【第4回】CoolTokyo~発電の低温側熱源として汲み上げた深層水を利用後にも再利用


東京の地の利は、世界の大都市の中で比較すると、水深1,000m(水温3.2℃)の海洋深層水が近くにあることである。この海洋深層水を低温側熱源として発電に利用すると発電効率が向上するため取水・送水コストを取り返して余りあることは今年(2018年)7月の記事にて紹介させていただいた。

これを応用したヒートアイランド対策については、2018年10月20日に東京都文京区本郷にて「Cool Tokyo (東京を冷やす)StageⅡ」https://www.jame-society.jp/(参加費無料)を開催する

連載の今回は、せっかく汲み上げた海洋深層水を低温側熱源として利用した後にも、どのように再利用できるかについての例を複数ご紹介させていただく。

1.海洋深層水を低温側熱源として発電に利用する際のスケールメリット

現在、日本各地で海洋深層水を水深数百mから汲み上げて商業目的などに利用しているが、現状では深層水を発電に利用していないため、取水に要するエネルギー(電力)のコストが収支を圧迫している。「このエネルギーを如何に安く調達するか?」および「如何に省エネに取水・送水するか?」が事業化のボトルネックである。前者のためには、海洋深層水を低温側熱源として利用して発電したエネルギーを一部取水・送水に流用することが役に立つ。また、後者のためには、取水管や送水管を大口径にすればよい。換言すると、取水管や送水管をある程度大口径にしないと、送水に要するエネルギー効率が悪くなり、発電事業自体が採算割れしてしまう。すなわち、「送水に要するエネルギー効率に関してスケールメリットの大きい施設なので、採算度外視の実証試験の後は、いきなり大規模な施設(大口径送水管と大規模発電)で事業を開始しない限り、採算が採れない」ことが事業化のボトルネックになっている。ただし、一度取水した深層水は次の通り様々な再利用法がある

2.産業利用上の利点となる海洋深層水の特徴

海洋深層水は表層の海水と比べると次の特徴がある。a)清浄かつb)低温かつc)栄養塩(リン酸、ケイ酸など)に富む。

a)清浄であるがゆえに取水口や送水管内に貝などの生物付着も起きない。清浄であるということは、ゴミ取りや掃除のコストが不要ということでもある。これは海水淡水化や製塩事業などでも有利である。
b)低温という特徴は(冷)熱源として、発電や冷房などに利用できる。
c)栄養塩に富むという特徴は海藻や海草等の栽培に利用できる。

しかし、深度千mの海洋深層水の温度である3.2℃は栽培には低すぎる。そこで、発電や冷房に利用した後に温んだ深層水ならば、栽培や養殖など他の目的にも再利用できる。

3.海洋深層水の産業利用の事例と提案

海洋深層水を利用した冷房技術は富山県水産試験場、室戸市アクアファーム、及びハワイのNELHA(Natural Energy Laboratory of Hawaii Authority)などで実用化されている(海洋深層水利用学会 http://www.dowas.net/water/yogo/18.html )。沖縄県海洋深層水研究所では、海洋深層水の冷たさを屋内冷房以外にも、温室とは逆の発想でホウレンソウや海ブドウの農業における高温障害回避にも冷房として利用している。東京近郊では生鮮野菜栽培が盛んであるが、今年(2018年)のような猛暑でも野菜の高温障害回避のために海洋深層水を使い、さらに使用後の深層水の一部を肥料代わりに使うこともできる。

ハワイのCyanotech社では、サプリメントとして販売しているシアノバクテリアの一種であるSupirulina(スピルリナ)の培養に海洋深層水を利用している
漁業においては深層水の清浄性が車エビの孵化や牡蠣の浄化に役立っている。

近年は、海水浴客が減ったそうであるが、海洋深層水は清浄なので、発電に冷房などに利用した後でも品質が変わらず、そのままプールやタラソテラピーなどにも利用できる。より時代に即した海水浴を海洋深層水が提供できる。


【出典】図は(株)デザインウォーターのご厚意により提供いただきました。 http://designwater.jp/ )


角田晋也
角田晋也

マクロエンジニア(http://www.jame-society.jp/)。国立研究開発法人海洋研究開発機構地球情報基盤センター調査役。
東京大学教養学部基礎科学科第二(システム科学)卒業後、東京大学大学院在学中に米国シカゴ大学大学院Department of Geophysical Sciences留学(修士)、現在の職場に就職1年後博士(東京大学)。気候変動研究として北極海・インド洋他、国連海洋法条約の「海洋の科学的調査」、及びベクトル型スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」の利用推進等を経験した。環境データの流通促進に取組中。

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