トランプは中東の平和を失った(The American Conservative No.1)


イスラエルを支持するトランプの意向は、欠陥多きオスロ合意の遺産を粉砕した

(2017年5月22日、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ、ジャレド・クシュナーとドナルド・トランプ大統領、エルサレムで。クレジット:Flickr / CreativeCommons / Kobi GideonGPO /イスラエル外務省)

トランプ政権の時代は、クリントン政権以降の数十年で、アメリカ外交がイスラエル・パレスチナ問題に対して最も成果を残した期間となっている。しかし、少なくともパレスチナ人や真に平和を求める人にとって、必ずしもトランプ大統領の時代の成果は肯定的に捉えらえるものではない。

クリントン時代に為されたオスロ合意は、イスラエルとパレスチナの共同外交的イニシアチブとホワイトハウスによる支援という二点によって特徴づけられる。この中東和平プロセスを通し、最終的にイスラエルとPLO(パレスチナ解放機構)が相互にその正当性を承認。その後のヨルダン川西岸とガザ地区におけるパレスチナ自治政府の創設が決定された。このオスロ合意による和平プロセスの枠組みは、1998年のワイリバー覚書から2000年のキャンプデービッド合意、そして2007年のアナポリス会議に至るまでの外交努力を惹起した。一連の取り組みはすべて時の政権、クリントン、ブッシュ、オバマ政権による支持のもとにあった。

対照的に、トランプ政権はイスラエル・パレスチナ問題に対し、極めて一方的な行動をとった。トランプ政権の取り組みはイスラエル側の称賛を受けた一方、PLOからは手厳しい批判を表明された。トランプ大統領がもたらした変化の一つに、2018年にホワイトハウスがエルサレムをイスラエルの首都として認定したことがあげられる。さらにその後、1949年に設立された難民支援機関、UNRWA(国連救済事業局)に対する資金拠出も打ち切られた。中東全域のパレスチナ難民キャンプにおいて、学校や医療施設の運営はアメリカ無しには成り立たない。アメリカによる財政支援の打ち切りは、単にトランプ大統領の決別の意志を象徴的に示すだけでなく、UNRWAに実質的な打撃をもたらしたのである。

トランプのイスラエル・パレスチナ問題に対する意向は、オスロ合意の中核、そして従来のアメリカ外交によって形作られた国際社会の認識に激しく対立する。それはオスロ協定のもとで一応の平和が保たれていた間だけではなく、特にUNRWAなどの場合には、第二次大戦後の闘争の原点にまで戻って言えることである。すなわち、アメリカ外交が維持してきた中東の平和という世界観は、もはや死にかけているのだ。

オスロ協定の枠組みの緩慢な崩壊は、何もトランプ政権によってのみもたらされたことではない。1993年9月の栄光の日、ホワイトハウスの芝生でクリントン、ラビン、そしてアラファトが高々と寿いだオスロ協定という和平プロセスの欠陥こそがもたらした、必然なのである。

オスロ合意の立役者たちが作り上げた体制は、パレスチナの主権、あるいはパレスチナにおける民主主義のための領土基盤の確立に失敗した。トランプはその不毛な外交状況を受け継いでいる。オスロ和平プロセスが成功したのは、イスラエルの占領を強化することと、イスラエルが当時占領していた地域へ、50万人以上のイスラエル人を移転させることにおいてのみだった。このある種皮肉な「成功」は、中東問題の核心であったパレスチナ・イスラエル間の紛争に対する合意解決の見通しを、取り返しがつかないほど複雑なものにした。

トランプは中東和平交渉における新たなルールを作り、主導権を握ろうとしている。彼が繰り返し主張している「究極のディール(取引)」はいまだとらえどころがなく、実際新たな関係を構築するかもわからないが、国際社会の注目を集めている。アメリカ議会は、トランプの取り組みからアメリカの政策方針を読み取り、それに応じてイニシアチブを形成しようとしている。

