政策シンクタンク論・第5回 自民党シンクタンクでの試みと挑戦(その2)


1.はじめに

「シンクタンク2005・日本」は、第一次安倍政権の成立と運営に貢献したが、その後党内のサポータが激減する中、その後の安倍政権は、復党問題や様々なスキャンダルで内閣支持を急激に下落させ、総理が病気で退任することになった。
しかも、その後、福田康夫政権そして麻生太郎政権となり、自民党は国民の支持を回復できず、党の執行部が何度も代わると共に、政権交代が叫ばれる中、選挙活動に躍起になり、党内では同シンクタンクへの関心も愛着の次第に低下していくことになった。

2.政策マーケティングの試み

そんな中でも、「シンクタンク2005・日本」は、諦めずに、何とか党から予算を獲得して、研究プロジェクトを実施し、党へのインプットを行ったのである。
当時は、自民党は政権を失うかもしれないという死活問題の状況にあった。その時に、従来のような純粋な政策的なインプットをしても、党に受け入れられないと考えて、選挙にも役立つ政策インプットが良いのではないかと考えた。

またその頃にはすでに小選挙区制が定着し、従来からの行政を中心としたあるいは業界等からの情報の集約と政策形成、また中選挙区制時代の議員を通じた民意理解の手法では、民意を適切に把握して政策を形成したり、その政策などを国民や有権者に的確かつ適切に伝えていく上で、十分に機能しなくなっていた。その意味で、政治や政党は、小選挙区制における民意把握の新たなる手法を開発すべきだったのだが、出来ていなかった。その新しい手法になりうる試みができないかとも考えたのである。

最近では世論調査等が頻繁に行われるようになってきたが、実はそれだけでは十分とはいえない。それは、世論調査は、飽くまで決めつけで民意を聞くものであり、民の立場から民意を正確に聞こうとするものではないからだ。それよりもむしろ、ビジネスのマーケッティングの手法を政治に活かす「政策(あるいは政治)マーケティング」的手法を用いて、決めつけでない形で、選挙区ごとによりきめ細かく選挙情勢や民意の把握を行い、それらの継続的で情報収集と分析を実施し、それらに基づいて政策づくりをしたり、選挙の戦略や戦術を構築していくための新たな手法や仕組み(注1)の必要性があると考えたのである。

3.逆境の中の研究プロジェクト

上記のような状況認識から、「シンクタンク2005・日本」は、「プロジェクト橋川家」、「選挙勝利ナビ100」および「民意把握プロジェクト」等を行った。

それらのプロジェクトを通して、政治や政党の側からではなく、有権者・住民の視点から選挙区毎の政策や政党支持についての分析を行った。その結果として、選挙区毎に政策の優先順位が明確に異なること、議員(候補者)と有権者・住民との間の政策のズレの存在、自民党への不満と反感および民主党への支持の高まり、自分達の考えが聞き入れていないという有権者の不満の存在、などがあることが明確にわかった。そして、それらの現状を変えていくためのいくつかの提案やアドバイスも行った(注2)。

上記のような手法と成果は、当時としては(そして多分現在も)画期的で斬新であった。しかし、そうであるがゆえに、一部の議員には活用され、選挙でも活かされたが、残念ながらその成果が党全体で理解され、共有されたとは言えなかった。

いずれにしろ、これらの活動は、選挙にも貢献できる政策研究として、シンクタンク、特に政党シンクタンクの活動として、今後また注目を集めることができるのではないかと考えている。

4.「シンクタンク2005・日本」の意味

「シンクタンク2005・日本」は、多くの壁に阻まれ、その設立も運営も非常に困難を極めた。そして、自民党が野党になり、ますます擁護してくれる議員は減り、財政を含めた運営が厳しさを増し、2011年2月をもって正式に解散した。

同シンクタンクは、実際の活動期間は5年弱であり、予算的にも絶えず非常に厳しかったが、政党シンクタンクとしていくつかの新しい試みと挑戦を行い、新しい政策研究の可能性にも果敢にチャレンジできたといってもいいのではないかと思う。

読者の方々からのフィードバックやコメントも、是非ともいただきたいところだ。

(注1) 残念ながら、そのような「政策(政治)マーケティング」の活動は、日本では現
在もほとんど行われているとは言えない。
(注2)それらは、党内の反対もあり、受け入れられなかった。


鈴木崇弘
鈴木崇弘


城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科教授および「教育新聞」特任解説委員。宇都宮市生。東京大学法学部卒。マラヤ大学、イースト・ウエスト・センター奨学生として同センターおよびハワイ大学大学院などに留学。東京財団の設立に関わり同財団研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党の政策研究機関「シンクタンク2005・日本」の設立に関わり同機関理事・事務局長、法政大学大学院兼任講師、中央大学大学院公共政策研究科客員教授、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)事務局長付、厚生労働省総合政策参与などを経て現職。91年―93年まで 米アーバン・インスティテュート兼任研究員。PHP総研主席研究員、日本政策学校代表、Yahoo!ニュースのオーサーなども務める。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。主な著書・訳書に『日本に「民主主義」を起業する…自伝的シンクタンク論』(単著)、『学校「裏」サイト対策Q&A』、『世界のシンク・タンク』(共に共編著)、『シチズン・リテラシー』(編著)、『アメリカに学ぶ市民が政治を動かす方法』(監共訳)、『Policy Analysis in Japan』(分担執筆)など。現在の専門および関心分野は、公共政策、民主主義の起業、政策インフラの構築、新たなる社会を創出していける人材の育成さらに教育や統治における新システムの構築。

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