリングや3Dプリンタによる出力過程に機械学習が取り入られれることで、新しいプロダクトも生まれるでしょう。

また、あらゆる面でものづくりのコストが低下し、誰もがメイカーになれる時代だからこそ、これまでであればものづくりに関わることがなかったであろう異業種からの挑戦者や、既存の製品にテクノロジーをプラスして新しいジャンルを生み出すクリエイターの活躍に期待が寄せられます。


川島京子
川島京子


1989年東京都生まれ。デジタルハリウッド大学院メディアサイエンス研究所リサーチアソシエイト。Creative Smash株式会社代表取締役。2008年、明治大学在学中に インターネット上の仮想世界「Second Life」にて音楽ユニットをプロデュースし、企業とタイアップしたバーチャルイベントを実施。メジャー音楽レーベルに勤務を経て、24歳で独立。国内最大級の3Dプリンタメディア等ものづくりやクリエイティブに関わる事業を展開。

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