「韓国の電子政府と電子民主主義」


日本政策学校 渡邉萌捺です。
今回も、ユースデモクラシーLab定例勉強会に参加させていただきました。


主催団体公式サイト☞ http://youth-democracy.org/
第23回となる今回のテーマは「韓国の電子政府と電子民主主義」

講師はe-Corporation.JP株式会社代表取締役、廉 宗淳(ヨム・ジョンスン)さん。
韓国に26年、日本に30年住み、どちらの文化も背景もよく知る廉さんが「なぜデジタルトランスフォーメーションコンサル会社を立ち上げたのか」に始まり、日韓の差について教えていただきました。

以下、講義の要約です。

問題意識を持ったキッカケ

2000年ごろ、日本で会社を設立するために住民表と印鑑証明の申請書を書いて待っていると、窓口に呼ばれて「あなたは埼玉県に住んでいるので、ここ(東京都中央区役所)で住民票は取れません」と言われ、とてもショックを受けました。

韓国ソウル市では、1994年から全国どこでもオンラインで住民票が取れていました。

印鑑証明の場合は住民登録のオンライン化が進んでいなかった時代でも、どこの区役所に行っても、居住地の役所からFAXで取り寄せて、そこの区長さんの確認で取ることができました。

そんな中、IT先進国と言われる日本に来て、役所でこんな経験をしたのです。

「日本が先進国だったはずなのに、どこかで進化が止まっている」ことに気付かされ、これを研究したいと思いました。

韓国を参考にすると良いワケ

電子政府そのものとして、私が1番優れていると思うのは「エストニア」ですが、日本が参考にしやすいモデルは韓国だと思います。

なぜなら行政・医療・教育など、制度がすべて同じで、兄弟のようだから。

そもそも「印鑑」が存在するのも日本・韓国・台湾だけ。日本を手本に導入された印鑑や戸籍という根強いものを持っていた国が「どの様になくしていったのか」という観点で、韓国の事例を学ぶことは日本との比較に役立ちます。その韓国が2000年に電子政府を始め、現在どこまで進んでいるかを日本に置き換えて考えると、非常に参考になるはずです。

日本と韓国の差とは?

・電子政府法

韓国は電子政府法により、各府省・自治体の役割や義務を再整理しています。地方自治制度も日本(政府、都道府県、市町村)韓国(政府、広域自治体である道、市郡区)と同じ3段階ですが、電子政府が導入されてからは、ネット時代にふさわしく新しい役割分担を行っています。

業務処理も、紙ではなくネットを前提に、対面ではなく非対面で行うことを前提に、と再整理されました。

なので電子政府ポータルサイトがあり、電子自治体ポータルサイトがあり、なんてことにはなりません。電子行政ポータルサイト1つです。

日本には電子自治体が存在しますが、それって必要でしょうか?

国民からみると、中央省庁からの行政サービスも地方自治体からの行政サービスも同じ。分けてもらう必要はありません。なぜ日本にはこれがあるのかというと、いままで自治体がやってきた業務をそのまま電子化し、いままで国がやってきた業務をそのまま電子化しているためです。

韓国の電子政府法は、IT以前に「ITを前提にした」業務の分担や処理のルールを変えたものです。いま日本の国会で出ている法案と似ているようで、全くの別物なのです。

さらに廬武鉉大統領は、省益に絡み壊せなかった縦割り行政の壁を破壊して、各省庁間の垣根のない、国民中心のサービスを目指しました。各省庁の情報政策部門を全て廃止し、みんなで守るべき省庁「政府統合電算センター」をつくったことで、ICTを基盤として各府省の垣根がなくなりました。

いままでは自分の省庁のためにデータを守っていた人たちも立場が変わり、「新サービスを良くしていくためにデータを連携するべきだ」と方針も変わりました。

各省庁から人を集めると、情報政策課長が48名、全員で1200名でした。韓国政府は「課長は1人でいいんじゃないか」ということで、47名の課長を返し、トータル300名でピラミッドをつくりました。その後は、プロのITベンダーの社員を400名雇い、委託。彼らは各省庁に対し、政府の電算室としてICTサービスを行なっています。彼らからすると、厚労省の人も財務省の人も、同じお客さんなのです。

・公務員教育

韓国の公務員は「公務員法」により、自らICTを勉強する義務があります。

年間100時間以上勉強しないと人事考課対象から外されてしまいます。また、この勉強を部下が怠ると課長の人事にも影響するので、部下が「忙しいので残業します」と言うと「それより、100時間勉強してなければ早く帰れ」と。こういった雰囲気になります。

