シンギュラリティ(技術的特異点)シリーズ【第1回】シンギュラリティ概念の誕生


今回から、シンギュラリティシリーズを執筆させて頂くことになりました佐々木健美です。本シリーズでは、現在研究開発が加速する人工知能と並行して議論される「シンギュラリティ」という概念について、過去の経緯、現在の動向、そして今後どのような方向に向かうと考えられているかをご紹介したいと思います。第1回はシンギュラリティ概念の誕生の経緯をご紹介します。

「シンギュラリティ(技術的特異点)」とは、ごくごく簡単にいうと、「人工知能などの科学技術が進展して、人類の生活・生存態様が想像できないほど一変すること(時点)」を意味します。この概念の萌芽は19世紀の中頃(日本では江戸時代です)に見られ、機械式計算機の発明に伴い「機械が飛躍的に発展し、人類の理解を超えた概念を捻り出すこともあり得る(リチャード・ソーントン、1847年)」、その後「人間と機械との関係は,馬や犬と人間との関係と同じようになるだろう。人間は存在し続けるだろうが,むしろ機械の慈悲深い統治の下に、現在の野蛮な実態をおそらく改善できることになるだろう(サミュエル・バトラー、1863年)」と書かれた文献が残っており、この頃から機械の能力が人間を超える可能性が考えられていたことがうかがえます。

20世紀に入り、1947年の数学学会の講義では、「シンギュラリティ」を引き起こす最大の要因あるいは基礎要素と現在考えられている「人工知能」の概念を数学者のアラン・チューリングが初めて提唱し、彼はその後1951年に「機械が思考する方法がひとたび確立したら,非力な人間など追い抜くのに時間はかからない。いずれは機械が統制する世界が来ることを予期せねばならない。」と語りました。1956年の一般的に「ダートマス会議」と呼ばれる研究発表会では、このような「人間の知的活動を行う機械」という概念に対して「人工知能(Artificial Intelligence)」という言葉が初めて使われ、その後一般化していきました。


【図】計算機・人工知能とシンギュラリティ概念の誕生

本事象に対して「シンギュラリティ」という文言を初めて使ったのは、数学者ジョン・フォン・ノイマンだと考えられます。これについて、同じく数学者のスタニスワフ・ウラムはノイマンの追悼記事(1958年)の中で「たえず加速的な進歩を遂げているテクノロジーは(中略)人類の歴史において、ある非常に重要な特異点(singularity)に到達しつつあるように思われる。この点を超えると、今日ある人間の営為は存続することができなくなるだろう。」とノイマンが語ったと書いています。このときノイマンは「singularity(特異性・特異点)」という普通名詞を使っていますが、私はこれが現在の「シンギュラリティ(技術的特異点)」概念の名称の発祥と考えます。そして、1965年には、数学者ジョン・I・グッドが「人類の存続は,超知能機械の初期開発に依存する」と述べ,結論に「21世紀中には超知能機械が作られる可能性は高く、これは『知能爆発』につながるため、人類が作る必要がある最後の発明になるだろう。」と記しました。(Speculations Concerning the First Ultraintelligent Machine)「知能爆発」は、「シンギュラリティ」概念の主要要素の1つですが、これについては次回説明したいと思います。

1993年には、数学者でSF作家のヴァーナー・ヴィンジがこの概念を論考「The Coming Technological Singularity: How to Survive in the Post-Human Era」にまとめ上げ、「the Singularity」と命名しました。「シンギュラリティ(the Singularity)」という文言使用はこの時に確立されたと考えてよいでしょう。ヴィンジは「シンギュラリティ」発現へのさまざまな可能性を示すとともに、その危険性を指摘して警告を発し、さらにはその危険回避策も模索しました。私は、シンギュラリティ議論の主要な要素が、ヴィンジのこの論考にすべて含まれると考えます。これについては次回にご紹介します。


佐々木健美
佐々木健美

情報セキュリティ・個人情報保護コンサルタント
慶応義塾大学文学部卒業(社会学専攻)、主にヨーロッパにてマクロビオティック料理を研究、帰国後翻訳・IT管理業務等を経て、現在情報セキュリティ・個人情報保護コンサルティング・翻訳・教育業務に従事。2014年4月米国シンギュラリティ・ユニバーシティにてエグゼクティブプログラムを受講

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