「インターネットの歴史から考えるインターネットビジネスの本質」<第11回>「アマゾン」-システム屋による建設と破壊-その2)


今回からはアマゾンのECからの展開、タコ足のようにどんどん延びていく多角化について書いていきます。その最初は、ECと並んで現在のアマゾンの収益を支えている屋台骨であるクラウドサービス=AWS(Amazon Web Services)についてです。

まずAWSについて直観的に感じる違和感は「ECの会社がなぜクラウドというシステム構築?」ということでしょう。それは前回説明したベゾズのアマゾン設立以前の経歴=システム屋、というDNAについて思い出せば、合点がいきます。

筆者の解釈では、アマゾンという会社は圧倒的なスピード感で顧客目線での優れたシステムを他社に先駆けて構築することによる優位性で勝負する会社なのです。

実際のところ、アマゾンがAWSを始めたきっかけは、空いている自社システム(サーバー)の有効活用だったということなのですが、それもアマゾンが巨大なシステムハウスであったから起こったことであることに間違いはありません。

アマゾンの2017年のアニュアルレポートを見ると、
 ・売上構成は
   北米でのEC  ・・・60%
   北米以外でのEC・・・30%
   AWS     ・・・10%

となっていますが、驚くのは上記3セグメントでの営業利益です。

2017で言うと、営業利益でECは若干の赤字、なんと黒字はAWSによってもたらされているのです。もちろんベゾスはキャッシュフロー重視ですから営業利益などはそんなに気にしていないわけですが、会計規則で見たときに、現状あんなに全世界のECを牛耳っているアマゾンが、ECでは赤字を出しながら、せっせとシステム投資を行えているのも、見てくれで会社トータルの黒字を確保できているのも、みんなAWSのお蔭であるとも言えるわけです。何せ、AWSの営業利益率は25%と異常に高いわけで、この利益率の高さだけからも、IT巨人たちが目先の主戦場としてクラウドでバシバシ戦っていることの理由がわかります。

それでは、このクラウド分野でのアマゾンのシェアを見てみましょう。
下記グラフが、ゴールドマンによる2017年の実績と、2019年での予想です。

アマゾンがダントツで、続いてマイクロソフト、アリババ、グーグルとなっています。アマゾンの強みは、企業目線での使い勝手の良さにあり、この点はECにおいてアマゾンがやってきたことを個人顧客から法人顧客に敷衍して業務展開していると考えれば理解しやすいように思います。

法人市場という大きな市場に対して、マイクロソフトは「プラットフォーマー」としてクラウドに傾斜する一方、アマゾンは「システム屋」としてのフロンティアであるクラウドにいち早くデファクトを築いている、というのが筆者の見立てというわけです。

ところで、「クラウド」と言うと、アマゾンのようなサービスの提供者から見れば、最近始まった単なる法人相手のサービスというイメージがしてしまうのですが、ユーザーである法人顧客にしてみれば、これまでセンター系→分散系(企業内サーバー)と進んできた企業内のシステム構築の姿が、データ保持の安全性や効率化という観点からクラウドという形で進化したものです。それまで一つ一つのシステムベンダーが囲い込んできた企業ごとのシステムが、クラウドという形で標準化され、様々な知見が蓄積されながら誰でも使えるプラットフォームになっているということです。

早くからAWSとしてクラウドを提供してきたアマゾンは、分散化の流れの中で、「システムゼネコン」としての既得権を奪われてきた大手のシステムベンダーの息の根を止め、インターネットを始めとする新たなシステム関連のビジネスに否応なしに向合わせるきっかけになったのではないでしょうか。

もちろん、クラウドという法人市場のプラットフォームを一旦獲ればアプリやAIや、今後進化していく全てのシステム関連のものが総取りになるということはないのでしょう。ただ、当然のことながら、法人のシステム市場という、この大きな市場の帰趨を決める大きな要素が、法人システム市場のプラットフォームであるクラウドであることは、間違いないことのように思われます。

アマゾンがクラウド市場における覇者でい続けられるかは、はっきり言ってわかりません。巨大IT企業が鎬を削っているレッドオーシャンなのですから。

ただアマゾンという、会計上利益が出ずともキャッシュフローを惜しげもなくシステム開発に投入する会社は、今後も「システム開発」という競争の場ではその優位性を遺憾なく発揮する可能性は高い、とは言えそうです。

この連載では、巨大IT企業のビジネス展開をなぞることによって、インターネットの本質や将来のインターネットやインターネットビジネスの姿を探るといったコンセプトで書いているものですが、アマゾンの場合には、マイクロソフトや次に取り扱う(第15回からの連載を予定しています)グーグルとは違う特質があるのではないかと筆者は感じています。

それは、「破壊」と言うことです。

マイクロソフトの所で述べたようにマイクロソフトはPCという「新たな」ツールを普及させ、officeによってこれまでなかったオフィース内での便利ツールを発明しました。グーグルも高性能の検索エンジンでインターネット世界にエネルギーを注入したと言って良いでしょう。

ECにおいて、アマゾンが新たな業種に進出するたびに「アマゾン・エフェクト」と言われ、(既存の)リアルでの小売業者の株が売られる現象を見るにつけ、既存の小売りの仕組みを「破壊」する怖れをアマゾンは産業界に振りまいているかのようです。

しかし、それは同時に、恐ろしく非効率的な小売、流通といった仕組みを、最終ユーザーの視点で効率化する新たな「建設」をやっていると見ることも出来ます。

アマゾンは世の中にある非効率的な仕組みに目を向け、今後もスピード感と圧倒的なシステム構築力で社会を変えていくパワーを持った会社、そしてその背後には、「単年度の利益なんか関係ないぞ」と考え、ひたすら顧客目線で設備投資に邁進するベゾズというカリスマ的な経営者がいるというわけです。

例えば、今回挙げたAWSについても、資金の乏しいスタートアップ企業にとってAWSは極めて安価に会社基盤を整えられる素晴らしいツールとなっています。表面的には破壊を進めながら、様々な形で社会の中での無駄や非効率性を破壊し、社会に貢献していると言っても良いのではないでしょうか?

次回はアマゾンの3回目、kindle、KDPなどについて筆者の体験記も交えて、取り上げます。

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「インターネットの歴史から考えるインターネットビジネスの本質」連載シリーズ

第1回 「インターネットの始まり及び、この連載の狙い-増殖する生命体
第2回 「マイクロソフト」-変貌するプラットフォーマー(その1)
第3回 「マイクロソフト」-変貌するプラットフォーマー(その2)
第4回 「マイクロソフト」-変貌するプラットフォーマー(その3)
第5回 「マイクロソフト」-変貌するプラットフォーマー(その4)
第6回 「グーグル」-「Don’t be evil.」.(その1)」
第7回 「グーグル」-「Don’t be evil.」.(その2)」
第8回 「グーグル」-「Don’t be evil.」.(その3)」
第9回 「グーグル」-「Don’t be evil.」.(その4)」
第10回 「アマゾン」-「システム屋による建設と破壊」(その1)」