「インターネットの歴史から考えるインターネットビジネスの本質」<第15回>「アップル」-ブランド価値NO.1企業の栄光と苦悩-(その1)


【出典】フリー素材、ぱくたそ


さて、今回からはアップルです。

本連載で採り上げている巨大IT企業については、日々新たなニュースが入ってきて、そのたびに、その企業に対する構造的なイメージを変える必要があるのか検証しなければならないわけですが、アップルについても何回かの連載を始めようとした矢先にもいくつかの大きなニュースが流れてきました。

一つは、2018年4~6期の決算で純利益が前年同期比32%増の115億1900万ドル、売上高が同17%増の532億6500万ドルと、過去最高であったこと、二つ目は、上記を主要因として時価総額が米株式市場で米企業として初めて1兆ドルを突破したことです。


【出所】ビジネスインサイダー ジャパン

上記チャートは、比較的創業の早いIT企業の内、現在も生き残っているIT企業の株価チャートです。アップル同様、長期的には素晴らしい成長を遂げてきたといえるマイクロソフトが、90年代後半に一つのピークを付けその後の中だるみを経てまた上昇を始めているのに対し、アップルは、紆余曲折、毀誉褒貶の激しかった創業者スティーブ・ジョブスへの評価同様、株価は株価上がったり下がったりしながら、基本的には一貫して右肩上がりで、着実に株価を「積上げてきた」かのように見えます。i-phoneの売上不振が伝えられていただけに、アマゾンの方が1兆ドル企業到達が早いと見られていた下馬評を覆して、世界で最初に1兆ドル企業になったのでした。

アップルが「積上げてきたもの」は何だったのか、それが本連載で僕が書いていきたいことであり、今のアップルの強さを示すものなのです。

1兆ドル企業への到達ということについては、メディアで大々的に採り上げられ、その理由に関する分析記事もたくさん出回っているので、本連載は、そのことを追いかけるのではなく、もっと根源的な、あるいは歴史的な観点でアップルの現状と今後について考えてみたいと思っています。

アップルの時価総額は上述のように1兆ドルを超え、現在世界一の「株主価値」の会社になったわけですが、そもそも株主価値というのは、分かりやすく言えば、その会社を丸ごと買収するのに必要な金額ということであり、似た概念の「企業価値」から「負債」を引いたものであって、上場企業では時価総額(通常、発行済株数×株価の総和)ということになります。

では、この時価総額(そして、そのベースになる株価)なるものは、どのように決まるものなのでしょう。

資本主義経済では、需要と供給でモノの値段は決まり、(そうしたことが起こる場である)市場で、市場参加者の評価によって決まった時価総額こそが、とにかく「正しい」ことになっています。ただ、その「正しい」値段が、過大評価(つまり将来下落の可能性が高い)なのか、過小評価(つまり将来上昇の可能性が高い)なのかは、市場参加者にとってはとても気になる、重要なポイントです。

したがって、株式市場においては現実の「正しい」価値である時価総額だけではなく、そのリアルな時価総額が過大評価なのか過小評価なのか、はたまた適正評価なのかを見るために、理論価格を計算することが一般に行われます。特に、企業価値が市場によって決められない非上場企業については、この理論価格がことさら重要になってきます。

理論価格について、現在の世の中では、DCF法(Discounted Cash Flow)をベースに計算することが広く用いられています。これは、将来の予想利益を割引率(市場金利)で現在価値に引き戻して合計した「今後稼ぎ出すであろう利益の総和」という基本思想のもとに、経常的な(特殊要因を除いた構造的な)目先の利益水準の予想と将来の利益成長率によって計算されます。

例えば、2017年度の世界の利益のランキング(ファクトセット調べ)では、1位のアップル(484億ドル)に対して、2位のブリティッシュ・アメリカン・タバコ(483億ドル)は現在(2017年)の利益水準では肉薄しているのに、時価総額ではアップルの1割程度となっています。
喫煙者が減少しているのは世界中の傾向であるのは自明のことであるため、タバコを主力商品としているブ社よりも、IT企業という成長業種に属するアップルの成長力は高く評価されているのは当然です。因みに3位はウォーレン・バフェットのバークシャー・ハザウェイ(449億ドル)で、時価総額では、(今この原稿を書いている8月上旬時点で)世界で6位、アマゾンの半分以下です。タバコやファンド(バ社ファンドではアップルをかなり持ってはいますが)よりもIT企業であるアップルの成長力はかなり高いと評価されているわけです。

但し、上記「成長力」と表したのは、DCF法によって理論的に、クリアに予想利益と成長率で企業価値を説明しているからであって、この「成長率」についてはかなりマユツバなものであることは認識しておいた方が良いのです。

と言うのも、そもそも利益予想だって不確かな上、せいぜい予想できるのは5年程度、それ以降については、例えば3~5年後の利益成長率がリニアに将来も続くと仮定して、等比数列の和(皆さん、高校の数学の授業で公式を習いませんでしたか?)で計算する・・・そんなものが理論価格なのです。

したがってM&Aの実務では、こんな理論価格はあくまでも参考であり、もっとザックリPER(株価収益率)何倍みたいなことの方がしっくりいくというようなこともあります。

さて、こんな風に書いてきて、筆者は何を言いたいのか?
それは成長率の背後にある、「アップルに対する期待」について読者の皆さんにおいても思いを馳せていただきたいと思うからです。つまり、アップルは今後どれほど成長するのだろう? そしてそれをもたらすようなどんな斬新な商品をアップルは発表してくれるのだろう? といったことです。もちろん、GAFAあるいは巨大IT企業は皆、期待されている成長力は高く、スピード感も半端ないものがありますが、アップルには他のIT巨人にはない特別な強みがあるのではないかと筆者は考えています。

こうした期待、今回の冒頭では「積上げてきたもの」と表現してきたことは即ち「ブランド」です。

このブランドという概念、一筋縄ではいかないかなり難物なので、あんまり深入りして本連載で述べるつもりはありませんが、アップルに対する期待は非常に高いことは事実であるように思います。

例えば、フォーブスがやっている「世界で最も価値ある企業ランキング」では、過去8年連続でアップルが1位(因みに2位はグーグル)となっています。


【出典】http://fuseishoyo-roku.cocolog-nifty.com/blog/2018/06/most-valuable-b.html)

次回は、このアップルの「ブランド価値」ということについて少し考えてみたいと思っています。


小寺 昇二
小寺 昇二

埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授
2014年より埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授。授業担当は「e-ビジネス論」「財務管理論」「スポーツ経営」「地域経営論」「現代経済論」「現代経済史」等。ラグビーチーム一般社団法人横河武蔵野アトラスターズ監事、埼玉県深谷市総合計画策定審議会委員。NPO法人日本公共利益研究所コンサルタント。

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