なぜ、毎月勤労統計の不正は見過ごされてきたのか?


厚労省の毎月勤労統計に関する不正は何故発生したのか

厚生労働省による「毎月勤労統計」で、東京都の全数調査が行われないという法律違反が発生した時期は2004年とされている。この発表自体も疑わしいものがあるが、その根拠は2003年7月に都道府県知事に通知した「事務取扱要領」で、東京都を抽出調査とする旨が記載してあったことによる。

統計不正に関する経緯は、ダイヤモンドの記事に詳しいが、厚生労働省は事務取扱要領において「規模500人以上の事業所は東京に集中しており、全数調査にしなくても精度が確保できる」と堂々と法律違反を都道府県に通知していたのであり、この段階では統計不正を隠していたわけでもない。

実際には2015年の事務取扱要領から抽出調査の記述が削除されたことで事実確認が困難となり、2016年に厚労省が総務省に対して全数調査であると回答するに至った。そして、2018年1月からはデータ補正を開始しており、その数字が明らかにおかしかったことから民間のエコノミストらの指摘もありつつ、統計改革委員会で詰問されたことで厚労省は実態を正式に白状したことになる。
行政府は嘘をつくもの、その監視は立法府の責任である

では、なぜ厚生労働省の統計不正は放置されてきたのだろうか。それは行政府は無謬であるという信仰がそうさせてきたと言えるだろう。しかし、安倍政権下での様々な公文書・統計改ざんは言うに及ばず、そもそも行政府は嘘をつきやすいものだということを改めて認識するべきだ。

行政府の運営は国民からの強制徴収による税金によって行われる。統計不正が発覚したところで税金の支払いをしなくて済むわけではない。国民生活や経済政策に大きな影響がある基幹統計が狂っていたとしても、一部の職員が減俸・左遷する程度で終わるのがせいぜいである。

では、国民は行政府の嘘や隠蔽に対して何もできないのだろうか。

本来、国民に代わって行政府を監視する役割は立法府が担っている。彼らが厳しく監視しているからこそガバナンスが不健全になりがちな行政府はそれなりの節度を保つことが本来可能となる。2004年から行われた統計不正に関しては、与野党関係なく国会議員が誰も気が付くことなく放置されてきたことが問題なのだ。

本件は法律違反であるため、一部の党派的な利害に基づくものというよりは、行政府に対する立法府の監視機能が基幹統計に関して全く機能していなかった、ということが何よりも深刻だと言える。

政党助成金を選挙にほぼ全額投入し、経済政策を立案しない政党劣化の帰結

なぜ国会議員たちは統計不正に気が付かなかったのだろうか。その理由は簡単であり、基幹統計の数字を継続的に細かく見ている国会議員が一人もいない、ということに尽きる。国会議員というよりも政党と言い換えても良いかもしれない。

毎月勤労統計の不正とは、政党として経済統計を継続的にウォッチし、党独自の経済政策を立案するスタッフが1人も存在していないことの証左である。上記の経緯を踏まえれば、しっかりとしたスタッフを配置して、国・地方の統計情報に目を光らせている人間が政党に存在していれば不正にもっと早く気が付いたことは明白であり、それ以前に不正を実施することすら難しかっただろう。そのような国会議員やそのスタッフが1人いるだけで役所はビビって不正などできないものだ。

政党助成金は1議員あたり約5000万円交付されているが、このうちの僅かでも経済政策の立案のための人材に政党として予算を振り向けていれば、このような問題は発生しなかったと言える。現在、政党助成金は実態として事実上の選挙活動である各議員たちの政治活動に使用されているため、このような正しい予算の使い方は望むべくもないが。

私たちが毎月勤労統計の不正から学ぶべきことは目の前の景気動向というよりも「現在の政党には政策的な存在価値がない」という事実だろう。政党の存在意義の根幹に関わる経済政策の立案・監視機能がないのだから。

本件を通じて、国民にとっては「立法府に真面目に経済政策を考える政党を作るべきだ」という当たり前の結論を得られたことが唯一の救いと言えよう。


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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