米シンクタンク最新情報・第1回 東アジア情勢は台湾海峡に回帰する


米・ハドソン研究所が1月4日に “Taiwan and the Indo-Pacific Strategy”というシンポジウムをワシントンD.C.で開催した。なぜ今、北朝鮮問題ではなく台湾なのか。その意味するところについて本稿では掘り下げていきたい。

そもそもハドソン研究所とは如何なる存在なのか。同研究所はハーマン・カーン博士らによって設立され保守的な立場から主に安全保障政策を手がけてきた。ベトナム戦争への助言も行っており、伝統的に国防総省に強いと言うことができる。また日本との、特に安倍家との結びつきも深い。カーン博士は日本経済の伸長を予言し、京都産業大学の顧問でもあった。安倍晋太郎元外相の元秘書官であった磯村順二郎氏が上席研究員として在籍している他、安倍晋三首相は2013年に設立者の名を冠したハーマン・カーン賞を受賞している。同賞はロナルド・レーガン元大統領やヘンリー・キッシンジャー元国務長官らにも送られており、外国人としては安倍首相が初の受賞となる。

さて、なぜ彼ら彼女らは北朝鮮ではなく、台湾を取り上げたのだろうか。シンポジウムに登壇したアシュリー・テリス氏は「アメリカと中国のビジョンは構造的な矛盾を抱えている」と指摘する。その矛盾が現れる場所が台湾なのだ。北朝鮮は確かに切迫した危険ではあるが、台湾こそが東アジアにとって本質的な課題であり、中国こそが真の安全保障上の脅威なのである。

テリス氏は「中国は7年前、シーレーンの確保をアメリカ海軍に依存しないという結論に至り、インド洋と太平洋の同時運用を通じてアメリカをアジアから遠ざけようとしている」と続ける。その一貫として台湾への侵攻をも考えていることを、米・プロジェクト2049研究所のイアン・イーストン研究員が中国内部資料にもとづきThe Chinese Invasion Threatで明らかにした。シンポジウムで司会を務めたセス・クロプシー上席研究員もその著作で、長年続いてきた台湾―パナマ間の国交も中国の圧力によって昨年ついに断絶されたことを取り上げる。この安全保障の現実は、アメリカの伝統的価値観である「航行の自由」を、アジアの同盟・パートナー国を脅かすものだと登壇者は声を揃えた。

そのような状況において台湾の動向はどうか。ジェイミー・フライ氏は「ニューサウスバウンド政策はこの流れに抗う潜在性がある」と言う。台湾は国民党・馬英九前総統のもとで巨大な中国市場とのつながりを深める経済政策がとられてきた。しかし、その経済成長は政府と近い企業のみによって占められているとの批判が若者を中心に高まりつつあった台湾独立ナショナリズムとつながる形で、民進党・蔡英文総統への政権交代が実現した。ニューサウスバウンド政策はこのような背景で台湾の輸出入先の多様化を図り、中国への依存度を引き下げることを狙う。

トランプ政権は蔡英文率いる台湾へのコミットメントを高めていくだろう。就任以来、安全保障政策の戦略が見えないと批判されてきた同政権であるが、昨年12月18日にナショナル・セキュリティー・ストラテジーが発表された。そこにはアメリカが1990年に同ストラテジーを発表して以来初めて、台湾の名前が明確に記されている。前馬英九政権は親中派であり、前オバマ政権のリバランス政策は中国に対して慎重であった。トランプ政権はこの遅れを取り戻すためにもリバランス政策をインド・太平洋戦略へと組み換え、その文脈への台湾の位置づけを急いでいる。

エリック・ブラウン上席研究員は「アメリカは(ニューサウスバウンド政策にもとづく)台湾への投資促進と(台湾関係法にもとづく)台湾の軍事力強化に協力すべきだ」と提言する。台湾関係法にはアメリカは台湾の自衛のために必要な兵器の提供と適切な行動を取ると記されている。アメリカが実質的に台湾へ武器を輸出できる唯一の国であることを受け、テリス氏は「中国の軍事費の伸びに対して台湾を支援すべきだ」と主張する。トランプ大統領と蔡英文総統による電話会談のように「柔軟な発想が待たれる」とフライ氏は踏み込んだ。

台湾では2018年末に統一地方選挙がおこなわれる。2014年におこなわれた統一地方選挙では当時与党であった国民党が大敗を喫し、政権交代への足がかりとなった。しかし台湾民意教育基金会が昨年12月31日に公表した最新の世論調査によると、蔡英文政権を支持しないは46.6%で支持するの35.9%を10.7%上回っている。本選挙での勝敗は蔡総統の党内における指導力低下を招くだけではなく、直轄市の市長は議決権はないものの内閣に相当する行政院会議に出席できるため、政権運営により直接的な影響をもたらすものと思われる。与党民進党が支持率を回復できるか、東アジア情勢に大きな影響を与えるだろう。

トランプ政権のインド・太平洋戦略は、安倍政権が用意したビジョンに乗っかる形となった。一方でイーストン研究員は前述の著書において、中国人民解放軍が上級士官に対して「台湾を取れば日本へのシーレーンを封鎖することができる」と指導していることを指摘する。このような安全保障環境において、日本は何をすべきなのだろうか。


渡辺克也
渡辺克也

パシフィック・アライアンス総研 アソシエイト
パシフィック・アライアンス総研のワシントンD.C.支部の立ち上げを担当。神道天心流天津蹈鞴正統・空手免許皆伝。

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