「e-Governanceを考える」


日本政策学校 渡邉萌捺です。
今回もユースデモクラシーLab定例勉強会に参加させていただきました。
第25回となる今回のテーマは「e-Governanceを考える」

主催団体公式HP ☞ http://youth-democracy.org/

今回の講師は、元・在エストニア日本国大使館 専門調査員の守田健太朗さん。

誰もが最先端と認めるエストニアの例をもとに、日本との違いや目指すべき未来の電子政府についてお伺いしました。


【左:渡邉萌捺  右:守田健太朗さん】

エストニアを捉える3つのポイント

1:国の規模

面積は九州と沖縄を足した程度で、オランダやベルギーよりも広いです。しかし人口は、オランダやベルギーが1300〜1700万人なのに対し、エストニアはたった130万人。そのうち40万人以上が首都のタリン在住で、1万人に満たない市町村がほとんどを占めています。

そのため、独立当初から「どのようにすべての自治体に同じ質の行政サービスを提供するか」が非常に問題となっていました。広い面積にほとんど人がいなく、お金も資源もなかったエストニアは「効率」を重視しました。これがエストニアで電子が流行ったカギとも言えるでしょう。

2:北欧との関係が強い

輸出入の割合を見てみると、半分程度が北欧・バルト三国との関係になっています。ロシアが占める割合が非常に低いです。これは次にお話する安全保障にも関わるのですが、エストニアは基本的にロシアとの貿易をどんどん下げています。輸出入の戦略としては、アジアなどの全く違うエリアをターゲットに、ロシアへの依存度を減少させていくことを目指しています。

3:安全保障

エストニアが実質的に独立した期間は50年ほどしかありません。そのため、「国として独立した状況をいかに保つか」がエストニアとって最重要であり、すべての行動の原理になっていると思います。

隣国のロシアに支配された期間が長く、危機感も強いので、先程のように外交・安全保障政策を考える際には常にロシアが念頭にあります。どのように独立を維持するかを第一に考え、NATO、EU及びその他の国際機関を非常に重要視しています。その結果エストニアにはイギリス軍を主体とする多国籍軍が駐留しています。また、エストニアは国際的にも、恐れることなくロシア批判をするので、ロシア側もエストニアをかなり意識しています。

差は「設計思想の違い」

エストニアは世界で最初にネット投票を導入した国としてよく知られていますが、特に、税金の仕組み・企業のたてやすさ・情報環境といったランキングで世界でもトップに名を連ねています。いま電子で行えないのは、結婚・離婚・不動産の売買のみ。

例えば救急対応も電子化されています。事故が起こった時、救急に電話を掛けるとモバイルポジショニングデータから現在地の特定が可能。車のナンバーを伝えれば、所有者が分かり、これまでの事故履歴やアレルギーなどのコアな医療情報も分かるので、駆けつける前から何をすべきか把握できるのです。救急車にも、病院にも情報共有でき、命が助かる可能性が格段に上昇します。

確定申告も、必要な情報は必ずどこかの機関に登録されていて、それを集めてくることができるので、3分程度で完了します。エストニアは、あと数年で企業の税務手続きを国が代わりに計算するという世界観が訪れると言われています。

最初に大ヒットだったのは、このように税金の申請が非常に楽になったことでした。

国民が絶対に必要なキラーサービスが生まれない限り普及は難しいと思います。ツールがあったからといって国民による電子サービスの普及が簡単に伸びるわけでありません。使えるサービスがあるから使うのです。

エストニアの電子化は、市民と民間企業を中心に据えて考えられた仕組みになっています。

電子政府が普及するカギ

・テクノロジー
・法律と規制
・マネジメント

まず、パソコンの前に誰が立っているのかを確実に証明できる必要があるので、フィンランドのIDカード制度を真似するかたちで、エストニア政府はIDカードを発行しました。フィンランドの方がIDカードを導入したのは早かったのですが、義務化しなかったために普及しませんでした。エストニアでは、「15歳以上の国民に取得を義務付けた」というのが大きな違いですね。

eサービスを作ろうと思っても、使える人が多くいなければそもそも必要なくなってしまいます。法律で義務化してほぼ100%の国民が利用する環境をつくることで、民間企業が簡単にIDカードを活用するためのサービスを提供しやすくしています。

IDカードの番号は他人に知られても何も出来ません。個人認証のPINコードとデジタル署名のPINコード、2つのコードを知らないと活用できないようになっています。

国内でなにかするときに紙で署名を行うことはほとんどなく、紙で署名しようとすると逆に怪しまれます。エストニア政府関係者が言うには、EUとの関連で…という時のみですね(笑)

