ブロックチェーンで私たちの生活と政府はどう変わる?
日本政策学校インターンの渡邉萌捺です。ユースデモクラシー推進機構さん主催、定例勉強会に今回も参加させていただきました。
【出典】主催団体公式サイト
☞http://youth-democracy.org/
第21回となる今回のテーマは、「ブロックチェーン・レボリューション」で転換する私たちの未来~ブロックチェーンで私たちの生活と政府はどう変わるか~。
講師は勝木健太さん。
経営コンサルタントとしての実績を豊富に有しており、BUSINESS INSIDERにて執筆されたブロックチェーンに関する記事は6万PV超え。「ブロックチェーン・レボリューション」の翻訳協力者でもあり、業界の最前線を知る勝木さんにブロックチェーンとの関わり方を教えていただきました。以下、講義の要約です。
ブロックチェーンの特徴
・国家しか作れなかった「通貨」を個人や企業も発行できる
・改ざんが実質的に不可能
・特定の管理者が不要
個人が経済圏を作れるというのは、なかなかすごいことだと思います。
ビットコインは、「公開鍵暗号システム」×「コンセンサスアルゴリズム」×「ブロックチェーン」の組み合わせで、トランザクションを検証するバリデーターに対して不正を行わないためのインセンティブを設計したのが革新的です。2009年に誕生して以降、1度もハッキングされていません。
管理者が不要というのは、今までは「Google」や「Facebook」のような中央管理者が私たち個人のデータを持っていましたが、今後は、私達自身がデータを保有できる可能性があるということです。
ブロックチェーンはデータベースのようなものと考えておいて良いと思います。
ビットコインの次は何がくる?
「ブロックチェーンはインターネット以来の革命!」と言われつつ、仮想通貨以降、あまりユースケースが出てこないのは、やはりまだまだ課題が多いからでしょう。
ボトルネックは
・スケーラビリティ
・セキュリティー
ブロックチェーンを活用し、ユーザー同士に経済的なインセンティブ設計をするというのは今後も難しい課題として残っていくと思います。
医療や自動車などのシリアスな分野以外から普及していくのが速いと考えられます。
今後、主流になる可能性が高いのは、「ブロックチェーン」×「ゲーム」かもしれません。ブロックチェーン上のデジタルトークン(アセット)がゲーム内のアイテム内で自作でき、育てて、相手に売ることができます。初めは0円のコインなんですが、アメリカの事例では1000万円で売れたりしています。
こういった「Dappsゲーム」が流行る可能性が高いと一般に言われています。
今後は、Webサービスの中にトークンを埋め込む。つまり、普通のWebサービスに会員登録したらトークンをもらえたり、運動などの良いことをするとトークンをもらえたりする機能を付与する事例がまずは普及するのではと思います。
例えば「アリス」は、良い記事を書いた人がアリストークンをもらえるのに加えて、いち早く良い記事をシェアした人もアリストークンがもらえます。より良いコンテンツを見つけ出すためのインセンティブとしてトークンを使っている事例です。10月からスタートするので今後どうなるか注目です。
ブロックチェーンの動向を掴むヒント
基本的に、日本の金融規制はアメリカの規制当局と同じような動きをする傾向があります。
クラウドファンディングも、アメリカで規制緩和された数年後に日本でも株式投資型クラウドファンディングなどが規制緩和がされていったので、アメリカの動向を見ておくと良いと思います。
そんなアメリカ当局はどうしているかというと、ICOで発行したトークンなどは一律「株のようなものだ」と捉え、基本的に金融商品取引法の枠内で考えることとしています。
ただ、「ハイリスクな金融商品のようなものを売るのは投資家保護の観点からなかなか難しいが、総資産1億円以上などの要件を満たす人は売っても良い」というようにリテラシーの高い人たちにいくつかの例外措置をとっているところなどは、上手いと思います。
先進国は既存のシステムが強いので、新しいものを排除しがちで規制が厳しいことが多く、先進的な企業は小国に行くという流れがあります。
そんな中、ブロックチェーンや仮想通貨の分野で私が注目しているのは「マルタ」です。
非常に小さな国ですが、ブロックチェーンの企業を誘致しようということで規制も緩和していて、世界で最もブロックチェーンフレンドリーな国です。世界最大級の仮想通貨取引所「バイナンス」は香港から日本で営業しようとしたところ、金融庁との交渉が上手くいかなかったようで、結局、マルタで営業しています。
