「インターネットの歴史から考えるインターネットビジネスの本質」<第16回>「アップル」-ブランド価値NO.1企業の栄光と苦悩-(その2)-



これまでアップルの前には、マイクロソフト、グーグル、アマゾンを採り上げてきて、それぞれの企業としてのDNA・・・要するにどんな会社なのか?を追求してきたわけですが、アップルについては、端的に他のIT巨人にはない「ブランド」の会社であると規定してみたいと思っています。

前回の最後で示したように、アップルはフォーブスの「世界で最も価値ある企業ランキング」において、過去8年連続で堂々の1位となっていますが、さて、フォーブスのこのランキングは、何にフォーカスしたものなのでしょう?

フォーブスのHPでは、「米国内で事業を行っていること」を前提として「各社の過去3年間の利益、それぞれの業界でブランドが果たす役割の程度を考慮した(ブランドが重視されるぜいたく品や飲料には高率、価格や利便性がより重視される航空会社や石油会社などには低率で加味)。さらに、過去3年間の株価収益率の平均値も考慮に入れている。」となっています。
中身は今一つクリアではありませんが、さすがリアリズムのアメリカの雑誌ですから「定量的に評価ができ」、そして「割高な値段でも商品が売れていること」「人々から支持されている」といったことが評価基準であることが窺われます。

フォーブスのランキングや巷に溢れかえっているブランドに関する学問的、あるいは実務的な議論はさておき、アップルのブランドに関して、「アップルには他のIT巨人にはない『ブランド』の強みがある」と規定した場合の、その要因を極めて直観的に考えてみたいと思います。

アップルのブランド価値の源泉を、
①商品の品質
②歴史やストーリー

に分けてみましょう。

①の商品に関しては、
 ・GUI、Mac、タッチパネルにおける直観的な操作など「使うことの楽しみ」を想起させる商品の開発(発売)
 ・ipod、ipad、iphoneなど、消費者をワクワクさせるようなユニークな商品の発売(開発)

が、アップルの場合の「ブランド価値」のベースだと思います。

アップルの商品が、他のIT巨人と決定的に違うのは、tangible、つまり手で触れることが可能であることです。ジョブスのデザインや品質に関する偏執狂的なこだわりもブランド価値を高める要素の一つと言っていいように思います。

そしてアップルの場合、何よりも②の歴史、ストーリー、つまりスティーブ・ジョブスを巡るストーリーの存在が大きく、それは現在に至っても、まばゆい光を発しているかのようです。

当連載の読者の方なら良くご存知のことばかりでくどいので、アップルのストーリーを箇条書き程度にしておきましょう。

 ・2人のジョブスがガレージで初代PCであるAppleⅠを開発(ウォズニアックのキャラ)
 ・ジョン・スカリーのCEO就任(「砂糖水」)
 ・ジョブスのアップルからの放逐(悲劇のヒーロー)
 ・ジョブスのアップルへの復帰(「栄光、挫折、復活」)
 ・数々のジョブスによる芝居がかったプレゼンテーション、
  とりわけ有名なiphone発売時のプレゼンテーション、そして今でも世界の若者に多大
  な影響を与えているスタンフォード大学卒業式でのスピーチ
 (僕も大学で、このスピーチは必ず学生に見せています)
など、

そして、そうした歴史を、映画や本、映像で後世にも伝えられるようにしていることも、アップルという会社とアップルの商品、ジョブスが混然一体になってストーリーを形作っているよう見えます。

ITというバーチャルで、機能・便利を売り物にする世界で「夢」を売る会社アップル。
アップルという会社は、他のIT巨人とは一線を画す、ブランド企業なのです。ジョブスは恐らく、ブランドということを非常に重視し、自ら意図的に「神話」を創り上げていったのではないかとさえ思えてきます。そしてガンによる自らの死をもって、アップルのストーリーを神話にまで昇華させ、あの世に旅立ったとも言えましょう(因みに、こうして今ものうのうと生き永らえている筆者はジョブスやゲイツと同じ1955年生まれです)。