さらに、韓国で局長になると一旦「高位職公務員団」という別の政府組織に身分が移されます。各省庁はそこからまた局長を雇いますが、自分の省庁出身の人を雇えるのは33%のみ。例えば、総務省出身の人が総務省に戻る可能性は33%ということ。残りは、他の省庁出身の人を33%、民間の人を33%採用しなければならない決まりです。出身省庁に採用されなかった人たちは、半年ごと各省庁の人事を回り、自分を売り込みます。その間採用が決まらなければ、6ヵ月ごとに役職手当が削られ、2年後には依願退職です。こういう制度があれば勉強しますよね。

公務員は、採用されても上にいけば昇進できる人は減っていくピラミッドになっています。もちろんあぶれる人が出てきますよね。日本の場合、天下りが起こる部分です。韓国の場合は、上がっていく段階で教育投資をたくさんするので企業にヘッドハンティングされて横に抜けていく形になります。韓国の公務員の給料は日本と違い、民間企業の半分ですが、とても名誉のある仕事なので公の仕事をしたい気持ちと天秤にかけて選択をします。

私は日本で県庁にいって、市役所にもいきましたが、「公務員教育にこんなに投資しないのか」と大変驚きました。国家運営を任される大事な組織の人材なのに…磨かないとどうされるのでしょうか。

・組織

韓国には国家情報化戦略を考えるための、ある組織があります。約500人程で、うち8割以上が博士。行政学・法学・IT・医療・教育・農業などの博士たちが集まり、例えば「農業のICT化はどう進めていくべきか」となると、農業のプロとITのプロが向き合って話し合います。

この組織が、日本には無いのです。

「日本にも似たものがある」と言う人がいますが、そこにいる人たちの多くはベンダーからの派遣、または各省庁からの派遣です。いくら優秀な人材とはいえ、その組織で先ほどの500人の博士たちと同じ仕事が物理的に出来るでしょうか?

日本にもこういった組織をつくる必要があると、私は思います。

・予算

例えば日本の医療保険は、地域だと国民健康保険連合会、民間企業だと支払基金というところがあり、それぞれの病院から支払請求がきます。韓国ではそれを統合して、職員が約3000人、年間予算が300億円程です。日本の場合は民間企業対象の支払基金だけでも、職員約8000人、年間予算800億円程。

この違いは何かというと、韓国ではほとんどをコンピュータが審査しますが、日本ではほとんどを人(医者)が審査している点。これにはもちろん、人もお金もたくさんかかりますね。

・政策実名制

日本では政策立案した人が誰か、わからないですよね?

成功しても誰の功労で成功したのかわかりませんし、失敗してどれだけの予算が無駄になっても、誰の責任だかわかりません。

しかし、韓国は、政策実名制です。

成功すればずっと表彰されますし、失敗すればダメだったことは誰もがわかるので、いい加減な政策は生まれません。これが、韓国の公務員には給与以外に成果給が存在する理由です。同期でも給与は変わってくるのです。

電子政府のナニが良いの?

・証書類

ある日、韓国に住む弟から「住民票を移さないとマズイよ」と連絡がありました。弟の家に住民票を置いていたのですが、その弟が引っ越した、とのことでした。そのまま忘れていると「役所から『早く手続きをしないと住民票を抹消する』と言われた」と再度、弟から連絡があり、それは困るので、「1週間後に出張で帰国する予定なので、それまで待ってほしい」と役所に電話しました。すると役所の人から「なぜ待たないといけないのか。日本はインターネットが使えないのか」と。「もちろん使えます」と答えると「じゃあ今すぐネットでやりなさい」と言われました。

日本に長く住んでいたので、実際に活用したことがなく忘れていたのですが、韓国には電子政府ポータルが存在し、そこにログインすると自宅のプリンターで住民票の印刷ができます。住民票だけでなく、全ての中学・高校・大学の卒業証明書や在学証明書、成績証明書など、政府や自治体が発行するほとんどの書類が印刷可能です。


【スマホ上の電子政府:省庁や自治体の区分なしに国民に必要なメニューがそろっている】

いつでもどこでも証明書が発行できる時代は過ぎ去り、現在は証明書の提出自体が必要ない国を目指しています。

役所で証明書をもらって、役所に出すケースって多くないですか?個人の了解のもと、役所のネットワークでデータの連携をすれば必要ないことですよね。転出届けも、連携してあれば転入届けだけで済みますよね。韓国の電子政府法には「政府は国民に証明書などを提出させてはならない」と書かれています。

日本では今、厚労省に「医療情報とマイナンバーを結びつけましょう」と交渉していますが
厚労省はこれを拒んでいますね。韓国では「行政情報を必要とする他の行政機関と共同利用しなければならない」という法律により、この様なことは起こり得ないのです。

・年末調整

韓国でも日本同様、年末調整というプロセスがありますが、国税庁のHPから年末調整のページにマイナンバーでログインすると、控除されそうなデータはすべて登録されています。

日本では保険会社からハガキが来たり、源泉徴収を持って自分で書きますが、韓国では保険会社から国税庁に直接私のデータが渡されます。なので、ログインすると出来上がっているのです。 それを見て、良し悪し、削除・追加をすればOKです。

