トランプ大統領の壁建設TV演説に関してメディアが語らないこと


(White Houseから引用)

トランプ大統領がホワイトハウスの執務室からテレビ演説で「国境の壁」建設の必要を訴えるメッセージを送った。民主党側やメディア側はトランプ大統領の発言についてファクトチェックを実施して反論する試みを行った状況となっている。さて、日本のメディアや有識者は米国のリベラルメディアの言論の方向に乗っかるだけの人が多いので、今回はそれらとは少し異なった見方を読者に提供したいと考えている。

まず本件について最もクリティカルなことを確認したい。それはこの壁を巡る対決が共和党大統領VS下院民主党多数の初対決だということだ。つまり、現在の状況はチキンレースとなっており、どちらが相手の軍門に先に屈するのかということが重要となっている。トランプ大統領・共和党にとっては「壁建設」は選挙公約として譲ることができないものであり、民主党にとっては議会多数派の影響力を国民に見せる劇場と化している。

何かと物議を醸す「国境の壁」であるが、そもそも壁(フェンス)建設はジョージ・W・ブッシュ政権時代の2006年にSecure Fence Act of 2006という法律が上院・下院で承認されたことに法的な根拠がある。そして、この法案は当時連邦上院・下院で上院80対19、下院283対138の圧倒的な多数に支持されており、上院議員であったバラク・オバマもヒラリー・クリントンも同法案に賛成票を投じている。

問題は法案趣旨の解釈であり、物理的な障壁と21世紀の技術によって国境管理の活動を支援することを通じて国境の安全を確保しよう、という趣旨への共和党・民主党の見解の相違であろう。

当時、同法案の推進者であった共和党下院の国土安全保障委員会のピーター・キング委員長は議場で同法案は700マイル以上の二重のフェンスを設置することを目的としていることを述べていた。ただし、既に法案が制定されてから10年以上の月日が流れてしまっているため、民主党側の主張は現代社会においてはドローンやその他の監視技術の発達によってより効率的に国境管理ができるのではないかということだろう。

つまり、共和党・民主党、そして大統領も壁の建設に関する法案を一度は了承したが、再び関係者間で、どこまで壁を作るのか、幾らの費用をかけるのか、効果的な代替手段はないのか、ということが焦点となっているという認識が必要である。

実際、昨年の移民キャラバン到着時にトランプ政権の強硬な対応(催涙弾使用など)が批判されたが、実はオバマ政権末期にも毎月のように催涙弾は使用されており、実は民主党側も政権を取った場合に国境管理を厳格に行うことについては一定の合意があるように思われる。

トランプ政権発足までに使用された壁建設予算は23億ドル(2300~2500億円)であった。国境管理を強化することを目的としたシンクタンクであるthe Center for Immigration Studiesの Jessica Vaughanの試算によると、ここから更に建設を進めていくと100億ドル(約1.1兆円)程度がかかるとされている。(トランプ大統領も当初は上記試算と同程度の金額を提示していたが、建設費用に関してはどのような壁を建てるのかによって最大2000億ドルを超える見積価格も存在しており定かではない。)

トランプ大統領が今回要求している予算額は57億ドル(5700~6000億円)であり、その意味では上記試算の半額程度の予算を要求していることになる。この金額が妥当であるかどうかは議論があるところだろうが、必ずしもおかしな金額を要求しているとも言えないだろう。

上記シンクタンクによると、不法移民の犯罪や福祉に関するコストは、米国の納税者に少なく見積もっても毎年・500億ドル(約5兆円)以上かかっていることも指摘されており、仮に壁を建設していくことで同コストを抑えることに繋がるのであれば一定の経済的な正当性もあるということになる。

現在までのところ、政府閉鎖の影響は博物館などのそれほど問題がない施設に関するものに留まっており、トランプ大統領も議会民主党もお互いにまだ粘れる状況だと言えよう。トランプ大統領は弱腰の対応で共和党内からの突き上げを受けて共和党予備選挙(対現職大統領でもあり得る)に影響が出ることを避けたいであろうし、民主党側も議会指導部は中道派であるため党内左派からのプレッシャーを気にしなくてはならない。

筆者は最終的には共和党上院院内総務であるミッチー・マッコーネル上院議員が影響力を発揮して民主党側と仲裁が行われるのではないかと見ているが、果たしてどのような結果になるであろうか。今後の展開から目を離すことが出来ない。

 


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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