インド農業の未来を変えるアグリテック


全就業人口の5割、6億人と言われるインドの農業人口。インド政府は、5年間で農民所得を倍増させると発表し、農作物の最低買取価格(Minimum Purchase Price)を50%引き上げる政策を導入しています。また、肥料への補助金や納税の実質的な免除など、様々な優遇措置がとられていますが、財源を必要とするこれらの施策はサステイナブルとは言えず、根本的に農民の生活を改善するものではありません。今回紹介する「AGRIBUDDY(アグリバディ)」は、テクノロジーの力で農業活動の透明性を高め、農家に必要な運転資金、保険、農機、肥料などを彼ら独自のプラットフォームを通じて提供しています。

アグリバディが解決する課題

アグリバディの課題解決の中心になるのは、世界の「NEXT BILLION」と呼ばれる、現代のエコシステムから隔絶された40億人の人々。さらにそのうちの75%とも言われる新興国僻地に暮らす小規模農家です。小規模農家は構造的に貧しくなるスパイラルに入っており、その要因は以下の4点です。

① 収穫量が低く収入が少ない
② 稼ぎのよい都会の建築現場に出稼ぎに出てしまい、農繁期の人出不足(人件費高騰)
③ 運転資金が不足し必要な農業資材が投入できない
④ 運転資金を調達するための計画や与信が得られない

アグリバディでは、この4つのマイナスのスパイラルを、彼らのサービスを通じて恒常的に改善していくことを目指しています。

<ポジティブなスパイラルへの転換>

アグリバディのアプローチ

それでは、具体的にどのような施策でこれらの課題を解決していくのでしょうか?アグリバディでは、6つのプロセスを通じて、最終的には安全で品質の高い作物をブランディングし農家の収入を倍増させようとしています。農作物の買取価格を引き上げるなどのインド政府による措置と比較して、はるかに多くのステークホルダーが存在し、エコシステムが構築されることが見て取れます。

アグリバディが特にユニークなのは、オンラインのみならずオフラインのアプローチも採用していることです。まずオフラインでは、BUDDY(バディ)と呼ばれる現地エージェントがサービスの中核を担います。バディは、小規模農家と同じ農村に住み、同一言語でコミュニケーションが可能な人物で、アグリバディの各サービスを個別の農家に対して提案・販売する役割を持ちます。

オンラインでは、このバディがスマートフォンのアプリを活用し、耕作に関する様々な情報を収集していきます。収集した情報を元にアグリバディが独自の収支予測モデルを活用し、農業活動に必要な「収穫時後払いサービス*」を提供します。また、農家が全ての農業資材購入をキャッシュレスで行うことが可能なのも特徴の一つです。
*サービス対価の支払いを、収穫物を現金化する時点まで猶予できる仕組み

下図からも分かるように、最終的にアグリバディのサービス提供を受けた農家では、一般的な農家と比較して収穫量に1.5倍程度の差が生じています。

このバディを中心としたオフラインの小規模農家ネットワークと、全ての農業資材・サービスをファイナンス付きで享受できる仕組みが、アグリバディの強みです。

アグリバディが創る新たな農業経営

日本では既に農協という制度が確立され、農家に必要な情報から資材、金融までワンストップで提供する仕組みが確立しています。アグリバディ創業者の北浦氏は、自身のサービスを「スマートフォンを使用したバーチャル農協」とも言っており、農協の仕組みが確立していない新興国では、農協の代替となるサービスに育っていく可能性を十分に秘めています。

就業人口の5割を占める農民たちが、アグリバディのサービスを通じて生産効率を上げることができれば、インドの経済成長をけん引する大きな推進力になることは間違いありません。アグリバディは、小規模農家の所得を向上させるだけでなく、そこから収集したデータ解析により金融機関の与信を提供し、資材・農業サービスも販売可能にするという、これまでになかったエコシステムをテクノロジーの力により統合し創造しています。今後も類似の取り組みが、インフラや制度が未発達なインドの経済成長に寄与していくでしょう。


鈴木慎太郎
鈴木慎太郎


米国公認会計士。SGC(スズキグローバルコンサルティング)代表。2010年5月よりニューデリー(インド)在住。40社以上のインド拠点設立、100社以上のインド・会計税務にかかるコンサルティングに従事。2016年よりスズキグローバルコンサルティングを設立し独立。日本企業向けにワンストップでインドの拠点設立・会計・税務・法務をカバーする総合コンサルティング事務所を経営。 URL: https://www.suzuki-gc.com

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