・医療版ミシュラン

韓国では医療品質評価を始めています。日本では医療機関ごとの医療品質がどうなっているか、わからないですよね?韓国ではそれが定量的な数字で確認できます。

例えば、薬局へ行きたいとき。
携帯のGPSで近くの薬局がリストで表示されます。リストには電波マークのようなアイコンが1本、4本など、評価が記載されています。本数が多いほど優良な証で、薬局ごとに処方箋データを分析し、風邪の時の抗生物質処方比率などから評価されています。

また診療科目を選ぶと、病院ごと、診療科目における手術結果表などの確認も可能です。この取り組みは、悪質な医療機関の減少にも役立っています。


【医療機関・診療科目ごとの評価などがスマホ上で確認できる】

・My健康ポータル

今年からサービスを始めた「My健康ポータル」

韓国政府が10年間(2002〜2013年)の韓国人150万人分、個人の診療データを時系列に並べ、重大疾病に対してAIエンジンを回し、ナレッジを作りました。

これにより、例えば、自分の検診データを入れると4年後のガン発生の可能性を把握できる、といったことが可能になりました。このエンジンが出来上がり、民間企業が売っても良いことになったので、来月・再来月ごろ私が日本にサービスをしていく予定です。

これを日本で始めようとすると、10年経っても難しいと思います。韓国の医療データはマイナンバーに基づいた10年分ですが、日本の医療データにはマイナンバーが付いていないので、時系列に整理することができません。もし、「明日からマイナンバーを付けます」となっても、そこから10年後でないと活用できないですし、そうなる日はそう来ないんじゃないかと思っています。

・Government3.0

韓国のスマホアプリです。最近はアプリが多く出回っていることで国民が混乱しないようにポータルができました。

例えば国交省のものは、全国全てのガソリン価格を一覧で確認でき、近くで1番安いスタンドを探したり、問題のあったスタンドを把握できたりします。


【国交省が運営するOPINET。全国のガソリンスタンドの油販売価格がリアルタイムで紹介されている】

さらに、大統領府のものでは、HPに意見書を直接書き込むことも可能です。書き込んだものに30万人以上の賛成が得られると、大統領府から正式に答えをもらうことができます。


【大統領府国民請願サイト】

日本は「ものづくり」にこだわりすぎている

例えば「Uber」
世界で1番大きなタクシー会社ですが、自らのタクシーを1台も持っていません。
世界で1番大きなホテル会社は「Airbnb」ですが、自らの不動産を1つも持っていません。

これが現実です。

ソウル駅には改札口がありません。
IT世界なので改札がなくてもコントロールできます。

日本には立派な改札があり、1本数百万円以上します。日本の場合は、その改札の技術を上げることに注力しています。人がたくさん通っても、同じ人が通っても、切符やカードの向きが縦でも横でも、表でも裏でも、全てカウントできるように。

こういった「ものづくり」を極めていますが、そこにこだわりすぎていませんか?

飛行機のマイレージの機械も同じです。これらによって、飛行機代が高くなっているのではないでしょうか?

改革するには並以上の努力が必要です。

改革は革命よりも難しいのです。

こういった日本のものづくりに関して、詳しく考察した本も出版しているので、興味のある方はぜひ読んでみてください。


【左:渡邉萌捺 右:廉宗淳さん】

おわりに

わたしは、今回の廉さんの講演は、制度や技術だけでなく、日本の抱える課題の根本に繋がる重要なお話だったと思いました。

ものづくりへのこだわりこそ、ステレオタイプ化している日本を象徴するわかりやすい例であり、遅れを取っている原因。良くも悪くも、これまで通りを好み、伝統を重んじる、「日本人らしさ」のようなものを感じました。

そして、民主主義を勝ち取ったわけではない日本だからこそ、自分で意思決定をしてきた感覚が薄い。ここに、日本人が政治を身近なものと感じられない理由があると思いました。

また、遅れを取らないためではなく、「日本をどうするために」を、知識を持ったうえで考える必要があるし、多くの人から聞くように「外から制度や技術をそのまま持ってきても上手くいかない」というのは、その通りだと思います。

日本に新しいものを導入するには、その説明にも、それなりの工夫をしなければ伝わらない。

例えば「マイナンバー」
日本でもよく聞くワードではありますが、日本人の利用率は未だに10%未満。私自身、日本にいて利用するメリットを感じられていません。

今回の講演で廉さんがお話してくれたように、私たちにどんなメリットがあるかを具体的に広めるべきだと思いました。「私たちにとっても便利」ということに実感が湧くと、印象は全く変わるはずです。

全体を通して、すでに遅れを取っていると感じた私は、教育することが1番の近道になるんじゃないかと思いました。


政策 太郎
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