本当に「愛郷心がある地方創生」とは何か


<本当に愛郷心があるなら「形だけの地方創生」は耐えられないと思う。>

地方創生政策が実行されてから早数年経つわけであるが、官製宣伝以外で地方創生がうまく行った事例の報告はほとんどないと思う。

筆者が主張する地方創生とは「日本全体GDP平均と当該自治体のGRPの伸び率」及び「日本全体の人口減少率と当該地方自治体の人口減少率」が統計上有意な差があるレベルで改善すること、更にその前提として「自主財源比率が50%以上あること」「地方創生予算で投下した以上の追加税収の見込みがあること」としたい。

「地方創生」は社会的投資。当たり前のことであり、国民の税金を使う以上、虚構を排したシビアな現実から捉えるべきである。

実際には筆者が考える基準を達成できる地方自治体はほとんどなかったはずだ。というか、真面目に「地方が創生(≒発展)することを考えていたとも思えない。全国の地方自治体ではお上に言われたから仕方がなく、「地方版総合戦略」を作って、ほぼ妄想に近いような計画案の策定に人員・予算を投入し、雀の涙程度の補助金をもらうことに汗をかいたはずである。

たとえば、同戦略で言及する2060年の人口見通しというような社会や技術の革新を無視したソ連や北朝鮮ですら真っ青な目標を作ることに何の意味があるのだろう。断言してもいいが、「その戦略に書いてる内容で本当に人口増(≒経済成長)に成功する」と思っていた自治体職員はほぼ皆無だったことだろう。彼らも馬鹿じゃないのでそんなことは分かっている、

形ばかりに内閣府の成功モデルとして取り上げてもらう事例くらいは見せ方次第では作れるかもしれないが、皆さんは本当にそれで良いのか?と素直に思う。愛郷心があるなら本来納得してはいけない類のモノであり、本当に故郷の発展を思うなら従来のやり方を180度逆転させなければならないはずだ。そこで、批判ばかりしていても仕方がないので、筆者も地方創生について私案を講じたいと思う。

<真の地方創生に必要な「減税」「規制廃止」「実学教育」の3点セット>

筆者が考える地方創生策は極めて単純である。それは地方自治体を縛る税金と規制を大幅に削減することだ。現在の補助金漬け・規制だらけの地方自治体運営の真逆を行けば良いだけのことだ。現在のやり方が間違っていることは既に嫌というほど証明されているのだから試してみる価値がある。

第一に、資金の流れを変えることだ。

他の地域と比べて大幅に税金が安くなると自然と資金が流入するようになる。お金というものは常に自由なところに流れていくものであり、社会の余剰資金の流れを自然に作り出すことが地方創生の第一歩ということになる。これは住民税5%減税のような生半可なものではなく、地域として戦略として覚悟を決めた減税率を設定する必要がある。

この際、大事なことは「役所を通らずに地域住民に直接的にお金が流れ込む」ことである。なぜなら、役所に入ったお金は政治的影響力が強いところに還流するものであり、それは必ずしも民間のニーズに即したものであるとは限らない。したがって、この資金の流れは「補助金」ではなく「減税」である必要がある。

そのためには、特に地方法人税を激減させることは必須だ。地方債を湯水のごとく発行する原因である無駄な支出を削減し、総務省からの縛りを受けない形で大減税を断行するべきだろう。

第二に、規制を廃止することだ。

規制は優れた頭脳が集まることは阻害する。むしろ、規制自体が歪んだ利益を生み出すために、規制に関する処理を行うことに対して、地域の優れた頭脳が浪費される構造が構築される。この頭脳浪費の典型例が地方公務員であり、若い優秀な労働力を生産性がない仕事に就かせている。さらに、規制が多い国では税の中間搾取が増加し、社会の効率性の低下するとともに再分配制度もまともに機能しない。