紙で署名をすると、

・送る作業
・紙のコスト
・封筒のコスト
・時間(署名者が出張中の場合もある)

がかかります。

これが全て削減された時間をお金に換算すると、エストニアではGDPの2%を毎年削減していることになると言われています。このGDP2%とは、国防費と同じくらいなので、政府の方は「デジタル署名によって国を守っている」と言っていたりします(笑)

テクノロジーで2つ目に重要なのが、2001年に導入された情報連携基盤の「Xロード」です。

データを安全に連携する際に欠かせないのが、

・アクセス権限を持つ人が簡単に情報活用できること
・情報のやり取りの匿名性が守られていること
・情報が改善されないこと

上記3点です。

上記3点を保証するのがXロードです。なぜXロードを利用するのでしょうか?それはワンスオンリーポリシーという規制によって、「市民に2度以上同じ情報を聞いてはいけない」とされているんです。

例えば僕が引っ越しをして、ポピュレーションレジストリに住所変更を登録したとします。それ以降は、警察で住所が必要になっても、病院で住所が必要になっても、国の機関は僕に聞くことはできませんので、すでに登録された情報を活用する他ないのです。

また、エストニアでは法律によってアクセス権限が明確に定められています。

例えば医療情報の場合、アクセス権限を持つのは病院内のその患者さんを担当する特定の医師・看護師のみです。Xロードを活用するにはIDカードによる個人認証が必要で、個人認証してアクセスをすると時間・どのデータにアクセスしたかなど、記録が残ります。国の機関が管理するだけでなく、市民が誰が自分のデータを見たかを自分自身で確認することも可能です。不審なアクセスがあれば、説明請求ができ、特定時間以内の回答が義務付けられています。その回答が不十分な場合、そのまま裁判に持ち込むことも可能です。医師の違法アクセスが発覚した場合、医師免許剥奪・禁固刑など。

情報保護機関と個人の双方からチェックでき、デザイン的に「個人の情報は個人のもの」として守られています。

しかし、アクセス権限は付与・移行も簡単に行うことができます。例えば、高齢者の方が自分の薬を子どもや孫にもらってきてもらうなど。関係性の証明が簡単に確認できるので、スムーズに権限の付与・移行ができるのです。

このXロードが使われることによって、毎年800年分ほどの労働時間が削減されていると言われています

IDカードが普及しなかった4年間

実際は、エストニアでも最初の4,5年はほとんど利用されていませんでした。そもそもIDカードを活用したサービスが少なく、利用する機会がありませんでした。

課題は3つ。

・そもそもインターネット使える人が少ない
・利用方法がわからない
・既に浸透している銀行の認証システムから個人のIDカードにどう移行するか

1996〜2000年、当時国内にあるコンピューターはたった659台。値段は当時の月給の3倍で、ほとんどの人が手をつけられないものでした。

そこで官民が連携して、全ての学校にインターネットが繋がっているコンピューターを導入したり、公民館などに自由に使えるコンピューターを設置したりと、コンピューターを使える環境を提供しました。

利用方法に関しては、10万人の成人男女(当時の成人10%程)に向けて、どのようにコンピューターを使うか教育を行いました。1回きりではなく、次の世代へも続けられ、計30万人程度に基本的なIT教育をしました。

成人以下の子どもは学校にコンピューターが導入されたので、学校で教わることができました。

それでも、カードを使うことには繋がらない。

そこで2007〜2009年に始まったのが、銀行と通信会社が主体のIDカードを利用した認証の普及プロジェクトです。

銀行が国と合意をして、ある一定額以上のお金を送金する際には、IDカードの認証を利用しないと送れない仕組みにしました。この銀行の協力があったからこそ、IDカードが普及していきました。

では、なぜ協力したのでしょうか?

