東京大改革の今・第3回 ライフワークバランスで働き方改革のモデルになれるか?


ライフワークバランス、この奇妙な用語は価値観を示している。ライフがワークより優先されるべきだという発想。閉塞する日本社会の新しい価値観を提起した小池都知事はこうしたセンスは凄い。東京都庁のライフワークバランスはどうなっているのか。小池都知事の号令で「午後8時に帰れ」ということで都庁職員が帰るようになったことも事実である。東京都庁の残業実態は「東京都人事行政の運営等の状況について」(28年度、29年度)を見てみると詳しく載っている。

そんなに働かれても・・・・

都庁の一般行政職、つまり公営企業とか学校の先生とか技術職とかではない、一般的な職員に限ってみると

□支給実績
◇27年度普通会計決算:51,394,307千円
◇28年度普通会計決算:53,434,126千円

□職員1人当たり平均支給年額
◇27 年度普通会計決算:345 千円
◇28 年度普通会計決算:355 千円

職員1人あたり35.5万円、月平均にすると2.9万円といったところか。「534億円」となると「膨大」という印象だが、職員1人あたりにするとそれほど大きく見えない。このお金はどこから出るのか?もちろん税金だ。都税納税義務者はだいたい651万人なのでこの数字で割ってみると都民1人当たり8200円くらいになる。

自治体の方はみなさん真面目でいい人なので、過剰にやりすぎの面もある。特に東京都は大きい組織であり、そこそこ余裕があるので、その傾向がありがち。例えば、イベントにしても仕事がしっかりしていて、非常にレベルも高いことも多いので(著者実感)、職員がそもそも「これ必要?」「民間にやらせれば?」と思うこともないだろう。逆を言えば、残業を制限しないと、頑張ってしまって、無限に仕事が増える。困ったものだ。

そんなに働かないでくれ!というのが本音。無駄な事業は残業0にして欲しいと思うが、事業廃止や業務の見直しには都庁も慣れていない。

・業務をやらない提案→上司NO
・業務をやらない提案→上司YES→情報が関係者に行く→議員が文句をいってくる→撤回

こんな構造もこれまでは見られたと推察する。こうして普通の納税者の期待とはかけ離れた都政ができあがるわけだ。

それに切り込むのが小池都知事と都政改革本部の「東京大改革」。現在の改革を評価しているが、専門家としては今後、
・過剰なサービスを見直す
・業務時間を明らかにする
・ネットで済ませる取り組みを開発する
・都民にできるだけ自分でやってもらうように促す
などが今後行われていくことを期待したい。

なんなの「ライフワークバランス」って?

小池都政で出てきたのが「ライフ・ワーク・バランス」実現のためのプロジェクトチームが報告書を出している。進め方は、職員アンケートをとって、困っていること、改善点をあぶりだすというオーソドックスなやり方。ワークライフバランスの具体的な活動については以下の図1を見るとわかる。

【図1】

(出典)都庁ライフ・ワーク・バランス実現 プロジェクトチーム報告書、P16、「ライフ・ワーク・バランスの実現に向けたこれまでの取組」 P16

この中でも2つの取組が秀逸である。
・都庁KA・E・RUタグ運動
・フレックスタイム制の試行
特に、フレックスタイム制は「総務局内で試行実施。4週間の範囲で勤務時間を調整、週休3日も可。 1年単位の変形労働時間制を国へ要望」これは素晴らしい。自治体でもフレックスタイム検討は進みつつあるが、ここまで本気なところはそれほど多くはない。

あと、行革の専門家として取り上げたいのは「360度 フィードバック(マネジメント・レビュー)」。今年度から本庁の課長級職員を対象に実施している360度フィードバック(部下や同僚が管理職の姿勢や行動をフィードバックする取組)について、本庁における実施状況を検証し、必要な準備等を行った上で、出先事業所への拡大を検討する」とある。
360度フィードバックについては

□メリット:
・複数の社員が評価に関わるため、客観性確保
・多面的に見られ、新たなことが明らかになる可能性
□デメリット:
・上司に気兼ねしてしまい、本音を言いづらい
・不信・人間関係悪化の可能性も
・労力がかかる
・運用が大変

ものであるが、これはよい。なぜなら、人事評価での反映をしないと推察されるからだ。人事評価においてこれをやるとデメリットが目立つが、人事評価に反映される度合いが薄ければ職場のコミュニケーション増大で効果的だ。自律改革を支える。

業務改善は要努力、もうちょっと頑張って

業務改善としては以下図2のような方向性を進める模様だ。

【図2】

(出典)都庁ライフ・ワーク・バランス実現 プロジェクトチーム報告書、P6、「ライフ・ワーク・バランス実現に向けた課題への対応」

中でも、
・ペーパレス
・キャッシュレス
・改善意見のトリアージ(緊急度を明らかにする)
はしっかり進めている。そして、各局の自律改革とも連動している。民間企業にとってみればまったくもって真新しいものもないが、過去の都政から見て、かなりの成長である。

しかし、3つの「ない」も指摘できる。
・改善成果目標(数値)がない
・業務時間削減効果が「見える化」定されていない
・この働き方改革にどれだけ時間がかかったか見えない

そこはもうちょっと努力してほしい。豊田市をはじめとする先進自治体では7年以上前からそうした取り組みを行っているのであるから。


西村健


人材育成コンサルタント、NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、一般社団法人日本経営協会講師、未来学者。 慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア入社。 その後、日本能率協会コンサルティングで行政・民間の業務改革、能力開発を支援してきた。独立後、プレゼンテーション向上、人事評価制度構築・運用、キャリアカウンセリングなどのコンサルタントとして活動中。

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