他には、ブロックチェーンを政府に導入していて、安倍総理も訪れたエストニアや法規制が整っているスイスも注目されています。スイスは規制のガイドラインもしっかり作っており、また税率も十数パーセントで、事業者には有難い国です。
金融庁の方々もどちらかというとイノベーション推奨だったと思いますが、コインチェック社のXEM流出事件があって以降、監督義務がありますので、規制強化の話が進み、どうしても日本ではICOがしにくい状況になっています。
日本でICOをすると法規制の面でも大変ですし、ICOで集めたトークンはデジタルトークンの販売ということで資金調達ではなく、売り上げになってしまうため、「あまり旨味がないんじゃないか?」と言われていて、日本で行う事業者はめっきり減りました。
一国で規制をしても全世界的に規制ができるわけではないので、ICOなどをやりたい人はどんどん海外に行ってしまい、長期的にみると国力を削ぐことになる可能性もあります。もちろん、規制当局の方々もイノベーションを促進するための規制を考えられているとは思いますが、このあたりの塩梅は難しいところです。
今から覚えておきたい「STO」とは
有価証券のように捉えるICOトークンとして「セキュリティートークン」というものが登場しています。これは恐らく、来年くらいに「ICOくらい有名になる概念」だと思っているので今のうちに覚えておくと良いと思います。
「STO(セキュリティー・トークン・オファリング)」は株のようなものです。
株式投資型クラウドファンディングがトークンになったパターンで、配当や議決権などが得られます。トークンにすることで何が変わるかというと、
・国内の投資家のみ対象
・投資は1人50万円以内まで
・利用者が集めて良いのは1億円以内
という株式投資型クラウドファンディングに課せられた規制がクリアできる可能性があります。
法規制に準拠した形で、安全性が高まることで、個人投資家だけでなく機関投資家が参加しやくなり、市場規模が大きくなるのではないかと言われています。
マルタでは2019年にセキュリティートークン専用の取引所が出来る予定があり、今後は、ICOからSTOという流れになる可能性があるでしょう。
恐らく金融商品取引法で扱われる可能性が高いので、仮想通貨やブロックチェーン業界で働く人は今のうちに金融商品取引法の勉強をしておくと将来役に立つかもしれません。
エンジニアじゃない人たちの関わり方
ブロックチェーンエンジニアの価値が高まっている一方で、ICOで言う独自の「トークン」「コイン」を作るのはかなり簡単になっています。
半年前までは、ブロックチェーンエンジニアには、エンジニアの技術に加え、博士号レベルのコンピューターサイエンスまたは暗号学の知識が必要だと思っていましたが、最近は、必ずしもそうではなくなってきています。
「Amazon」「Microsoft」など大手企業のクラウドでブロックチェーンを導入するテンプレートがあり、ブロックチェーン環境を構築することができます。
また、自分が興味を持ったものに関しては、Twitterで調べることをお勧めします。
色々なものが出来たけど上手くいかず、中央銀行がデジタル通貨をブロックチェーンで発行する、というシナリオも十分にあり得ます。日本の日銀の方は「技術的に可能だが、やるつもりはない」という話がありますが、かなり前向きな中央銀行も多くあります。
実は、ブロックチェーンでしか出来ないことはそんなに多くはなく、既存のシステムで実行可能なことが結構あると思います。
「世の中がブロックチェーンで全て変わる」という考え方がある一方で、全てに適応するべきではなく「どの分野でブロックチェーンを利用するか」をしっかりと考えなければいけないという意見もあります。
分散化されたシステムをつくること自体が目的ではなく、より頑健なシステムをつくることが大事だと個人的にも思っています。
おわりに
今回も講義後に様々な質問があり、ユースデモクラシー推進機構代表の仁木さんからエストニアの生の情報をもとに答えをいただいた方もいらっしゃいました!
今回は初めて懇親会に参加させていただき、勝木さんはもちろん、参加者の皆様ともたっぷりお話することができました。懇親会は、聞いているだけでなく、個人的に質問するだけでもなく、1つの話題をみんなで深めることができた貴重な時間になりました。
次回以降、数回に渡ってエストニアやデンマーク、韓国の先進事例をテーマに勉強会が行われる予定ですので「今回逃した~!」という方もぜひ疑問をスッキリさせに行きましょう!
左:勝木健太さん 右:渡邉萌捺