「米国の左派」という愛国主義者を理解する



(2017年ロイター、ナンシー・ペロシ議員、ダライ・ラマ面会時の写真)

なぜペロシ下院議長は「慰安婦問題」と「北朝鮮人権問題」を同時に語れるのか

文喜相国会議長と面会した米下院議長「金正恩氏の真の意図は韓国の武装解除」

米下院議長、韓国国会議長に「慰安婦問題解決努力を支持」

最近、韓国国会議長らが訪米した際に、ナンシー・ペロシ下院議長に面談し、韓国の北朝鮮政策を批判する厳しい警告を受けたこと、そして慰安婦合意問題について「日本が尊重するべき」という趣旨の発言があった、とする報道があった。

日本の保守派は1つ目の記事で「米国は日本側だ!」と歓喜したり、2つ目の記事で「下院議長は勉強不足」と声を荒げたりしている。仮に報道内容が両方とも事実であるとした場合、この両方の感想は全くの間違いだ。それは一体どういうことだろうか?

米国の左派と日本の左派の大きな違いは「普遍的な人権意識」をしっかり持っているのか

日本の左派はイデオロギー的な党派性が強すぎるため、米国や自国内の人権問題は指摘するものの、主に旧共産圏に属する地域や日本の植民地であった場所で起きている残虐行為等に言及することは滅多にない。

それに対して「米国の左派」にとって人権問題は「普遍的価値観」の問題であり、それはイデオロギーの党派性を超えた次元の問題として捉えられている。(むしろ、これは左右のイデオロギーの違いすらも超えた米国人一般の意識とも言えるかもしれない。それが色濃く出るのは米国の左派の特徴である。)

したがって、上述のナンシー・ペロシ下院議長であれば、中国の弾圧、北朝鮮の弾圧、サウジアラビア人権問題、ISの虐殺、慰安婦問題、MeToo運動、その他諸々、についてほぼ常に厳しい立場を取っている。普遍的な人権問題という視点から見れば、ペロシ下院議長は米国でも屈指の対中・対北朝鮮強硬派だろう。

したがって、ペロシ下院議長については彼女が入手する情報の偏りはあるかもしれないが、基本的にその姿勢には一貫性があると言って良い。(その一方、彼女は一度敵とみなした相手にはトコトン厳しいと思う。)

これが米国人としての当たり前の対応であり、政治理念を持った人の政治活動なのだ。したがって、ペロシ議長側から見た場合、上述の2つの言動には一貫性があるものであり、何も矛盾することはないことはないだろう。これは普遍的人権意識こそが米国の左派の愛国主義の表れだと言える。

ペロシ下院議長の言動の意図を推測した場合に見えてくることは何か

以下は筆者の推測であるが、ペロシ下院議長の「日本に対する発言」は過去の彼女の言動の延長線上に立脚したものだと思う。彼女は過去の2007年に慰安婦問題で日本に謝罪を要求した下院決議を主導した人物であり、当時には

<ペロシ議長の対日謝罪要求決議に関する声明>Supporting the ‘Comfort Women’ Resolution

を出していたほどの筋金入りの対応を示している。

これにはアジア系有権者が民主党の支持基盤であること・韓国ロビーの積極的な活動がお壊れていることなど背景にあるが、ペロシ下院議長自身の政治理念と合致した点も大きいと思う。(ちなみに、日本側が論点としている「軍による強制があったか」という論点は、建前上は風俗禁止のポリコレ社会である米国においては何の意味もないorむしろマイナス争点だ、ということも付記しておく。)

韓国側のいつも通りの主張ならば「日韓慰安婦合意は結んだが、慰安婦自身の気持ちに寄り添った謝罪が足りない」ということだろうから、ペロシ自身がその意を汲んだ発言を行ってもおかしくはない。何といっても2007年当時に上記の下院決議でバッシングの対象にしたのが第一次安倍政権なのだから、彼女は安倍政権は道義的に信頼がない政権という印象を持ち続けている可能性もある。そして、この問題が道義上の問題として捉えられていた場合、今回の合意崩壊のプロセス自体に関心を示すとも思えない。

しかし、ペロシは米国の普遍的人権の考え方を尊重する米国の愛国者であるため、北朝鮮という独裁体制の人権侵害国家を許すわけもなく、北の独裁政権に融和的な姿勢を取っている文政権(そしてトランプ政権も)も容認するわけがない。そのため、トランプ・金正恩会談を目前に控えた現在状況では、彼女と韓国側の意見交換は「ペロシ下院議長が北朝鮮問題で韓国に説教をした」ということで間違いないだろう。

この点で勘違いするべきでないのは「ペロシ下院議長は日本側に立って発言した」可能性はほとんどないということだ。したがって、慰安婦合意に関する日本への発言と北朝鮮問題に関する文政権への警告は並列することになる。

日本国内では一部メディアや識者を中心に米国要人の発言を自国に合わせたご都合主義で理解しようとする向きがある。これは韓国側も同じであり、両者は同じタイプの都合の良いことしか耳に入らないタイプの人達と言える。

米国は世界最大の超大国であり、アジアの揉め事などに話を合わせてくれる人達ではない。米国人は常に彼らの見方と都合で言葉を発して行動している。我々は主張すべきことは主張しつつ、その当たり前の常識を受け止めなくてはならない。


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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