ドナルド・トランプは平和をもたらすか?(The American Conservative・No2)


 

平和をもたらす可能性がある一方、外交政策の抑制を望まない大統領顧問がいることの限界も存在する

「死の商人」はかつて武器業界を示す呼称であった。特に、ジャーナリストであるF.C. ハニゲンとH.C.エンゲルブレヒトが1934年に出版した本の題名に使用したことでよく知られている。今日における死の商人は武器商人ではなく、政策立案を行うエリートの中に潜み、政府の内外で戦争というアイデアを流布させる存在である。彼らは尊敬の念を一身に受けているが、真の支配階級から一目置かれたいと考える政治家は、彼ら商人たちが売るアイデアを採用する必要はない。死の商人という社交界の名士と袂を分かち、戦争に異を唱える者は、ロン・ポールかツルシ・ガッバード、あるいはドナルド・トランプと同じような扱いを受けている。

トランプは尊敬を渇望しない。トランプ自身の持つ自尊心の大きさによって、あらゆる承認欲求が満たされるからだ。ゆえに、トランプの敵にしてみれば、トランプは傲慢で、かつ彼自身の無知をひどく誇りに思っているように見える。だが、尊敬を求めないという彼の性質は、大半の政治家が影響を受けてしまうイデオロギーウイルスに強い免疫があることを意味する。トランプは自国の外交政策が大きな赤字をもたらしていることを認識している。そして、そのことこそが、平和の狼煙を上げる大統領を生み出したのである。

専門家によれば、バッシャール・アル・アサドとISのようなグループ、同時に2つの勢力を相手取るような戦争を戦うというような場合でさえ、米国はシリアに深く関与するべきだという。同様に、米国がアフガニスタンからすぐに撤退するべきではないとも信じている。だが同時に、一般的な政党員やシンクタンクの研究員の多くは、米国が約70年もの間、ドイツと日本の地で軍事的な実権を握っていたことを主張するだろう。アフガニスタンもそうならない理由はどこにあるのか? ロシアに対して、アメリカの政策は新たな冷戦の形をとるべきである。 NATOは際限なく拡大するはずだ。イランとの戦争は、共和党による外交政策が影響力を持つ限り、避けられない。サウジアラビアの戦争はアメリカの戦争となる。そして北朝鮮は、我々から安寧を奪うに違いない。

トランプは、イエメン内戦におけるムハンマド・ビン・サルマンへの支援を除いて、上記の意見のほとんどすべてに反対している。シリアとアフガニスタンにかかわりたくないと考えているのだ。NATOから脱退することも考慮にいれている。NATO加盟国は、米国の安全保障に貢献することなく米国から一方的に利益を得ていると考えているためだ。さらにトランプは、ロシアをアメリカのパートナーになりうる国であると考え、同様に、キム・ジョンウンを核兵器に心酔したサイコパスではなく、取引可能な独裁者だと考えている。確かにトランプは、バラク・オバマが打ち出したイラン問題への関与方針を放棄した。だが彼は戦争を行わずに政策放棄を行った。彼がテヘランに対してとったアプローチは封じ込めの一つであり、積極的に体制を揺るがすような行為ではない。

トランプ政権の構成員が、彼と同じような考えの持ち主ばかりであれば、アメリカははるかに抑制されたグランド・ストラテジーを描くことができただろう。アメリカの軍事力は依然として世界最大規模である。トランプは軍の支出を縮小したわけではないが、アメリカが関与する戦争はほとんどなくなり、アメリカの世界の警察としての役割はもはや際限ないものではなくなるだろう。彼は第二次世界大戦以来、初めて、アメリカパワーの拡大に待ったをかけ、拡張主義的方針を翻したのである。度々、アメリカの軍事的関与は拡大してきた。アメリカの勢力圏は西ヨーロッパから環太平洋、イスラム世界、ユーラシアまで広がり、アフリカにおいてさえ、軍を展開する機会が増加した。抑制の方向に傾くトランプの考えは何も特別なものではない。世界的に広がったアメリカの管理プロジェクトに疑問を持つ、一般的なアメリカ国民と同じものにすぎないのだ。