21世紀に入ってからのブランド企業の代表がアップルだとすれば、20世紀のブランド企業で筆者が直ぐに思いつくのは、ルイ・ヴィトンやアディダスです。ルイ・ヴィトンは当初の堅牢なトランクに纏わるストーリー、そしてアディダスには、仲違いするプーマ創業者の兄と弟のストーリーや、「3本線が最も靴を足にフィットさえるものだった」というストーリーなどが、そのブランド価値を強化しています。

余談になりますが、「サッカー少年」だった(そして現在も一応60歳を超えてなお現役プレーヤーなので「サッカー熟年」でもあります・・・笑)筆者にとっては、アディダスのサッカーシューズは子供の頃の憧れで、今でも他のスポーツブランドとは別格なイメージが頭に強烈に焼き付けられています。

ルイ・ヴィトンやアディダスのような20世紀のブランド企業が、今でも変化の激しい消費者ニーズを捉え続けてサバイバル出来ているのは、確立されたブランドによる「高価格=利益率の高さ」によるもの、そしてその利益率の高さによって得られた利益によって消費者ニーズの変化に即応した商品の磨上げ、新商品開発、そして意識的なストーリーの維持・拡大によるものです。昨今の企業の「コンプライアンス」で強調される「経営理念」も同種のことですね。

アップルの今回の1兆ドル企業化の要因は、①自社株買いやアップル・ミュージックなどの②サブスクリプションモデルの利益拡大(次回採り上げます)と共に、③売上の2/3を占めるiphoneにおいて新規モデルを出せずに台数は伸びない代わりに高価格帯の商品のウエイトを高めたこと、と言われているわけですが、この③については、ただ利益が上がった・・・ということではなく、その利益を使って、新たな商品の開発やブランド価値の維持・拡大が必要ということでしょう。きちんと、「ブランド企業」としての王道を行っています。

ジョブス亡き後にも、1兆ドル企業としてIT巨人のトップ、世界の企業のトップに君臨しているわけですから、後継者であるティム・クック(ストーリーということでは、Gayであることを公表した彼のスマートさはブランド価値を毀損するどころかプラスのイメージを付加しているようです)の手腕は相当であると言わざるを得ません。

しかしながら、実際の利益水準と株価を比較したとき、グーグルに比べてその成長力やブランド価値は相対的に低評価と言わざるを得ません。PER(と言っても昨今のIT巨人の株価は上がったり下がったりが激しいので、PERはかなり変動しますが)ザックリ言うと、グーグル(Alphabet)、フェイスブックの30倍強という倍率に対し、アップルは20倍前後と株価が相対的に割安になっています。
株式市場は諸手を上げて、クックのアップルを信用しきっているわけではありません。とりあえず、サブスクリプションモデルで利益の多様化に着手はしている、ブランドを活用して利益を高めてはいる、ということで、とりあえずの彼の評価は及第点だとは思いますが、会社の実態を見たときに、まだまだ盤石ではないのです。ジョブス亡き後、世界一のブランド企業に相応しい「目の覚めるような新商品」を我々は見られていません。

今後のアップルの行方はまだまだ定まったわけではないのです。

会社としてはグーグルが好きで、PCはビジネス上の使い勝手から基本的にWindowsの筆者ですが、携帯はずっとiphoneです。皆の期待を裏切らないワクワクするような新製品を1ユーザーとして期待しています。

※一昨日(アメリカ時間で9月12日)にiphoneの新製品が発表されましたが、今のところの評判では、少なくとも「目の覚めるような」新製品ではないようです。アップル信者は相変わらず、買い変えると表明している人も多いようなので、アップルブランドは依然健在のようですが。


小寺 昇二
小寺 昇二

埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授
2014年より埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授。授業担当は「e-ビジネス論」「財務管理論」「スポーツ経営」「地域経営論」「現代経済論」「現代経済史」等。ラグビーチーム一般社団法人横河武蔵野アトラスターズ監事、埼玉県深谷市総合計画策定審議会委員。NPO法人日本公共利益研究所コンサルタント。

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