2019年インド下院総選挙解説①


インド下院総選挙日程発表

2019年下院総選挙の日程がインド選挙委員会より発表された。インドの総選挙は4年に一度開催され、今回は4月11日~5月19日までの期間、全土で7つのフェイズに分けて実施される。開票日は4月23日に予定されており、モディ首相率いる現政権与党BJPが再選するか、野党コングレス(Indian National Congress – INC)が政権を奪取するかに大きな注目が集まっている。

 

【出典:ndtv.com】

2014年総選挙からの変化

2014年の下院総選挙では、BJPが単独政党で過半数以上の282議席を獲得し、近年にない歴史的大勝をおさめた。モディ首相は「メイク・イン・インディア」などのスローガンを掲げインドの経済発展、規制緩和、雇用創出などを約束していた。当時は圧倒的にモディ首相の人気は高く、野党INC党首ラフール・ガンディーと比較してその人気は突出していた。

しかしながらここ数年、モディ首相は「メイク・イン・インディア」を掲げて種々の政策を推進してきたものの、既存の農業とサービス産業を主体としたインド経済において、工業化を推進し十分な雇用を創出することは難しく、高い失業率に悩まされている。CMIE(Center for Monitoring Indian Economy)の発表する数値によると直近2019年3月では7%を超える数値となっている。尚、インド政府はここ数年失業率を発表しておらず、政府発表の統計数値は存在していない。また、本年の総選挙の前哨戦であった2018年のカルナタカ州選挙、5州議会選挙でもBJPは議席数を大きく減らし、モディ首相率いるBJPを取り巻く厳しい状況が結果として示された。

逆風の中のモディ政権の戦略

2014年の下院総選挙では、経済政策や改革期待を一身に背負い大きく議席数を増やしたBJPだったが、ここにきて期待に応える十分な結果を示すことができず、国民の不満は高まりつつある。また、ラフール・ガンディー率いるINCは、モディ首相への批判を引き続き強め、その他の野党を束ねて反現政権キャンペーンを展開している。BJPに対抗する野党の総数は最低21とも言われている。

それに対抗するモディ首相の選挙キャンペーンのテーマは、経済政策から安全保障へと推移している。2月に起こったパキスタン領内でのインド軍による空爆で、多数(”very large”)の過激派戦闘員を殺害したと発表するインド政府と、空爆による死傷者は一切ないとコメントしたパキスタン政府の発表に乖離があり、そこにインド政府の選挙戦を見据えた政治的な意図が透けて見えるように考えられる。

実際に以下のグラフでも、インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方プルワマにおける自爆攻撃を境に、有権者の関心が国家安全保障に推移し、失業率、所得・貧困の解消を上回っているのが見て取れる。

最後に

本年の下院選挙でモディ首相率いるBJPが苦戦するのは間違いない。一方で、ラフール・ガンディー率いるINCは、仏ラファール戦闘機調達に際しての、2014年モディ政権交代後の汚職など様々な政権批判を行っているが、確たる証拠に欠け決定力不足である。このままの形勢が続けば、BJPが議席数を減らしての勝利、野党の一部政党との連立政権という可能性が高い。しかしながら、いずれの政党が政権を担っても、雇用創出、農民の所得安定、工業化推進、宗教やカースト間対立の調整などの課題は避けて通れない。

また、印パ情勢は今回の選挙戦の情勢、今後の政治的なバランスにも左右されることになり、状況によってはインド政府はより過激な対応を迫られる可能性があるため、注視が必要となる。


鈴木慎太郎
鈴木慎太郎


米国公認会計士。SGC(スズキグローバルコンサルティング)代表。2010年5月よりニューデリー(インド)在住。40社以上のインド拠点設立、100社以上のインド・会計税務にかかるコンサルティングに従事。2016年よりスズキグローバルコンサルティングを設立し独立。日本企業向けにワンストップでインドの拠点設立・会計・税務・法務をカバーする総合コンサルティング事務所を経営。 URL: https://www.suzuki-gc.com

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