オープンガバメント通信第4回 「Yelpの事例に見る政府活動の実質化-」


(Yelpよりロゴ画像引用)

オープンガバメント通信第4回
「政府の活動は誰のために行っているのか -Yelpの事例に見る政府活動の実質化-」

前回、アメリカにおけるオープンガバメントの取り組みの中でも、オープンデータの推進において成果を上げていることを論じた。

公共機関によって提供されるオープンデータを活用することで、新たなビジネスが創出されることもあれば、既存のビジネスに新たな付加価値が付与されることもある。これまでは行政の中で閉じて利用されていたデータがオープンデータとして公開されることで、社会に新たな価値が生み出されるようになっているのである。

今回も具体的な事例を紹介したい。

様々な事例がある中で、日本でも紹介されるもののひとつとして、「Yelp」というサイトがある。
日本で言うところ「ぐるなび」の世界版と紹介されることもあるが、「Yelp」は2004年に開設された口コミサイトであり、その対象は飲食店に限定されない。飲食店の他に、「Arts & Entertainment」や「Hotels & Travel」、「Public Services & Government」などのカテゴリがあるのだ。対象の都市もアメリカの主要都市に限らず世界中に及び、日本でも東京と大阪が登録されており、世界最大級の口コミサイトであるとされている。

「Yelp」におけるオープンデータの利用は、飲食店の衛生状態に関する情報提供においてなされている。ユーザーが安全かつ安心に飲食店を利用出来るよう、口コミだけではなく、店舗の衛生状態に関して信頼出来る情報の提供を行おうとしているのである。そのために、サンフランシスコ市やニューヨーク市と提携して、行政機関が保有する飲食店の衛生検査データを得て、そのデータをサイト上で公開している。

実際に確認してみると、以下はサンフランシスコにあるスターバックスのとある店舗のページである。
https://www.yelp.com/biz/starbucks-san-francisco-294

写真の下の右側に、時間とメニューとある。そして、その下に「Health inspection 94 out of 100」という欄がある。ここをクリックすると、以下のページに進む。
https://www.yelp.com/inspections/starbucks-san-francisco-294

「January 19, 2018 — Routine Inspection」とあり、この1月18日に定期的な検査があったことが明示されている。そして、以下の二点の「Violations」、つまり違反があったことも明示されている。

Inadequate warewashing facilities or equipment
Inadequate and inaccessible handwashing facilities

これを見ると、洗い場や手洗い関係の設備に不適切な点があったことが分かる。提供される飲食物に直接影響があるような違反には思えないものの、手洗いなどは正しく行われるような環境は整えて欲しいところだ。

口コミサイトであることから、例えば「The Best 10 Restaurants in San Francisco」という一覧も掲載されている。

現在、ここで一番にあげられているのが「Fog Harbor Fish House」という店舗である。
https://www.yelp.com/biz/fog-harbor-fish-house-san-francisco-2?frvs=True

この店舗のページにアクセスすると、先のスターバックスの例と同様に、「Health inspection」の項目を見つけることが出来る。この店舗のこのポイントは「87 out of 100」と、先のスターバックスの例と比較すると低くなっている。その理由は次のページに進むと明らかとなる。
https://www.yelp.com/inspections/fog-harbor-fish-house-san-francisco-2

少し前の2017年11月の定期検査の結果が掲載されているが、違反項目が4つとなっている。
そのうちの二つは、以下のとおり。

Improper storage use or identification of toxic substances
High risk food holding temperature

不適切な食材の保存と有害物質の識別、さらにハイリスクな温度での食材の管理と、この店舗は魚介類を売りにしていることを考えると、訪れるのを少々躊躇するような違反項目があげられている。

もちろん、違反の指摘があれば、是正を行うものと思われるが、飲食店としては致命傷につながりかねない情報の公開がなされていると言えるだろう。

この衛生検査の結果の公開が各店舗の売り上げに影響しているのかどうかは不明であるが、少なくとも衛生面を気にする消費者は上に紹介したような違反事項を見て、別の店舗を選ぼうということになるはずだ。このことから、少なからずの影響があるものと思われる。

このことをもって、オープンデータの利用方法としては不適切ではないかという声が当然に上がりそうなところである。実際、日本では、そもそもその種のデータの公開は進んでおらず、「Yelp」の東京版と大阪版を見ても、衛生状態に関する情報提供が行われている様子はない。

しかし、そのような衛生状況の検査を行っていないのかと言えば、そうではない。例えば東京都では「夏の食品衛生一斉監視」が実施されている。
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/05/29/11.html

その結果は中間速報が以下で公表されている。
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/08/29/06.html

焼き肉店での監視指導など、個人的にも気になる記述が速報の中には見つけられる。そして、最終的な報告などは、「食品衛生関係事業報告」として、以下で公表されている。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/foods_archives/publications/foodDygiene/index.html

東京都として実施すべきことを実施し、その結果を公表するということについて抜かりはないと思うが、これまで通りに決められた仕事を行っているだけという印象を拭えない。

東京都でのオープンデータの取り組みは若干の出遅れていたところ、特に小池知事の就任以後、それが重点的に推進されるようになり、手の込んだカタログサイトも開設されるに至っている。ただ、こちらで検索しても、上記の中間速報や事業報告を見つけることは出来ず、それらはオープンデータという扱いにはなっていないものと思われる。

参照:東京都オープンデータカタログサイト
http://opendata-portal.metro.tokyo.jp/www/index.html

飲食店の衛生状況は一利用者として見た時に、出来れば参考にしたい情報である。どんなに美味しい料理が提供されていたとしても、不衛生な状況で調理されたものは出来るだけ避けたいところだ。そして、まさに私たちが知りたいと思う衛生状況に関する情報を、行政は既に保有している。

衛生状況の検査は行政の自己満足のために実施しているわけではない。飲食店などの衛生状況を検査することで、飲食物に起因する衛生上の危害発生を防止し、人々の健康保護を図ることを目的としいるのである。検査の結果について出来る限りの周知を行うことが求められている。

そのような前提があるからこそ、多くの人が知りたい思う情報を集め、それを的確な場所に配置することで、「Yelp」は新たな付加価値を創出しているのである。そして、政府の活動を実質化するという意味において、政府の活動を側面から支援しているとも言えるのである。

なお、「Yelp」は、オープンデータに関するポータルサービスの提供などを行いオープンデータ業界のリーディングカンパニーとも目されている「Socrata」と連携して、衛生検査データの公開の普及のための活動も行っている。https://socrata.com/

かように、公共機関によるオープンデータの実施を契機に、企業間の連携も生起し、さらなる付加価値の創出も見られるようになっているのである。

政府の活動として、これまでも実施されてきたことであっても、そのデータが公開されることによって、その活動が実質化されたり、新たな価値の創出につながったりもする。この胎動があらゆる場面や場所で生じるようになったことが、オープンデータの推進の真の成果であると言えよう。

第一回
「オープンガバメントの登場」
第二回
「オープンガバメントをめぐる組織体制の整備」
第三回
「オープンガバメントの代表的な成果としてのオープンデータ」


本田正美
本田正美


東京大学法学部卒、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。島根大学戦略的研究推進センター特任助教を経て、現在、東京工業大学環境・社会理工学院研究員、東京大学大学院情報学環セキュア情報化社会研究寄附講座客員研究員。専門は、社会情報学・行政学。電子政府に関する研究を中心に、情報社会における行政・市民・議会の関係のあり方について研究を行っている。

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