シンギュラリティ(技術的特異点)シリーズ 第2回:シンギュラリティ概念の主要要素


今回は、数学者・SF作家であるヴァーナー・ヴィンジの論考「The Coming Technological Singularity: How to Survive in the Post-Human Era(来たる技術的特異点:ポスト人類時代を生き延びるには)、1993年」に基づいて、その後のシンギュラリティ論者の主張にも共通する「シンギュラリティ」概念の主要要素についてご説明します。本論考は、2003年に「TECHNOLOGICAL SINGULARITY(技術的特異点)」と改題した更新版が発表されましたが、大きな変更はなくマイナーな追記版でした。

ヴィンジは、「技術進歩の加速」により、人類を超える「超知能実体が創生」され、その結果として超知能主導による進歩の高速化によって『知的暴走』(『知能爆発』という論者が多いです)が起こることで、今後100万年に発生すると考えられていた発達が21世紀に起こる可能性があると論じ、この事象を「シンギュラリティ(The Singularity)」と名付け、その発現により、その後は大きな「未知数」になると論じました。(以下に各要素とそれぞれの関係を図示します。)

 

 

<シンギュラリティの主要要素と発現メカニズム>

また、創生される可能性のある超知能の形態および特徴を提示しました。(以下表参照)ここで注目すべきは、全形態について「意識がある」「覚醒した」超知能を想定したことです。これは現在「強い」という言い方で語られるタイプで、ヴィンジは「強い超知能」がシンギュラリティの必須要因と考えました。「強い」と対比される「覚醒していない」「意識がない」「知覚のない」タイプは「弱い」といわれます。これは既存の人工知能研究でも使われる分類ですが、「知能」「意識」とは何かが解明されていないため、これ以上の正確な定義は難しいのが現状です。

<超知能の形態と特徴>

ヴィンジは、AI(Artificial Intelligence:人工知能)より、むしろIA(Intelligence Amplification:知能増幅)(上記表の3番4番)の方が開発が容易で現実的であり、シンギュラリティへの人間の参加を可能にし、より安全であると考えました。シンギュラリティ発現の主要な基礎技術については、1993年の論考ではハードウェアの発展に注目していましたが、2003年更新版では「ハードウェアの実性能が上がっても,超人間的な動作をする仕組みはできないため、今後は,大規模ソフトウェアプロジェクトならびに、大規模ネットワークシステムおよび大規模並列システムへの生物的パラダイム適用,この2点の進展に注目すべきである」と追記しています。

「シンギュラリティ」が全く起こらないこともあり得る、あるいは「シンギュラリティ」発現により永遠の時間が得られ、最大の謎が解けるなど楽観的な捉え方を提示しながらも、現人類時代の終焉の可能性を論じ、それを避けるためには技術開発禁止やルール実装モデルなどが考えられるが、自動化の進化一歩一歩の競争上の優位性は絶大で、技術開発の禁止は単に他社がそれを最初に手にすることを保証するにすぎず、またルール実装モデルよりもルール無しの危険なモデルを開発される方が好まれるだろうと述べています。「シンギュラリティ」発現の時間枠について、「知能爆発」の1~2カ月(あるいは1~2日)には「ポストヒューマン時代」に入ると予想し、これが千年先であればよかったのだが、と吐露しているのが印象的です。

ヴィンジは現在も健在で、昨年10月トムソン・ロイターのインタビューで「今このテーマで論考を書くとしたら、変更する箇所はあるか」という質問に答えて「内容については今でも満足している」と答えています。そして、「技術的特異点」に匹敵する歴史上最も新しい出来事を挙げるとすると、動物界における人類の登場といえるとも語っています。これは、人類とは別の種として超知能が現れることを意味すると考えてよいでしょう。


佐々木健美
佐々木健美

情報セキュリティ・個人情報保護コンサルタント
慶応義塾大学文学部卒業(社会学専攻)、主にヨーロッパにてマクロビオティック料理を研究、帰国後翻訳・IT管理業務等を経て、現在情報セキュリティ・個人情報保護コンサルティング・翻訳・教育業務に従事。2014年4月米国シンギュラリティ・ユニバーシティにてエグゼクティブプログラムを受講

佐々木健美の記事一覧