edtechと文理融合教育(番外編)-Society5.0を見据えた社会学者の奮闘記-


さて、ここまでさんざんに文科省教育の教育改革について、小生の経験をもとに、私見を述べてきた。

そうはいっても、社会学者は所詮「口舌の徒」。第一、文理融合教育なんてのはこれまで存在しなかったし、最近よくある国公立系の大学における文理融合も、所詮は両分野で名を馳せた研究者を同じ学科に寄せ集めて文科省の目をごまかしているだけで、現実には文理融合なんて「ありえない」。

文理融合型教育ができる人っていう公募もないし、ましてや、文系の研究者は自説について質問されると「俺のいうことが間違っているのか?」とけんか腰になるから、文系の側からの文理融合なんてありえないわけで、所詮オマエの言っていることは、批判のための批判で会って何も生み出さない売文屋の戯言だ、と思われている方がたくさんいらっしゃることと思う。

それも当然。世の中がそういったことを具体化するのを許さないのだから。そのような方々に対して、どれだけ説得力を持つのかわからないが、小生の目指してきた文理融合の在り方を具体化することができた事例を一つ、紹介することにしよう。

去る9月2日、新宿区の都立戸山公園・新宿スポーツセンターで、しんじゅく防災フェスタが開催された。ピースボートからの告知を受けて、小生も研究室として出展を行ったのであるが、災害対策でご協力させていただいている方々にお知らせしたところ、スカパーJSAT株式会社、損害保険ジャパン日本興亜株式会社、SOMPOリスケアマネジメント株式会社から申し出があり、当日は一つのブースで四社が協働展示することとなった。


【出典】しんじゅく防災フェスタ2018のFacebookより

当日は、社会学者である小生が義援物資マッチングと避難所情報収集システム、そして新宿駅東側の地上の街並みと地下街についての3Dデータの展示を行い、スカパーJSATさんが衛星放送やデジタルサイネージ、防サイネージの展示に加えて、宇宙空間をにあって通信を支援する衛星と、その衛星を打ち上げるためのロケットを展示するなど、盛りだくさんの内容となった。

当日は、各社の部長級の方がブースの応援・視察に来てくださったほか、新宿区関係者や消防関係者、自衛隊関係者さんからは、スカパーさんやSOMPOさんの展示ということで、単独展示に比べて格段に注目度が上がったのではないかと思う。

この展示内容、普通に考えれば、「ありえない」。大学関係者が見にきていたとしたら、天野研究室はいったい何をやっているところなのか?専門は何なのか。文理融合なんて、お題目だけであって、一人一人の研究者は各学問分野に分断された、非常に狭い領域の専門のはずだ。

一人の研究者が「あれもこれも」という形で研究・活動を行うのは、ルール違反じゃないのか。そもそもなんで社会学者がシステムを組んで、3Dのデータを作ってるんだ??社会学者の展示ブースに、ロケットや衛星が展示されている???全くわけがわからない、となっただろう。

しかし小生にとって、文系の側からの文理融合というものは、文系学部・学科の中に理系の研究者のポストを用意しました、という形式的なものではなく、文系・理系の双方に通じた研究者が、文系的な研究に基づいた問題意識・問題解決の方法論を、理系の技術や機材をも自在に活用しながら社会に実装し、より良い社会を実現するためにある。

「学校の語源は有産階級の男性たちの余暇の手慰みなのだから、文理融合といっても学問が直接社会問題の解決に関わる必要はない」という立場もあろうが、30年ほど前のニューサイエンスブームを知る身には、過去の不毛を繰り返すようで、全く賛同できないのだ。小生はそもそも、セクタや時間空間の壁を超えて広がるネットワークを通した資源動員による問題解決のアクションに注目し、これをコミュニティ・ネットワークという概念で定義して、様々な事例研究を行っていた社会学者だった。

しかし東日本大震災が発生したのち、被災自治体や支援自治体、支援団体などの調査を通して、阪神大震災と同様の義援物資による混乱が発生していることを知り、これを解決するための情報システムの構築と社会実装のための構想を立てて霞が関や自治体の関係者を回って議論し、事業計画を立てて資金獲得を試みたが、ことごとくリジェクトされた。不毛な時間を過ごしているうちに、次の災害は迫ってくる。

小生は、避難所情報収集システムと義援物資マッチングシステムを自主開発し、民間サーバーを使ってサービスを無償公開。誰もが運用できるようにと、メンテナンスツールも構築したところ、災害対策に力を入れているSOMPOさんとスカパーさんが関心を示して下さり、防災フェスタでの共同展示が実現したのである。今後、小生のシステムの一部は、これらの企業によって社会実装される予定だが、これなどはまさに、目に見える形での分離融合といってよいのではなかろうか。

もっとも、小生の試みは、今始まったことではない。古くはインターネットのブラウザが公開された頃、総務省の外郭団体である㈶あしたの日本を創る協会で地域づくり運動の情報化に関する検討委員会の委員を拝命した時には、5年をかけて検討だけを行うという仕事に疑問を持ち、自分の研究室でサーバーを立ち上げて情報システムの構築・公開を行ったし、総務省のeまちづくり交付金の評価委員を依頼されたときは、放送ビジネスのビジネスモデルなどお構いなしに、難視聴地域の過疎の村からの「インターネットを通しての民放番組の配信事業」に予算をつけることを提言して通したりした。

