インドの最新ブロックチェーン事情(その1)


先般、“インドの「最新」仮想通貨事情”について、記事を投稿させて頂きました。
今回は、中央政府と各州政府で独自の動きを見せるインドのブロックチェーン技術最新事情をお届けします。

インドにおけるブロックチェーン関連規制

2017年2月に行われた2018年度予算発表において、ジャイトリー財務大臣は、仮想通貨は法貨として認めないと明言していますが、デジタル経済への移行の先がけとしてブロックチェーン技術を積極的に活用してくことも併せて明言しています。

①インド準備銀行による仮想通貨取引の禁止
インド準備銀行(Reserve Bank of India – RBI)は2018年4月に、監督下にある金融機関に対し、2018年7月以降、仮想通貨にかかる交換・取引業務を行うことを禁止にする通達を発しました。本通達を受けて、現在金融機関では、当該業務を行う企業の口座開設並びに金融取引業務を停止しています。

②仮想通貨取引にかかる最高裁判断
上記通達に関して、インド最高裁判所にて仮想通貨取引の是非が公益訴訟で争われています。インドでは、行政や立法の穴を埋める手段の一つとして最高裁の判断を仰ぐことがあり、その制度を活用している事例です。本件に関する審問は度々延期が重ねられており、未だに最高裁の明確な判断は出されておらず、多くのステークホルダーが注目しています。


【画像:kryptomoney.com】

インディア・チェーン(India Chain)構想

インド政府は、2017年11月よりインド政府系シンクタンク、ニティ・アーヨーグ(Niti Aayog)を通じて、契約の迅速な執行、詐欺取引の防止、効率的な農民への補助金分配などを目指したインディア・チェーン構想を打ち出しました。インディア・チェーンは、インド国民に取得が義務付けられている生体認証IDアーダール(Aadhaar)とも連動し、ID管理にも活用される計画です。その他に活用が計画されているのは下記の分野です。

①土地記録
②サプライチェーン・マネジメント
③ID管理
④補助金の分配
⑤教育関連の証明書発行
⑥国際金融


【画像:NITI Aayog】

各州政府が取り組むブロックチェーン技術の導入

①アンドラ・プラデッシュ州、テランガナ州
アンドラ・プラデッシュ州(以下、AP州)とテランガナ州は、元々は一つの州でしたが、2013年の住民投票を経て分離されました。AP州は、独立後ナイドゥ首相のリーダーシップの下、インド国内で最も積極的にブロックチェーン技術を行政に導入している州となっています。尚、同州はフィンテック・バレー構想を掲げており、ブロックチェーン技術のみならず、幅広いフィンテック関連の技術を持った企業を州内に集積させようとしています。以下は上記2州内で発足している代表的なプロジェクトです。

a)土地記録の管理
AP州政府は、地場ブロックチェーン企業Zebi Data社と提携し、約10万件の土地の権利を保証しています。尚、不動産登記・取引・担保設定などについては、既にスウェーデン政府の土地登記システムで実績のある同国企業Chromaway社と提携してプロジェクトを進めています。インドでは民事訴訟の7割近くが不動産の権利関連とも言われており、その活用が期待されています。

b)車両登録
AP州交通局は、車両登録にブロックチェーン技術を活用し、その手続きを簡素化させようとしています。

c)ブロックチェーン特区
テランガナ州政府は、テック・マヒンドラ社と覚書を交わし、同州首都に「ブロックチェーン特区」を設立することを発表しています。

②ウッタル・プラデッシュ州
インド最大の人口(約2億2千万人)を抱えるウッタル・プラデッシュ州は、広大な土地を有しています。特にその人口の約7割は辺境地域に居住し、日々の生活の糧を所有する土地から得ているため、ブロックチェーン技術を活用して土地を管理することを目指しています。州政府のブロックチェーン技術導入の目的は、詐欺取引と脱税の防止の2点です。

③マハラシュトラ州
マハラシュトラ州政府は、2018年後半に、ブロックチェーン技術に関するパイロットプロジェクトの発表を予定しています。予定されている応用分野は、ファイナンシャル・インクルージョン、土地記録、サプライチェーン金融、商品・農家向け保険、車両登録等です。尚、シンガポール政府(Monetary Authority of Singapore – MAS)が同プロジェクトに関連して、同州政府と覚書を締結し、技術的な協力を約束しています。

④カルナータカ州
カルナータカ州政府は、行政へのブロックチェーン技術活用に最も先進的な州の一つです。その取り組みの一つとして、ブロックチェーン活用に関するハッカソンを2018年1月に開催しました。80チーム、500名ほどが参加し、最終的に10チームが選抜されました。選抜チームは、提案したアイデアの実用化に向けて、州政府と対話を継続していく予定です。

⑤ラジャスタン州
ラジャスタン州政府は、ヘルスケア領域でのブロックチェーン技術導入を最初に始めた州です。電子医療記録(Electric Health Records – EHR)と呼ばれるシステムを導入し、州政府が改ざん不可能な唯一の医療記録を保存する仕組みを提供しています。このシステムには様々なステークホルダーがアクセス可能となっています。また、その他に19のブロックチェーン技術導入プロジェクトが動いており、プロジェクト数ではインド最大です。
直近では2018年9月に、ブロックチェーン技術を活用した土地登記システムを発表しています。州政府の管理する認証当局にアクセスし、土地の権利状況について照会可能になる予定です。


【画像:medium.com】

⑥ケララ州
ケララ州で設立されたケララ・ブロックチェーン・アカデミー(Kelala Blockchain Academy – KBA)とブロックチェーン・エデュケーション・ネットワーク(Blockchain Education Network – BEN)が同州のブロックチェーン関連のプロジェクトを主導しています。州政府は、3年以内に2万5千のブロックチェーン関連技術の創出と、特定のプログラムを受講した生徒を12ヵ月で5千人輩出することを目指しています。また、州内で生産される乳製品、野菜、魚類のサプライチェーン管理に、ブロックチェーン技術を積極的に活用していく姿勢を見せています。

インドにおけるブロックチェーン技術の導入はまだ始まったばかりであり、今後も規制を含め多くの動きがあると考えられます。次回はブロックチェーン技術を活用した新たなサービスなどの情報をお届けする予定です。


鈴木慎太郎
鈴木慎太郎


米国公認会計士。SGC(スズキグローバルコンサルティング)代表。2010年5月よりニューデリー(インド)在住。40社以上のインド拠点設立、100社以上のインド・会計税務にかかるコンサルティングに従事。2016年よりスズキグローバルコンサルティングを設立し独立。日本企業向けにワンストップでインドの拠点設立・会計・税務・法務をカバーする総合コンサルティング事務所を経営。 URL: https://www.suzuki-gc.com

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