【マッドなチャイナ政治経済論考】第2回: わかっているようで実はぜんっぜんわからない社会主義市場経済って一体なんなんだ?


さーて、第2回目となるマッドサイエンティストによるサイケデリックなチャイナ分析。先月の第1回目寄稿での批判炸裂・連載即終了(爆死!)となる事態は、なんとか避けられたようです。セーフ!

前回は、チャイナ社会には「(中国共産党指導部が許可する限りにおいての)自由」が存在していることと、その絶対的な政治権力の強さを書きました。一方で、同時に一般庶民は、中共指導部と「阿吽の呼吸」で人間らしい自由も保ち続けている様子もご紹介してみました。
この日本と違うスパイシーなチャイナ的自由の空気感。これすなわちチャイナのすべての社会事象は、良くも悪くも政治が先にありきということ。産業経済とて例外ではありません。政治の下に経済あり、となるわけです(何度もいいますが、この超絶権力集中で大多数の一般庶民が圧政に苦しめられている状態というわけではないですよ~)。今回は「民主集中制」×「阿吽の呼吸」政治が内包するチャイナの産業経済の構造について観察しちゃいましょう!

※(カンサツとタイプしたら、観察の前に監察がでてきた日常的にチャイナの原稿を書いている僕のPC・・・。ご存知の方はご存知の泣く子も黙るチャイナの「監察」制度。この件については今後の寄稿にて!)

社会主義システムにアナーキープログラムが組みこまれた。

「そもそも産業経済というものは・・・」なーんて経済ロジックを大上段に構えてもわっかりにくいことこの上ないものですから、例を挙げながらみていきましょう。

例えば、チャイナのベンチャー企業が新しい事業をおこそうとしたときに、まずは法律でグレーやNGであったとしてもとりあえずやっちゃいます(ココがポイント)。14億人のなかから、その時代にある技術や資源を活用して、法律的にグレーな場所に踏み込んで一線を飛び越えてやってみちゃうイノベーターが登場します。この時点では、行政は見て見ぬふりをするようなことが多い(ココもポイント)。一時的に敢えて行政が指導に入らない、警察が取り締まらないというケースが散見されます。

こうした、法律スルーの起業家マインドや、違法行為に見知らぬフリする行政対応は、日本人的には理解しにくい現象かもしれません。息も詰まる管理社会に見える中国共産党マシーンには、実は「アナーキー(無秩序・無政府状態)」がサブシステムとして意図的に組み込まれている、とも言えます。

さて、そんな中で多くの事業・起業家は自然な事業失敗によって死に絶えていくわけですが、万にひとつのイノベーティブな企業の、ひとつの事業がうまくいって、次の段階でその成功モデルを模倣したような同業他社が筍のように全国的に発生する。で、それら同業の企業がチャイナ全土で群雄割拠になって自然淘汰・買収統廃合され、ビジネススキームが洗練されながら、ある程度の規模の産業として成り立ったあたりで、行政が待ってましたと言わんばかりに「そもそも論として法律でNGだよねぇ、そんな違法なことがまかり通ると思ってんの?え?ねちねち・・」的な論拠を正々堂々と上から目線で言い放って、業界を取り締まって、ユニコーン企業やIPO間近の大手の何社かを政治的に屈服させます(共産党の指導下に入らないと、事業停止ね、と)。こんな感じの流れが一般的。たわわなもぎたて果実をサクッとかっぱらっていくお上。真っ赤な「強権カード」が絶妙なタイミングで突然発動されます。かといって、お上は美味しい果実をくれる民間大手を壊すつもりじゃなくて、党に屈服さえすれば熱烈歓迎大保護(!)してくれるわけです。世界市場に向けても。
ちなみに、共産党の指導下に入れる屈服方式の具体例については、こちらの連載でのちほど寄稿しましょう(失念しちゃってたら、どなたか僕をつっついてください)。