中東問題に関するホワイトハウスの最新の動向は、反テロ明確化法である。昨年制定されたこの法律は、アメリカの援助を受けてテロ行為を行った外国団体はアメリカの裁判所で起訴される、という可能性を示唆している。

これらの一連のアメリカの動向は、ある傾向を表しているといえる。つまり、パレスチナ自治政府に対するアメリカの何十億という資金援助を、完全になくさないにしても、大幅に削減しようとしていることだ。さらに言えば、ホワイトハウスの中で、政治階級や党を超えて、大半の人間がイスラエル・ パレスチナ問題に対する継続的な支援にもはやうんざりしてしまったことを示している。

過去の米政権は確かに親イスラエルだったが、パレスチナに対しても真摯な対応を見せてきた。だが現政権はあまりにもイスラエル一辺倒な姿勢を見せている。この新しい状況において、イスラエル側は当然、今がヨルダン川西岸に対して支配の手を伸ばし、パレスチナ自治政府の領域をも統合するチャンスであると感じるだろう。イスラエル政治はパレスチナの主権を実質的にはもちろん、表面上でさえ、支持していない。実際、イスラエル一辺倒なホワイトハウスの行動に大きな影響を受けたネタニヤフは、2つの州の主権に対し、支持を放棄した。イスラエルの政策レベルにも目を向けてみよう。先月、TIPH(ヘブロンでの一時的国際プレゼンス)の義務を更新しないとネタニヤフが決定したことは、オスロ合意の枠組みに対してイスラエル側の敵意が増幅されたことを如実に示している。 1998年のワイリバー覚書の時点では、ネタニヤフは今回反対したのと全く同じ、国際的モニターを設置することに対して同意しているのだ。

先月以降、イスラエルとPLOの間に正式な取り決めはなされていない。TIPHに対する支持を撤回するというネタニヤフの一方的な決定は、トランプの動向の影響を反映した一連の例の中では、最新のものだ。

パレスチナ側も、優位に立とうと必死の取り組みを見せている。 マフムード・アッバース大統領は、本来であればずっと昔にその任期を終えているはずだった。アメリカの指導の下で、彼は2005年のパレスチナの大統領選挙と、2006年の立法評議会の開催を回避した。さらに、アッバースは最近、ハマスの議員たちがサイレントマジョリティとなっていたために機能していなかった立法評議会を、抗議する隙すら与えず、閉鎖した。

不吉なことに、アッバースは、和平交渉の核心であるイスラエルとの重要な治安協力に対して崩壊の引き金を引くと脅している。アメリカがパレスチナ自治政府の治安部隊に対して行う援助によって、潜在的な法的責任が課されているからだ。「資金援助は中断されるだろう」。パレスチナの上級官僚、サエブ・エレカットはAFPにこう語った。「それでも資金援助が私たちを法廷に連れて行くのであれば、少しのお金も受け取りたくはないのだ」。

アッバースは以前にイスラエルとの安全保障協力を停止すると脅している。だが結局のところ、パレスチナがイスラエルとの安全保障上のパートナーシップを維持するための相互利益の遵守は、ホワイトハウスがパレスチナの治安部隊に対する支援を維持するための「回避策」を生み出すことをすでに強制している。安全保障のパートナーシップはオスロ合意の重要なピースであり、当事者はそのピースが有用であることを認めざるを得ないのだ。

オスロ合意で確立された秩序の破壊は、新しく危険な時代を切り開く。確かに、オスロ和平プロセスの枠組みはそれ自体、崩壊の萌芽をその内に宿していた。トランプはこの欠陥を受け継ぎ、そして、今、その古い秩序を破壊しようとしている。一方で、トランプはオスロ合意に代わる和平交渉のプランをほとんど持っていない。

Geoffrey AronsonはThe Mortons Groupの会長兼共同創設者であり、中東研究所の非居住学者。

本日本語翻訳はThe American Conservativeの許諾を得て掲載しております。
参照元記事:https://www.theamericanconservative.com/articles/trump-has-all-but-lost-peace-in-the-middle-east/
著者:Geoffrey Aronson
翻訳者;May Sato


The Urban Folks 編集部
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