ビジネスに関するあらゆる規制を廃止することで、日本中だけでなく外国からも優れた頭脳を呼び寄せることになるだろう。規制廃止とは獣医学部を一つ開校するか否か、というレベルではない。そして、規制は緩和ではなく廃止されるべきものだ。ちなみに、所得税・消費税の重税国家である北欧諸国が頭脳・資金を集められるのは、ビジネス規制が少なく法人税率だけなら相対的に低い環境を整備しているからである。(Index of Economic Freedom参照)

とはいうものの、現実は上述の獣医学部開校すら実行することができないのが日本だ。(外国の友人に話しても絶対理解してもらえないガラパゴス)したがって、地方自治体側は腹を括って法解釈を準備した上で現実には法適用を見て見ぬふりをするグレーな規制運用を実施するべきだ。そして、経済的な成果が上がった場合には、地方自治体はその成果を論理的に補強して国会議員に全国に普及するように申し立てるくらいの気概が欲しい。

第三に、実学教育を徹底して行うことだ。

資金が流れて一部の優れた頭脳が流入したとしても、それだけでは地域の発展を実現することは流石に不十分だろう。その前提として「徹底した実学教育機関」と「実務ができる人材」が必要である。

いわゆる偏差値エリートを育成する教育は地方創生にとっては無意味である。むしろ、それらの偏差値エリートは本来は地域の実務を担う若者に落ちるはずのお金を中間搾取する存在でしかない。したがって、余計な人間を食わせる必要はないので少ない方が良い。

実学とは、実際にそれでお金を稼ぐことに直結する学びのことであり、一人当たり付加価値額が高い産業に従事するためのスキルを身に付ける教育のことだ。

地域の人々は、それらのスキルが身に付く専門学校の誘致を積極的に実施しながら、関連産業の集積を進めるべく努力することが大事だ。大学の誘致も理工系大学やMBA・専門職大学院以外は特に必要がなく、企業が求める人材を揃えることに注力するべきであり、企業と完全なタイアップをした人材育成を行うべきだろう。また、仮にグローバル企業を誘致したいなら、従業員の子どもの教育環境を整備することも大事であり、インターナショナルスクールを設置するための要件緩和なども必須のものになるだろう。

現在の地元住民自身が高いスキルを身に付けられなかったとしても、それらの集積された産業に流入・従事する人々に、従来までは二束三文の土地を高値で貸し出せるし、飲食などのサービスを提供する道も開けることになる。地方創生にはそのくらいの割り切りが必要だ。

<地方の大人は「東京都に『持たざる』状態で出てくる若者」のことを考えよ>

東京都への若者の社会流入などの一極集中が問題となっているが、それは東京都の問題というよりも地方の問題である。つまり、絵に描いた餅で「効果がない」と分かっている地方創生策などを継続し、実際には地域の死を座して眺めることを繰り返してきた結果だろう。

東京に憧れて(または地元に仕事が無くて)地方から東京に出てくる若者の職は褒められたものばかりではない。東京の超有名大学卒であったとしても使えない人間はバッサリと切られていく時代にとうの昔になっている。東京は一見して新参者を受け入れるように見えるが、そこで余所者がのし上がっていくことはそれなりに大変である。持たざる者(資本・教育・人脈)が若さ一つで容易に這い上がれる場所とは言い難い。

地方の大人は多くの若者が本来は有利なはずのホームを捨てて、東京で挑戦せざるを得ない現状を見ても何も思わないのだろうか。筆者が長年疑問に思っており、いつまでもマヤカシの地方創生で自らの心を誤魔化し続けるべきではない。まして、自らの故郷の状態を見て見ぬふりをしながら、東京に若者が出ていくことを嘆くことなどナンセンスだ。

筆者は「真」の地方創生を願っているからこそ、現在の地方創生には疑問を持っている。だからこそ、遠からず日本の地方にも本当の改革・発展に向けて舵を切るところが現れると信じている。そして、その時には同地域の担い手に大いに協力したいと切に願う者である。

 

 


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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