【第5回】人文地理的Sweet Spotとしての東京だい


連載の前回までは東京の自然地理的な地の利を強調したので、今回は人文地理的な地の利について記す。

1.二経済大国間の国際定期航路と海底通信ケーブルが日本を通る

GDPで世界第一位及び二位はそれぞれ米国と中国である。トランプ大統領就任以来、両国間の貿易戦争がニュースになって久しい。両国間の貿易の殆どは海路の定期航路経由で行われる。中国~北米の国際定期航路は殆どが対馬海峡~日本海~津軽海峡を通過する。何故なら、地球が球体なので、日本海を通過しないと遠回りになるからである。例えば、中国からの部品や半製品を日本で加工して完成品にしてから米国へ輸出することや逆(米国から中国へ)のルートでのサプライチェーン構築が可能な位置関係にある。
海峡の地の利を活用して経済成長した例が、ペルシャ湾の入り口のホルムズ海峡の近隣のドバイ首長国である。2000年代半ばからイランの核兵器開発に対して世界の多くの国々が経済制裁に乗り出した際に、イランと直接貿易できなくなった国々のため、ドバイ首長国は地の利を中継貿易に活かした。
対馬海峡に面している北九州市や、津軽海峡に面している函館市には工業団地がある。先進国で製造業振興のため工場や道路を建設するのは今更感があるが、国内で、貧富格差拡大の不公平感を煽られた政情不安が起きないよう富の分配の観点からも、工場や道路・港湾のIoT化などの整備に投資するのは安定的な経済成長の理に適っている。なお、函館市の最深積雪は平年値(過去30年間の平均値)で札幌市の半分程度の45cmである。人口は、函館市と隣接する北斗市を併せると約40万人である。
国際的な通信のための海底ケーブルも米中間を直接結ぶのは3本だけ(なのに対して、日米間を直接結ぶのは10本)で、ほとんどが日本で一旦陸揚げして中継している。海底ケーブルも地球が球体であることを考慮した最短距離を通るような経路に近似して設置されているが、津軽海峡は通らず、関東で一旦陸揚げしている。海底ケーブルの場合、中国のみならず、ロシア連邦や東南アジアからも関東で中継して米国に繋がっている(中継地が関東ではなくグアム~ハワイの経路も2本だけある https://www.submarinecablemap.com/ )。特に、ロシア連邦と北米の間は地理的には海底ケーブルを直通で敷設できる位置関係にもかかわらず、機密保持のためか、わざわざウラジオストク~(海底)~新潟(直江津)~(陸上)~関東~(海底)~北米という経路となっている。

2.津軽海峡は全面領海化できる

対馬海峡は日本と韓国の間の海峡であるのに対し、津軽海峡は北海道と本州の間の海峡で対馬海峡よりも桁違いに狭く、最も狭いところが幅約18.7kmしかない。国連海洋法条約3条により各国は12海里(約22.2km)まで領海として主張できるが、日本は第二次世界大戦敗戦の経緯から、津軽海峡を領海で塞がないように、津軽海峡では(宗谷海峡、対馬海峡、および大隅海峡も同様だが)領海をわざわざ遠慮がちに3海里(約7.4km)に設定してある(領海及び接続水域に関する法律)。これを本来の12海里に戻す手続きは簡単にできるので、日本は津軽海峡の全面領海化を外交の切り札として握っている。もっとも、国連海洋法条約17~19条で無害通航権が外国船に認められているので、仮に津軽海峡を全面領海化しても通常の貿易のための定期航路に対して何らの圧力を及ぼすことはないが、同21条により海上交通を規制することはできる。なお、無害通航でない例としては、軍艦(武力による威嚇又は武力の行使・軍事訓練・演習・調査)、測量活動、航空機または軍事機器の発着又は積込み、漁獲活動、および通信妨害などが19条に明記されている。

3.日本国内の二大都市圏間の人口バランスは絶妙

国家レベルでの経済成長のためには、人口百万人以上の大都市の数が鍵となり、人口で一番目の都市と二番手の都市の人口比が3:1よりも大きすぎる一極集中は、国内格差が大きすぎるので不公平感から政情不安を招き、望ましくないとされている(「シャルマの未来予測 これから成長する国 沈む国」ルチル・シャルマ著2016、川島 睦保訳2018)。日本の場合、多い順に、首都圏(約36百万人)、大阪市や京都市を含む大阪圏(約12百万人)、名古屋圏(約9百万人)、北九州・福岡圏(約5百万人)、札幌(約2百万人)、広島、仙台の7都市圏となる。これらに続くのが人口約70~80万人の政令指定都市で、多い順に新潟市、浜松市、熊本市、岡山市、静岡市である。これらの都市の中で日本海側に位置するのは北九州・福岡圏、札幌、および新潟市のみであり、特に、北九州・福岡圏は対馬海峡で中国~北米の国際定期航路に近接しているという地の利がある。
首都圏:大阪圏は人口比で3:1なので、世界の中の大都市間の競争において国家間レベルでの地の利があるといえよう。また、首都圏は、世界最大の貿易量を誇る国際定期航路(中国~北米)から世界地図のスケールで近い位置にあるので、中継地としても地の利がある。例えば、研究開発・企画・経営や小ロット生産は首都圏、大量生産・加工は函館市というように分業してもよい。もっとも、北九州・福岡圏なら両方できそうであるが、地震や台風等の自然災害の多い日本では事業継続計画上、北九州・福岡圏と函館市の間で生産活動の相互バックアップのために連携するのが妥当であろう。
さらに、首都圏(に限らず太平洋側)の地の利としては、経済成長が期待できるフィリピンやインドネシアに、南下すればほぼ最短距離で直行できる点がある。

主な中国~北米の国際定期航路(赤線)は対馬海峡~日本海~津軽海峡を通過する。地図は次のurlよりダウンロードしたものに赤で加筆した。 ( http://www.freemap.jp/item/japan/japan3.html )


角田晋也
角田晋也

マクロエンジニア(http://www.jame-society.jp/)。国立研究開発法人海洋研究開発機構地球情報基盤センター調査役。
東京大学教養学部基礎科学科第二(システム科学)卒業後、東京大学大学院在学中に米国シカゴ大学大学院Department of Geophysical Sciences留学(修士)、現在の職場に就職1年後博士(東京大学)。気候変動研究として北極海・インド洋他、国連海洋法条約の「海洋の科学的調査」、及びベクトル型スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」の利用推進等を経験した。環境データの流通促進に取組中。

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