しかしそれでも、トランプの考えに同調する人間が政権を占めているわけではない。多くはジョン・ボルトンのような人間である。トランプは政策決定クラスの間で尊厳を保つことを気にかけないかもしれないが、彼の下で働く役人の大半はそうではない。いかに尊敬されるかを気にする伝統的な人間だ。役人にとって、立派な外交政策というものは専門家による合意がとれたものである。彼ら役人は将軍かジョン・ボルトンが国家安全保障理事会の長になることを望んでいる。たとえ意に叶う役人がいなかったとしても、合意に沿って政策を進めるということが、トランプにとって最も簡単な方法だ。その方法を用いる結果として、政策方針を全く変えない場合、シリアとアフガニスタンから軍隊を撤退させたいという大統領の意思は、実現が遅れ、力を失うだろう。トランプはたった一人ですべての戦争を愛するテクノクラートを相手にしている。政府は選挙によってえらばれた大統領によってではなく、支配階級によって運営されているのだ。トランプが政府における支配的階級と非常に多くの点で対立する本当の理由は、彼が民主党や自由党だけでなく共和党や新保守主義のテクノクラートにも嫌われているからである。トランプはこの体制に挑戦する決意を露わにしている。

この点で、トランプはドワイト・アイゼンハワーとの比較に値する。第34代大統領の離任演説が「軍産複合体」という言葉を用いたことで、ハニゲンとエンゲルブレヒト、そしてナイ委員会が示した「死の商人」についての恐怖がアメリカに記憶に蘇った。アイゼンハワーは冷戦期のニーズを満たすための軍事武器産業の必要性を説いたが、軍産複合体のもたらす不健全な影響に対しても警告した。「連邦政府による雇用、プロジェクトへの資源配分、および財政力による我が国の研究者層への支配は常に存在しており、このことは深刻に受け止められるべきである。……しかしまた私たちは、科学研究とその発見を、当然敬意をもって扱うが、その際に公共政策それ自体が科学技術エリートの虜となるかもれないという、逆の危険性も警戒しなければならない」。1961年の時点ですでに、アイゼンハワーは民主主義がテクノクラシーに推され気味であることを認識していた。彼が知らなかったのは、冷戦終結後の数十年のうちに、テクノクラシーが次第にイデオロギーと化し、戦略的現実から切り離されるようになるという事実だった。

トランプは現実を認識することが大事であると主張する。それは父ブッシュ政権以来、アメリカが参加した戦争が自国の安全保障を改善せず、持続可能な「自由な世界秩序」を確立しなかったという現実、そして自国の国益をもたらしているようには見えない海外への遠征に、アメリカ国民が我慢の限界であるという現実である。外交政策の立案におけるトランプの反対派は、世界を作り直すためのリソースは無限であると思い込んでいる。理想の世界を作り出すためのアメリカの士気は、兵士と資金と同様に無尽蔵であると考えているのだ。一方のトランプは、実際にその戦争の対価を支払なければならないアメリカ人と同様に、アメリカがもはや限界に近づいていることを知っている。

トランプはバランスのとれた平和の大統領であるといえるが、同時に外交政策の抑制を望む大統領にできることの限界を示している。トランプが示すアメリカのグランド・ストラテジーの再編を続けるには、彼、あるいは将来彼のような大統領を支持するような階級、または反エリートという存在が必要になる。アイゼンハワーの離任演説から最初のペルシャ湾岸戦争に至るまで、政策決定を行う人々の中に現実主義者と過度の拡張主義への懐疑論者が含まれていた時があった。折よく、彼らは共和党内で特に影響力があった。トランプは新たに共和党の現実主義者を生み出すことはできないが、彼の軍の撤退に対する彼の極めて常識的な態度は、国民の議論の幅を広げ、定義し直した。そしてトランプは、「死の商人」が売る商品のことを、すばらしいアイデアとしてではなく、グロテスクな間違いと愚か者の夢にすぎないと宣言するリーダーの存在によって、その尊敬が打倒される可能性があることを示した。

トランプは、あえて不都合な真実を話すような男が、成功をおさめることができると証明した。すべての人がトランプと同じように行動できたら、どんなに素晴らしいだろうか。

ダニエル・マッカーシーは、Modern Age:A Conservative Reviewの編集者であり、The American Conservativeの編集主幹。

本日本語訳はThe American Conservative編集部の許諾を得て掲載しております。

投稿者:ダニエル・マッカーシー(DANIEL MCCARTHY)
翻訳者:May Sato
登校日:2019年2月25日
URL: https://www.theamericanconservative.com/articles/donald-trump-peace-president/?fbclid=IwAR1sNjkZ5qHV4dO4VNRwwLTohiW97GhDqVDg4Q44_6dGGZkmTeTVIUl-5Vc


The Urban Folks 編集部
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