はい、というわけで、例示した流れのように新規事業の初期段階で、法律や規制に抵触している民間事業者を、行政が取り締まらないことによって、既得権益産業の穴をぶち破って、奇跡的に新しいイノベーティブな産業になっていくという実例が過去数十年で多くありました。チャイナのICT(ネット企業・シェアリングビジネス等)関連はその代表格です。チャイナの起業家らは法律的にはグレーな事業について、「やってみなはれ」という政治の天の声をききながら(言い換えれば、このラインをこえたらやっちゃダメ・行き過ぎダメという見えざる線引きに慎重になりながら)、いけるところまでブッこんでみるわけですね。
政治側としても、新しいビジネスモデルの振興になるもんだから、結果的に産業振興の実績ができてハッピーになっているという。これって、改革開放路線以降(おそらく計画的ではなく)、チャイナのお上と庶民が数十年間の社会実験結果として見つけ出した「産業経済的側面での、法治主義の公正さという便益を享受&法治主義の硬直性というデメリットを打破」する二律背反事項克服へのボヤッとした新しい解なんじゃなかろうかと。

同じことを日本で想像してみてください。法律での規制やら、既存業界団体の慣習やらで、社会に全く隙がないうえに、ある意味まっとうに法律での白黒がついています。良くも悪くもできないものはできない。法治国家バンザイ。ダメなものはダメ。昨今は政治も超法規的な動きは鳴りを潜めています。(もちろん、我が国のこのグレーゾーンが少ない状態は悪だ、という意図は目下のところ一切ありませんが。)

「強権アナーキー混合経済」爆誕!

チャイナは産業経済活動においても、お上と庶民の「阿吽の呼吸」が色濃くでている。絶対的な強権の政府があるのに、その政府によってアナーキーが意図的に確保されることで、イノベーションの原動力になっている。これって、いまのチャイナを読み解く上で重要なセンスになるんじゃない?とかマッドサイエンティストは思うわけです。

現代のチャイナは鄧小平が導入した改革開放路線によって、計画経済から市場経済を導入し、「社会主義市場経済」などと言われているのは、皆さんご承知のこと。この間に、「世界の工場」として飛躍的な経済成長をとげました。だけど、「世界のR&Dセンター」を目指すいま2010年代のイノベーティブなチャイナを語るには、この社会主義体制下での市場経済というロジックの切り口は、はっきり言って不十分。むしろ、よく解らない。なぜチャイナは「中所得国の罠」にとらわれない気配なの?イノベーションは民主国家の十八番で、社会主義国家のチャイナは先進技術開発ダメダメなんじゃなかったっけ?という疑問。オーソドックスな「社会主義市場経済」という見方では解明できないことが多すぎるんです。
社会主義市場経済や国家資本主義という見方・コトバでは、この数十年間、チャイナがリアルに大量の大衆の屍の上に試行錯誤を繰り返して前進させてきたチャイナ式産業振興のシステムを表現出てきてないヨ、と僕は思っちゃいました。チャイナが数十年の臨床実験(社会実験)の結果、創り出しつつある「別の解」に理論が追いついってないって話です。

だから、マッドサイエンティスト的には、中国共産党指導部絶対政治権力下でのチャイナ的自由やアナーキープログラムを組み込んだ「強権アナーキー混合経済」こそ、今のチャイナの産業イノベーションの源泉なんじゃなかろうかと。まぁネーミングなんて深い意味はなんもないんですが、現場の空気感もふくめてこのネーミングどうですか??

行き当たりばったりっぽかった改革開放以降のチャイナ的市場経済、いまやウマくチャイナ社会にハマった「強権アナーキー混合経済」がイノベーションの源泉として強力なエンジンになっとるようです。中共指導部がこの路線を継続して推し進め、2035年あたりまでに中所得国の罠をぶっ壊すのも夢物語ではないような気がします。(気がするだけですよ。ほんのりとね。壮大にズッコケルかもしれませんし、えぇ。 ※2035ってのは、「中国製造2025」政策10年ステップの次の段階時期。)(続く)


中川コージ
中川コージ

戦略科学者
SF愛好家で非電源ゲーム(ボードゲーム・カードゲーム・トランプなど)コレクター。ゲームの本質を見極めるため「ゲーム≒戦略」研究の道へ。慶應義塾大学卒業後、英国・中国に留学。北京大学院で日本人初の経営学博士号を取得。日本・中国・米国を中心に世界のAI・ロボット産業、コンテンツ産業、宇宙産業、安全保障サイバー戦略を研究する。中国人民大学国際事務研究所客員研究員。経営学博士。

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