クールジャパン最前線~開発途上国のエンタメ難民の光景~ ・第1回 出稼ぎ労働者からの学び


はじめまして。Bazaar Entertainmentの大和田と申します。当社はスマートフォンが爆発的な勢いで拡大する中で、通信や決済のインフラが立ち遅れている開発途上国でモバイルコンテンツを提供するBazaar Platformを提供しています。

今回、全8回の寄稿を通じて、日本では普段、目にする機会の少ない開発途上国のエンタメ市場の姿をお伝えしたいと考えています。開発途上国のエンタメ市場は定量的な情報が少ないため、経験に依存した記述であることをご容赦いただければと思います。

第1回は、私が起業に至るきっかけを得た、中国の出稼ぎ労働者の中で見かけた光景を紹介させていただきます。

唯一のエンタテインメント

私は以前、株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)にて、中国事業の立ち上げメンバーとして、約10年に渡り中華圏の各地で駐在していました。在職中は現地ゲーム開発会社のPlayStation参入支援、マーケティング活動、海賊版・密輸品の調査と摘発、政府との交渉等を担当していました。マーケティング活動を通じて、中国100都市、1000店舗以上の非合法のゲームショップを訪問し、彼らがなぜ海賊版を販売し、どのように販売するのか、どうすれば彼らが正規版を販売するようになるのか、という調査や実験を行っていました。

コピー商品の製造工場に潜入し調査をすることもありました。ある時、工場の労働者の携帯電話を見せてもらう機会がありました。もう10年近く前なので、皆ガラケーを使っていました。よく見ると2・4・6・8のキーが削れています。しかも、数台ではなく、その工場の労働者が集う食堂で共に食事をする100人以上の携帯電話が同様に2・4・6・8のキーが削れています。

なぜ、2・4・6・8のキーが削れているか分かりますか?
2・4・6・8のキーは上・下・右・左に対応し、中に入っているゲームを上・下・右・左とずっと遊んでいるので、キーが削れてしまっていたのです。しかも、遊んでいるのは、白黒のチープなゲームです。彼らに何故こんなゲームを遊ぶのかと聞いてみたところ、その答えに衝撃を受けました。

「だってこれしか無いじゃないか」

当時の出稼ぎ労働者の職場にはロクな娯楽施設が無く、出稼ぎ労働者は一日の重労働を終え、寮に帰って来て、手持ちのゲームを遊んでほっと一息を着くのです。このチープなゲームが彼らにとって唯一のエンタテインメントなのです。唯一のエンタテインメントだからこそ、ここまで遊ぶのです。

PlayStationという商品は初期投資で4~5万円、加えて10本でもゲームを購入するとなると、累計で10万近く出費が必要な商品です。当然、それだけの消費ができる人は所得が高い層です。PlayStationを買える層は、PlayStationという娯楽商品以外に、旅行に行くか、マッサージ行くかなど様々な選択肢に接しています。そのような層に対して、PlayStationを買ってもらうために、PlayStationの魅力や価値を訴える大規模なマーケティング・プロモーション活動を行っていたのです。ただ、彼らは常に他の娯楽の選択肢を持っており、PlayStationへの忠誠心はそれほど高くありません。その結果、大量の新作ソフトが中古ゲームショップで販売されるという光景を目にすることになります。彼らにとって、PlayStationは one of entertainmentなのかもしれません。

一方、私が目にした出稼ぎ労働者は、全くその逆です。供給が無いため、手にしたコンテンツをキーが削れるまで遊び尽くします。彼らにとって、手元のゲームはオンリーワンのエンタテインメントなのです。

声なき声に応えたい

その時の光景を目撃して以来、私は誰かに振り向いてもらうためのビジネスではなく、声なき声を上げる消費者に向き合い、彼らの求めるビジネスをしたいと考えました。ゲームに携わる人間として、ゲームを求める人にゲームを届け、ゲームを求める人に遊んでもらいたいからです。何より、同じ人間に生まれたのに、生まれた環境が違うから、娯楽の機会が少ないということが許せませんでした。

冷静に開発途上国の消費者をビジネスの対象として考えた場合、消費者の数は多いのですが、客単価は低くならざるを得ません。どのようにして低コストでコンテンツを流通させ、効率よく売上を回収すべきかが肝になるという商売の骨子に辿り着きました。色々検討を重ねた結果、ソニーの体質でそれを実現するのは難しいということから、自力で事業を立ち上げようと考えるに至り、2013年にソニー・コンピュータエンタテインメントを退職することになりました。

また、この先、私が中国の専門家として更に10年近く中国のビジネスをせざるを得ない状況にあったことも、退職を決めた理由です。中国の人口動態を見ると、これから先の10年で15~24歳というゲーム好きの若者人口が17%も減ってしまいます。自分のこれから先の10年は、縮小するマーケットでは無く、伸びるマーケットに賭けたいと考えたのです。

これから若者人口が伸びるマーケットはどこかと考えると、近場では東南アジアです。しかも中間層が増えることで所得も増えると見られています。ところが、東南アジアと言っても全く縁が無いので、まずは自分の足で何とか理解しようと2013年の1年間をかけて東南アジアを調査することにしました。

次回は、東南アジア市場の調査で見かけた光景をご紹介させていただきます。


大和田健人
大和田健人

Bazaar Entertainment Ltd.グループ CEO
慶應義塾大学政策・メディア研究科修了。大学院在学中より株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントでゲーム開発に従事。PlayStationの中国事業立ち上げメンバーとして2003年から約10年に渡り中華圏に駐在。マーケティング担当者として中国100都市、1000店舗の海賊版業者を訪問し、実態解明と正常化のための取り組みを実施。また、法律で輸入販売が禁止されていたPlayStationの合法化に向けて中国政府と交渉を行い、2012年に販売許可を獲得した後、同社を退社。1年間の放浪の後、2014年に開発途上国へのコンテンツ提供プラットホームを提供するBazaar Entertainmentを起業する。現在はインドネシア共和国バンドン市在住。

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