こうして、あるときは省庁の事業に関わって、またあるときは外郭団体の事業に関わって、文理融合・問題解決型の活動を行ってきたわけだが、被災者支援に関しては関係省庁・自治体の双方から事実上の門前払いをされたため、民間企業との連携による社会実装という形となったのである。(もっとも、日創協会や総務省にとってみれば、小生は想定外で余計なことをしたためか、その後全くお呼びがかからなくなったのだが)さらに付け加えると、学部学生時代の統計学教育に対する疑問から、文系学生にふさわしい統計学の教え方について長年にわたって取り組んで、教科書も作成したのだが、日創協会や総務省での活動成果が社会実装され活用されたのに対し、小生の執筆した教科書は一慮もされなかったのは残念だった。

この事実は、文理融合にまつわる二つのことを示唆していると思う。一つは、文理融合といっても、教育内容を融合的にすることは、日本のシステムの中では事実上不可能ということであり、教える側を文理融合的にすることも、教育内容を評価する側を文理融合型にすることも、やるだけ無駄ということである。これは、教わる側が文理融合型の知を身に着けようとすれば、それは、教員もいなければ教科書もなく、評価対象にもならない知的な営みを、手探りで行うよりほかはない、ということを意味している。しかし、評価されることを効率的に学ぶという発想で受験戦争を勝ち抜いてきた若者たちが、大学に入ってからそれまでのやり方を全面的に見直して、教師もいなければ評価もされない能力を身に着けるために、努力することを期待できるだろうか。

そして今一つは、そうであればこそ、文理融合というのは教育内容を組み直すあるいは、新しい教育内容を作り上げるというのではなく、形のある成果を目指して行われなければ、実質的な意味を持たないということである。事実、文理融合に関わる小生の活動の中で、実際に社会実装されいろいろな活動に貢献したのは、サーバーの構築、データベースの構築、システムの構築、ハードウェア環境の整備といった、具体的な形のあるものだけだった。自らがかかわった事業の成果が広くお役に立つものとなったことは、研究者としての喜びである。ただし、具体的な事業対象の条件は多様であるから、ある場所でうまくいったパタンを、他の場所でそっくり真似て行ったとしたら、失敗することの方が多い。そして事業の場合は、学問研究と異なり、成功か失敗かが明確にわかる。それゆえ、現場で実地に学んだ学生の評価も、まっとうに行うことが可能なはずだ。

ここで誤解しないでいただきたいのは、この「形のある成果」が、モノを意味するのではなく、ソリューションというサービスを意味している、ということである。IoTの普及によって、製造業の多くが「モノを売る」ビジネスから「サービスを売る」ビジネスに推移しているのはもはや自明のことだが、ならば文理融合が目指すべきは、文理融合でなければなしえないソリューションをサービスとして受け入れられるものにまで昇華させること、あるいは、ソリューション全体を見据えながら、そのコアとなる部分を具体化することで、関連するセクタと協働してソリューションを実際に社会実装すること、であろう。

多様化・流動化の進む現代では、かつては通用したソリューションが瞬く間に陳腐化するだけでなく、一つ一つのケースにおける些細とも思える差異が、実は重要な意味を持っていることも珍しくない。そして、そのような現実に対応するためにこそ、文理融合型の知が必要なのである。おそらくこの部分こそは、AIがいかに発達しようとも、AIでは代替できない領域であり、AIが発達すればするほど、より重視されるようになる領域である。まさに、「神は細部に宿る」のだ。

かくして小生の文理融合型の営みは、ビッグデータとAIそしてデジタルツインを活用して、遥か昔にルポンの指摘した「群衆行動」への挑戦という、新しい領域に入っていく。必要な人材、データ、技術等は全てそろっていながら、予算だけは全くないという従来の構図そのままでのチャレンジだ。文理融合的なアプローチそのものが未知へのチャレンジであり、どのような結果になるか予想もつかないが、内閣府、国立情報学研究所、ドローンバード、9DW、RCソリューションといった新たなパートナーとともに、2020年までの社会実装を目指して、死力を尽くしていきたい。

そして、こうした営みを通して、文理融合型のソリューションやそれを担う人材の育成についても、有意義で建設的な提言をしていければと考えている。


天野徹
天野徹

明星大学人文学部人間社会学科教授。
専門は、情報社会学・社会統計学・都市社会学。東京都立大学大学院博士課程単位取得中退。社会学をベースに、文理融合・問題解決の知のあり方を追求してきた。(財)あしたの日本を作る協会の委員として、webサーバーを立て、「地域づくり運動情報データベース」を構築・公開。社会調査の領域に、ハイパーテキストを活用したプレゼンテーション作りや、3Dモデリングによる景観シミュレーションを導入。東日本大震災の後、自ら提唱したコミュニティ・ネットワークの理論をもとに、災害レジリエンスを備えた社会システムと、それを実現するための情報システムを構想。PHP、Java Script、CSSなどを用いて、義援物資マッチングシステムと避難所情報収集システムを構築し、サービスを公開。現在は、インバウンド等の災害対策として、AIを活用した被災者・帰宅困難者誘導システムの構築・一時滞在施設確保のためのビジネスモデルの構築と社会実装に取り組んでいる。

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