本当は要らない「国際観光旅客税(出国税)」の話


(NHKから引用)

1月7日から「国際観光旅客税(以下、出国税)」が課されることになり、同日以降に日本から出国する手続きを行った人には原則として1回1000円の税金の支払いが命じられることになった。しかし、出国税は本当に必要なものなのだろうか、調べれば調べるほ「本当は要らない」気がしてならない。そこで、下記出国税の問題点についてまとめておこうと思う。

(1)そもそも新税として新たな財源を創設する必要性があるのか?

「国際観光旅客税(仮称)の使途に関する基本方針等について」(平成29年)によると、

〇「『明日の日本を支える観光ビジョン』においては、2020 年 訪日外国人旅行者数4000 万人、2030年6000 万人等の大きな目標を掲げ、観光を我が国 の基幹産業へと成長させ、 「観光先進国」の実現を図るため、政府一丸、官民を挙げて取り 組んでいるところである。」とされており、

〇出国税の使途は「観光 先進国実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図るための恒久的な財源を確保すること」とされており、

〇観光財源を充当する施策は、既存施策の財源の単なる穴埋めをするのではなく、以 下の考え方を基本とする。 ① 受益と負担の関係から負担者の納得が得られること ② 先進性が高く費用対効果が高い取り組みであること ③ 地方創生をはじめとする我が国が直面する重要な政策課題に合致すること、とされており、

〇使途の適正性の確保 観光財源の使途の適正性を確保する観点から、受益と負担の関係が不明確な国家公 務員の人件費や国際機関分担金などの経費には充てないこととする。また、観光財源 を充当する3つの分野については、観光庁所管の法律を改正し、法文上使途として明 記する。また、予算書においても観光財源を充当する予算を明確化する。

となっている。

この財源によって確保される税収は年間400~500億円程度の見込みとなるようだ。一般財源化するのではなく「観光財源」として目的税化することで使途を明確にするということだ。

だが、政府はこのような建前論はいい加減にしてほしいと思う。

平成30年度の人事院勧告を受けた給与法改正で国家公務員は約360億円の賃上げが決定し、それに地方公務員が準じた場合は約790億円の賃上げが行われることになり、全体として約1150億円の公務員人件費の増額が決定している。給与増額は5年連続で行わている。

たしかに、理屈上は、出国税は実質的に観光財源として、一般財源内での人件費増から独立した形で確保されるのかもしれない。しかし、例えるなら、家族に巣食うヒモが毎月の生活費の金額増を要求しながら、このお金は使い道が決まっているから新しく金をよこせ、と言うに等しい行為ではないか。一般財源が人件費増で圧迫されているので新税を作ったと考えてもおかしくないだろう。(他の政府支出も増加しているだろうが・・・。)

国家公務員・地方公務員の給与総額は約26兆円であり、給与増額を50%に抑えるか、給与全体の0.2%をカットすれば十分に足りる。給与全体の0.2%とは仮に公務員平均年収を600万円と設定した場合、彼らの給与で月額1000円程度に相当する。政府は出国税の1回1000円程度は大したことがないと捉えているだろうから、とりあえず自分たちの給与増額分の半分である毎月1000円を観光財源として転用したらどうだろうか。きっと訪日外国人観光客が喜んで観光立国に近づくことだろう。

(2)日本国民から出国税を徴収する必要性があるのか?

現在の日本からの出国数は外国人が約60%、日本人が約40%である。ただし、上記で既に指摘した通り、出国税の目標は外国人旅行者を増やすこと、なので、その主な受益者は訪日外国人ということになる。日本人がその40%を負担することは受益と負担の関係から極めて疑問である。

(出国者数の推移)http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/in_out.html

NHKなどの政府広報機関は出国税は「空港などの顔認証システムや文化財解説の多言語化」などに使用されると述べているが、それだけならば単年度予算で十分なので毎年の予算計上となる新税を必要としないだろう。

一方、現在の観光庁が実施している訪日外国人向けの観光政策は単なる宣伝・PRのための費用が大半である。日本政府が「戦略的〇〇」というときは大体が中身すっからかんのダメ事業だ。概算要求の国際観光旅客税の使途以外の部分がそれにあたる。

平成31年度観 光 庁 関 係 予 算 概 算 要 求 概 要

従来の官公庁予算は既存の戦略的訪日プロモーションという項目に多額の費用が投入されているが、それがどの程度の成果をあげているのかは全く疑わしい。外国のPRエージェントや広告代理店にぼられたり、地方自治体へのバラマキ補助金化している可能性が捨てきれない。

何に幾ら使ってどんな結果が得られたのかについて政策効果の費用対効果を検証してみようにも国土交通省の政策評価の観光庁に関する内容がお手盛り過ぎて全く分からない。観光庁は新税による新しい予算を欲しがる前に今までの予算の妥当性を立証すべきだ。

平成31年度の概算要求の冒頭には、これらの既存政策を放置したまま新たに他の政策を実施するために出国税を使うことが明記されているが、そもそも既存事業について成果に対する予算使途の因果関係がほとんど分からない状況で新税などおこがましい。

観光庁はせめて新税を作る際の概算要求や政策評価くらい予算使途と成果の因果関係が分かるまともな資料を作ったらどうか。

筆者は適当な経済効果の資料など相手にする気は毛頭ない。国民の血税を使って効果検証が不透明な広告費用をかけたり、外国人に遊んでもらったりする政策が本当に必要なのかを考え直すべきだ。外国で同様の政策を行っているから自分たちもやる、というのは日本で新税を作ってまで行う理由にはならない。

また、仮にこれらの政策を継続するならば課税対象を外国人のみに限定するべきだろう。

国籍によって課税を分けることは租税条約によって条約違反なのでできないという論が通っているが、「税金」ではなく「手数料」にすればこの問題をクリアすることが出来る。米国においてもESTAは手数料としてビザを持たない外国人から14ドルを徴収して手続きを行っており、その売り上げのうち10ドルは観光プロモーションのための基金に充当されている。これもまた「外国は出国時の課税方式が主流だから」というのは理由にならないことは言うまでもない。

出国税を税金ではなく訪日外国人に対する手数料(入国時も検討)にした場合、政府は受益と負担の関係を一層鮮明にする必要が生じる。これは政府関係者にとっては困ったことになるだろう。

なぜなら、出国税という税金方式にしておけば「訪日外国人」のためとはとても思えない既得権にまみれた様々な観光政策に予算を流用することが可能となるからだ。出国税は形式上は一般財源、運用上は目的税としてスタートするわけだが、そのうちなし崩し的に無関係なものに使われていく未来が待っているに違いない。したがって、出国税は単なる腐敗の素であって、顔認証システムや多言語対応など誰もがある程度納得できることに使用するなら、日本人からも取る税方式ではなく「訪日外国人に対する手数料方式」に変更することは当然だ。

以上のように、

そもそも国際観光旅客税(出国税)の創設は行政改革を行えば不要であるとともに、既存の官公庁事業の成果すら非常に疑わしい中で新たに新税を創設する正当性はほとんどない。したがって日本国民は政治家に対して「国際観光旅客税(出国税)を廃止するか」「入国時に外国人から手数料を取る方式に変更するか」の2択を改めて迫るべきだろう。

日本国民はこのような馬鹿な税金を一つづつ廃止していくべきだ。


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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