IDカードを発行する際の電子証明書を提供する会社が大手銀行・通信2社ずつが設立した企業に託しました。IDカードが利用されなければ、銀行や通信会社に利益は出ません、そのため彼らが普及を促進する仕組みにしたのです。いままで銀行が提供していた認証は使われなくなっていきますが、その分IDカードを利用した認証が増えるので彼らにとってもモチベーションがありました。

エストニアが目指す「世界観」

2013年、民間の社長を国のITのトップに入れました。彼がCountry as a Serviceという、「税金を使っているのであれば、それなりのサービスを提供しなければいけないし、顧客を手に入れるマインドでやらなければならない」考え方を導入しました。、例えばその一つがよく話題になっている「電子居住権」です。

また、この文脈でもう一つ注目なのが「デジタルノマドビザ」です。

現在デジタルノマドはどこでも働けますが、観光ビザなので法律的にはグレーですよね。エストニアはそこに目をつけて、彼らにビザを発行して、働けるかたちで誘致をしようと。エストニアからビザが発行されれば、合法的に一定期間日間他EU諸国に滞在可能など、彼らにメリットがあります。こういった機会をキッカケにエストニアに興味を持ってもらう、エストニアに定住しながらあちこちに行ってもらうなど、国外からも「顧客を手に入れる」というマインドで進んでいます。

そして、日本でも絶対にやるべきなのが「Zero bureaucracy」

民間企業の負担を削減することを強く進めています。電子化するだけでなく、そもそも必要のない手続きをなくす。また、なくせないものだとしてもクリックすらさせず、自動化する。これが前半でお話した、企業の税務手続きを国が代わりに計算するという世界観に繋がります。完全に自動化することで、主要なビジネスだけに集中できることを目指しています。

もう一つが、「Invisible service」

これも電子化が進んでもクリックが必要という問題についてですが、例えば、年金を受給する年齢って決まっていますよね。政府は、いつその年齢に達したか把握しているはずなのに、なぜ申請をしなければならないのか。

また、障がいを国に認定された瞬間に、もう申請書を出す必要はないんじゃないか。

そういった考え方から、全て見えないようなかたちでサービスをつくっていく。裏では動いているけど、触らなくても効率良く申請が行われる世界観をつくろうとしています。

電子政府を考えると、行政の効率化だったり、政治への電子的な参加だったりを思い浮かべる人が多いかと思うのですが、あくまでツールだと思っています。

なので、根本的に持っているものってなんだろう?と考えると、1つ目は市民・企業の負担を軽減することによって、本来の活動を充実させることができるということ。

2つ目は市民に対して平等な機会を与えるということ。

先程の投票のように、24時間365日オンラインでアクセスできればどんなこともできるわけです。何かを持っている人、例えば時間がある人、のみがアクセスできるのではなく、夜勤の人でも日中働いている人でもいつでもサービスを受けられることを確保するというのが、平等な機会の提供だと思います。

3つ目は、新しい国家と市民の関係をつくっていると考えます。

市民がより簡単に国を監視できるようなシステム。あらゆるデータに接続する際、何時何分何秒にどこの組織の誰が、など全て記録が残るので、自分のデータの利用のされ方、また国のデータの利用のされ方を全て監視することができる。これは、国家と市民の新しい関係を構築するものなのでは、と考えています。

4つ目が安全保障・外交・国際競争。

エストニアでは、電子政府はただ国内の効率化に利用しているだけではなく、ブランディングでもあります。「電子政府といえばエストニア」をつくりあげているのです。エストニアは国も小さく、人口も少なく、影響力も小さいので、すぐに埋もれてしまうと。大きな国なのに侵攻を防ぐことも対抗することもできなかったウクライナを受けて、国際的に常に目立っていることが重要だと政府は言います。新しい安全保障の在り方だな、と感じています。

また外交の面でも、エストニアはEUでの発言力を増しています。その分野こそ、デジタル・データの活用といった部分です。ブランディングやマーケティングによってどれだけ面白い国かをみせて、人・お金を呼ぶか、というかたちで国際競争力も上げていると思います。

ぜひ、皆さんにも「目指すべき電子政府とは何か」を考えていただきたいと思います。

おわりに

わたしは、前回の講師であるヨムさんから「韓国の電子政府」を、そして今回は守田さんから「エストニアの電子政府」を教えていただきました。どちらも電子の様々な部門でトップを走る国であり、その現状を連続して聞けるという素敵な経験をさせていただきました。2つの勉強会を通すことで、世界の最先端がどこまで進んでいるのかを感じ取ることができました。

2国の現状、また普及の仕方にも、共通する部分が多くあったと思います。

今回わたしが驚いたのは、これだけ話題のエストニアでさえも「普及しなかった4年間」が存在したこと。これから日本で普及を目指すには、国の規模や人口、しっかりと守られている法律なども壁となり、さらなる工夫が求められるとは思いますが、この共通する部分こそ、参考にすべきところだと思いました。

 


政策 太郎
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