マティス国防長官の辞任はトランプ政権の政治リスクを増大させる


トランプ大統領がTV番組の取材中にマティス国防長官の辞任の可能性を示唆した。事実であれば、ニッキー・ヘイリー国連大使に続くトランプ政権を揺るがす辞任になる可能性がある。

マティス国防長官は米国の安全保障戦略を安定化させる要である以上に、実はトランプ大統領にとっては容認しがたい政治的なリスクを持った存在だ。トランプはマティスに関して批判を口にすることはほとんどなかった。その理由はマティスの能力を評価していたこともあるだろうが、マティスはトランプにとっては2020年大統領選挙における対抗馬に成り得る存在だから、ということが大きい。

マティスがトランプとの関係で最初に名前が挙がったシチュエーションは、実は2016年4月頃に「トランプの対立候補として」であった。共和党予備選挙で指名獲得が濃厚になっていたトランプに対し、共和党内の反トランプ陣営は第三の候補者を立てる画策をしており、その白羽の矢が立ったのがマティスであった。マティスは2016年大統領選挙でもトランプの対抗馬・独立系候補として大統領選挙本選に出馬した場合、十分に共和党票を分裂させる存在としてみなされていた。

結果としてマティスは出馬を辞退したものの、現在でもトランプにとっては2020年の大統領再選を阻む最も大きな障害となる可能性が捨てきれない存在である。そのため、トランプがマティスを国防長官として政権内部に取り込んでおこうとしてきてたとしても何ら不思議ではない。(そもそも国防長官への抜擢は大統領選挙出馬辞退の論功行賞的側面もある。)したがって、トランプがマティスを正当な理由なく罷免することがあれば、マティスを担いで大統領選挙をやろうとする共和党内の動きは活発化する可能性がある。

マティス自身はネオコンとは若干距離がある人物であり、共和党内で徐々に勢力を回復しつつあるネオコンとの政治的軋轢が生じていることが推量される。中間選挙後に反トランプ派のネオコン勢力が更に力を盛り返してくることを想定した場合、せっかくある程度立て直してきた主に中東方面での安全保障上の責任を持つことの困難性を感じていることだろう。

いずれにせよ、トランプはヘイリーとマティスという政治的ライバルを2名も閣外に放出する政治リスクは非常に高い。マティスの辞任はトランプの再選に向けた黄信号と看做していいだろう。

 


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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